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躍進企業REPORT

北東工業:水なし印刷技術採用で新展開 〜 JapanColorで品質管理を水平展開

印刷ジャーナル 2013年5月25日
関連メーカーの技術を結集(左から 東レ・藤井悦生氏、東條社長、桜井グラフィックシステムズ・桜井隆太社長、都インキ・山本満氏)
6月下旬に納入予定のオリバー496SD

 大阪のクリエイティブ業界、印刷関連企業のための「安心の生産工場」を目指す一方、「安心のインターネットプリンター」をコンセプトとした印刷通販サイト「プリントビズ」を通じて全国展開する北東工業(株)(本社/大阪市中央区上町1-19-4、東條秀樹社長)では今年、オフセット印刷サービスを支える生産工程において水なし印刷技術を採用することで、品質精度や作業性の向上に成功。JP2013情報・印刷産業展では、関連機資材メーカー5社による強力なバックアップ体制のもと完成したこの水なし印刷システムを桜井グラフィックシステムズブースで公開し、大きな注目を集めた。

新しい水なしインキ開発を都インキに依頼

 「安定した高品質を、圧倒的な瞬発力で...」。常に最新鋭の生産技術・設備を取り入れることでプロの要求に対して高い次元で応えてきた同社の経営思想は、この言葉に集約される。
 そしていま、このコンセプトに沿った「ものづくりへのこだわり」をさらに高いレベルで具現化するため、経営資源(人・物・情報・技術)の可能性を最大限に引き出すべく、新しい布陣へとメタモルフォーゼ(変態)することを宣言している。今回、同社が全面採用を試みる水なし印刷技術への挑戦もそんな姿勢を形にしたもののひとつだ。
 きっかけとなったのは、埼玉県戸田市にある(株)ウエマツ(本社/東京都豊島区南長崎3-34-13、福田浩志社長)の工場視察だった。ウエマツでは、北東工業でも2台稼働している菊全判両面8色機「J-Print」を水なし化することで、両面機の機構に起因する欠点を克服していた。これを目の当たりにした東條社長は、その場で水なし印刷技術の採用を決断する。
 直ちに同社の主力マシンである「J-Print」の水なし化に着手するわけだが、そこで東條社長はもうひとつの挑戦を決意する。それはインキの選択である。
 同社で使用するインキは、すべて都インキ(株)(本社/大阪市鶴見区放出東1-7-13、原田邦夫社長)から供給を受けている。しかし、当時は都インキの製品ラインナップには水なしインキはなかった。そこで東條社長は、永年きめ細かな対応で絶大な信頼を置く都インキに新しい水なしインキの開発を依頼した。
 「協力いただいた他の機資材メーカーからも実績のない新しい水なしインキの採用を不安視する声があったが、都インキは見事に我々の要求に応えて素晴らしいインキを、しかも2ヵ月足らずという短期間で開発してくれた。協力メーカーの技術者からも非常に高い評価を得ている」(東條社長)

多面付け時の見当精度向上

 昔から「水を制するものは印刷を制す」と言われる。水なし印刷は、印刷の不安定要因でもある湿し水が不要なことから、インキの乳化がなく、網点の再現性に優れると言われている。またファンアウトの発生が抑えられるため高精細な美しい仕上がりの印刷物が得られる。
 桜井グラフィックシステムズ、東レ、富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ、都インキ、光文堂の関連機資材メーカー5社とプロジェクトチームを結成し、10年選手である2台の「J-Print」を水なし化で見事に甦らせた同社でも、これらのメリットが顕著に表れている。とくに印刷通販ビジネスを展開する同社にとって多面付け時の見当精度向上は、品質はもちろんのこと、オペレータの作業性向上にも大きく貢献しているという。
 一方、オペレータが湿し水の調整によって印刷をコントロールすることができないということは、印刷機が常に整備された状態でなくてはならない。「印刷機のメンテナンスが唯一の絶対条件となるが、逆にこれによってオペレータが印刷機を熟知する必要が生まれ、メンテナンスの重要性が工場全体に浸透したことは、当社にとって副産物でもあった」と東條社長は話す。

ジャパンカラーは品質管理を水平展開するための「物差し」

 同社では今年1月、桜井グラフィックシステムズのLED-UV乾燥装置付き菊半裁4色機「オリバー466SD」を導入し、薄紙や乾燥適性の低い紙でも短納期対応を図れる生産ワークフローも確立している。
 この新鋭機のオペレーションには、17歳の新人社員が起用された。同じく同社は一昨年にも桜井グラフィックシステムズの菊全機を導入しているが、この時も同様、新入社員であった女性に同機を預けたという。いずれもいまやメインオペレータへと成長している。
 「経験ではなく教育で人を育てる会社にしたい」という東條社長の思いがここに表れている。もちろん、社内のオペレータの層が厚いからできる試みだが、「印刷技術の継承」ということを考えた場合、非常に興味深い試みではないだろうか。
 さらに同社では、富士フイルムグローバルグラフィックシステムズの全面的な技術協力を得て、ジャパンカラー認証取得に挑戦。すでに標準印刷認証、プルーフ運用認証を取得済みで、現在マッチング認証に取り組んでいる。「全社を挙げて水なし印刷に取り組んでいる当社にとって、ジャパンカラーは徹底した品質管理を水平展開するための物差しとして機能させていきたい」(東條社長)

世界初、水なしLED-UV印刷にも挑戦

 JP展の桜井グラフィックシステムズブースに展示されたのは、水なし印刷仕様の菊全判4色機「オリバー496SD」。6月下旬の北東工業納入を前に公開運転が行われた。
 「水なし印刷は約35年前にひとつのブームを迎え、約20年前には環境ブームに乗って再び脚光を浴びたが、その後、撤退した印刷会社も少なくない。しかし昨今では、機資材が大幅に改良され、当社でも簡単に立ち上げることができた。JP展ではそんな現状を知ってもらいたかった」と東條社長は業界の活性化に向けた特別な思いを語っている。
 水なし印刷とLED-UV印刷という新しい技術武装で「北東イズム」とも言える「安定した高品質、圧倒的な瞬発力」を追求する同社。現在、水なしLED-UV印刷実現に向けたプロジェクトも立ち上がっている。これが実現すれば世界初の快挙となることから、今後の動向に注目したい。