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​ 2014年3月24〜29日の6日間、国際4大機材展のひとつであるIPEX2014が英国・ロンドンのEXCeL Londonで開催された。出展企業数はおよそ400社、期間中に開催されたセミナー数は115と、4大機材展にふさわしい規模であった。しかし今回、ハイデルベルグやKBA、マンローランド、HP、コダック、アグフア、キヤノン、リコー、ミヤコシなど、主要印刷機材メーカーがIPEXへの出展を見合わせた。また、小森コーポレーションやゼロックス、大日本スクリーン製造など、出展した主要メーカーの中にも今回のIPEXをローカル展と位置付けているところも見受けられ、こうした状況も影響し、来場者数は2万2,768人と前回の半分以下となった(2010年は5万0,322人)。

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IPEX2014レポート(2)
IPEXに見るサービス・ソリューション・機材の最新動向

ブライター・レイター 山下 潤一郎 氏

印刷ジャーナル 2014年5月15日号掲載

 IPEX会場や現地印刷会社の取材を通して、英国印刷市場では以下のような取り組みを通じて価格競争を抜け出し、売上・利益増大が進められている状況が見えてきた。

▽最終製品としての印刷物を提供すること
▽シール・ラベル分野のデジタル印刷化
▽「選択と集中」を進めること

 ここでは、これらの取組みを促進する、IPEXで見られたソリューションや機材の最新動向を紹介する。

最終製品としての印刷物を提供すること

 日本市場において、印刷物発注企業から求められるものが「インク・オン・ペーパーの作業」から販促物など「最終製品としての印刷物」へと変化しているが、今回の取材を通じて英国市場でも同様のトレンドが見られることが明らかになった。
 印刷会社の顧客である印刷物発注企業、またその顧客(印刷会社からみれば「顧客の顧客」)にとって魅力的な印刷物を提供すること。これを支援するためのソリューション・機材として、会場で大きな注目を集めていたのは、「end-to-endソリューション」「B2サイズデジタル印刷機」「バリアブル後加工機」の3点。

【end-to-endソリューション】
 印刷物発注企業やその顧客にとって魅力的な印刷物を提供するためには、企画やデータ作りといったプリプレスの工程からプレス、そしてポストプレス(後加工)まで、工程全体が有機的に繋がるend-to-endの仕組みが必要不可欠である。今回のIPEXで最大のブースを構えたコニカミノルタと2番目に大きなブースだった富士フイルムにおいて、そうした仕組みを実現するソリューションが積極的に紹介されていた。
 コニカミノルタブースでは、Web to Printやクロスメディア/マーケティングオートメーションといった上流工程のシステムに加えて、出版やトランスプロモ、フォトグッズなどのアプリケーション別に印刷機と後加工機を組み合わせたソリューションも展示されていた。
 例えば、モノクロデジタル印刷機「bizhub PRESS 2250P」とWatkiss社の中綴じ後に角背に整形する後加工機「PowerSquare Bookletmaker」をインライン接続したオンデマンド出版ソリューションは、世界初披露であった。コニカミノルタによれば、より多くの後加工機メーカーにこのインターフェイスを採用してもらうよう、これから積極的に働きかけていくとのことだった。
 コニカミノルタブース内に設けられた「ビジネスショーゾーン」では、end-to-endの仕組みの価値をより高めたり、効率的・効果的に運用したりするための考え方やノウハウを紹介するセミナーが連日開催された。セミナーのテーマは業態変革、マーケティング、カラーマネジメント、グリーンプリンティングなど多岐にわたった。
Watkiss PowerSquare Bookletmaker
コニカミノルタ bizhub PRESS 2250P
 富士フイルムは、会場で毎日配布された冊子「IpexDaily」の印刷・加工を通じて、同社のend-to-endソリューションを紹介した。IpexDailyの記事はPrintWeek誌の記者が書いていたが、午後に富士フイルム「XMF Remote Job Submissionシステム」を通じて印刷用PDFデータをアップロード。XMFワークフローサーバーに送られ、自動的にサーバー上で面付けされる。
 その後、XMFワークフローによりRIP済みファイルがJet Press 540Wに送られ、毎日14時30分から富士フイルムブースで5000部を印刷(印刷時間62分)、ブース内に設置されたホリゾンのStitchLiner6000などで断裁・中綴じ後に配布された。
 なお、今回配布されたIpexDailyは、A4サイズ、フルカラー、16ページ、中綴じの冊子である。

Lasermax Unwinder +ホリゾンStitchLIner 6000IpexDaily編集部<br />
JetPress 540W
【B2サイズデジタル印刷機】
 IPEX2014でも、drupa2012以降大きな話題となっているB2サイズデジタル印刷機が注目を集めた。
コニカミノルタ KM-1
​ コニカミノルタブースに設置されたB2サイズ枚葉インクジェット式デジタル印刷機「KM-1」は英国で初披露ということもあり、そのデモにはたくさんの人が集まっていた。しかし、今回も印刷サンプルの配布はなかった。
 これに対し、前回のIPEXにも出品された富士フイルムのB2サイズ枚葉インクジェット機「Jet Press 720」は、様々なデモを通じてアプリケーションの幅の広さや生産性の高さを訴求していた。
 例えば、会社案内の表紙をJet Press 720、本身をJet Press 540Wでそれぞれ印刷して製本するデモや、ポスター、写真集、カレンダー、グリーティングカード、パッケージを生産するデモなど、毎日27の様々な用紙を使う印刷ジョブが行われた。Jet Press 720の1ジョブ当たりの印刷枚数は、最小15枚、最大1,680枚で、1日に合計約6,700枚を印刷、合計稼働時間は8時間の開場時間のうち約4時間45分だった。
富士フイルム JetPress 720
​ 実機の展示はなかったが、Xeikonがdrupa2012で発表した最大用紙幅約500ミリの液体トナー機「Trillium(トリリウム)」の1号機が、今年の後半にフランスのDM・帳票印刷会社のTagG Informatique社に導入されることがIPEX期間中に発表された。TagG社はDM市場向けのβテストサイトで、2015年には書籍・雑誌市場向けのβサイトにも設置される計画となっている。
 ところで、昨年末にLanda社が同社のインクジェット機「Landa Press」をB1サイズのものから発売することを発表。また、IPEX終了後のことであるが、ハイデルベルグがB1サイズのインクジェット機を開発・発売することを発表した。一方、drupa2012会場でHP社の技術者に確認したところ、HPもB1サイズのIndigoを開発・発売できる技術は既に持っているとのことであった。再来年開催されるdrupa2016は、「B1drupa」となるかもしれない。

【バリアブル後加工機】
 最終製品としての印刷物の効果や価値、魅力を高めることに貢献する機材として、1部ずつ異なる後加工を可能にするバリアブル後加工機も注目されていた。drupa2012やJGAS2013では、ホリゾンなどがバリアブル製本のソリューションを展示していたが、今回は商業印刷分野向けのバリアブル後加工機が多く目に付いた。
例えば、インクジェットで1部ずつ異なるパターンでクリアニスを印刷できるオンデマンドニス印刷機。会場には、Scodix社(イスラエル)のUltraやMGI社(フランス)のJETvarnish 3Dなどが展示されていた。MGI社は、JETvarnish 3Dとインライン接続する高速バリアブル箔押し機「iFOIL」も併せて紹介していた。
 MGI JETvarnish 3DはB2サイズ対応だが、A3対応のオンデマンドニス印刷機「MGI JETvarnish 3DS」もMGIとコニカミノルタの両ブースに展示されていた。これは、コニカミノルタがMGIの株式を10%取得していることによる。3DSは今回が初披露で、欧州市場で今秋の発売を目指していることから、会場で積極的に来場者の意見を集めていた。なお、3DSの日本市場での販売開始時期は未定である。
​ TheMediaHouse社(ドイツ)は、1部ずつ異なるミシン目、ハーフカット、ダイカットなどの加工ができるデジタル高速レーザーシステム「MotionCutter(モーションカッター)」を大日本スクリーンブースで紹介していた。MotionCutterの最大の特徴は生産性の高さで、最大毎秒6メートルの速さでカットでき、最大毎分40メートルの速さで用紙を搬送できる(最大B2サイズの用紙に対応)。
 TheMediaHouse社は、昨年のクリスマスにおよそ150万通のクリスマスカードをMotionCutterを使って生産・送付した。それぞれのクリスマスカードには受け取った人の名前がレーザーで入れられており、またその部分を切り取って円筒形にすることができるようにも加工されている。そして、その筒の中に火の付いたロウソクを置くと名前が壁に投影される、という仕掛けになっている。
 TheMediaHouse社によれば、このカード1枚の加工料はおよそ35ペンス(約60円)。バリアブル後加工機を活用して印刷物の魅力を高めることは、印刷会社の売上・利益増大につながる。なお、MotionCutterの現地価格は、およそ20万ユーロ(約2,900万円)である。
昨年のクリスマスにMotionCutterで加工・送付したクリスマスカード
シール・ラベル印刷のデジタル化

 昨秋、ベルギー・ブリュッセルで開催されたラベルエキスポヨーロッパ2013は出展社数・来場者数とも過去最高を記録したが、デジタル印刷ソリューションが大きなトピックのひとつだった。今回のIPEXでもラベル分野に対する注目の高さを示すように、様々なソリューションが展示された。
 実際、デジタルラベル印刷への投資は進んでいる。IPEX期間中、英国ラベル・パッケージ印刷会社のSpringfield Solutions社による大日本スクリーン製造のUVインクジェット式デジタルラベル印刷機「TruepressJet L350UV」の導入が発表された。Springfield Solutions社は既にHP Indigoでラベル印刷サービスを提供しているが、TruepressJet L350UVの導入によって生産能力と生産性を高め、また新たな商材を開発することを意図している。
 またIPEXでは、デジタル印刷サービスで売上を大きく伸ばしているCS Labels社(英国)によるセミナーも行われた。同社は3台のXeikon社製デジタル印刷機(3300を2台、3500を1台)を活用して様々な種類の「デジタルラベル」を生産する、社員数およそ10名の印刷会社。2008年にデジタル印刷機を導入して以降、同社の売上高は順調に拡大し、現在では2008年のおよそ3倍となっている。
 CS Labels社がデジタル印刷サービスを開始した理由のひとつに、ジョブの小ロット化が進んでいたことがある(同社の売上の70%は2,000メートル以下のジョブだった)。また、デジタル印刷機導入前はフレキソ印刷サービスを提供していたが、他のフレキソ印刷会社と品質で差別化できなくなっており、フレキソを使ったサービスで付加価値を高めたり、売上を伸ばしたりできる余地はほとんどなかったことも理由だった。
 CS Labels社は、小ロット・多品種の仕事を低いコストでできることや版代が不要なことなどを訴求するのではなく、顧客企業のブランド強化に貢献できることや規制変更に柔軟に対応できることなど、「デジタルラベル」の顧客にとっての意味や価値を訴求することで、デジタル印刷サービスの売上を拡大している。
 同社では、例えばデジタルラベルとAR(拡張現実)を組み合わせることで顧客企業とその顧客の距離を近づけ、「顧客の顧客」のブランドロイヤルティを高めるサービスなどを提供している。
 IPEX会場では、デジタル印刷機と後加工機をインラインで組み合わせたソリューションが様々なブースで提案されていた。例えば、コニカミノルタブースでは、フルカラートナー式デジタル印刷機「bizhub PRESS C70RLC」とミヤコシ製のラベル用レーザー加工機を組み合わせたソリューションが紹介された。
コニカミノルタ bizhub PRESS C70RLC
​ 富士フイルムブースでは、昨秋発表された5色機(CMYK+白インク)のUVインクジェット式デジタルラベル印刷機「Graphium(グラフィウム)」にフロントエンドと後加工機を組み合わせたラベル市場向けのend-to-endソリューションが展示されていた。フロントエンドはEEFI社のRealPro Tootkitソフトウェア、インラインでニス加工、ダイカット、スリット、カス上げといった加工機を組み込み、バリアブルのシールを印刷・加工するデモを行った。
富士フイルム Graphium(グラフィウム)
「選択と集中」を進めること

 顧客ごとの利益率や、自社で提供している印刷物・印刷サービスごとの正確な利益率を把握すること。これも印刷会社が「選択と集中」を進める際に重要になる。IPEX会場には、印刷会社の選択と集中を支援する様々なMISが提案されていた。
Optimus
​ 英国MISソフトウェア会社のOptimus社は、MISに蓄積されているデータをもとに、顧客ごと・商材ごとの売上や加工高、利益率などをグラフで「見える化」できる機能を持ったOptimus dash Sales Generatorを紹介した。Optimus社はさらに、選択された集中すべき顧客とのコミュニケーションを良くするため、顧客との取引状況や問い合わせを一元管理できるOptimus Customer Serviceや、iPadなどモバイル機器を使って外出先からも対応できるOptimus Cloud Mobileも展示していた。
 顧客対応力を高めるためには、MISをWeb to Printやワークフロー、CRM(顧客管理)などのシステムと統合することが有効なのだが、英国市場ではこうしたシステムの統合も進んでいる。この背景には、印刷会社の顧客である印刷物発注企業からの要求がある。
 英国の印刷会社の間に、印刷機材を持たずにサービスを提供するという「選択と集中」の形も広まっている。現在、英国では印刷機を持たずに印刷の仕事を受注するプリント・ブローカーが急速に増えており、その数を3,000社〜4,000社くらいと推定する業界関係者もいる。これは、とくに規模の小さな印刷会社が新たに機材を導入するのを止めて、プリント・ブローカーに転じているためである。
 こうしたトレンドを受け、会場にはプリント・ブローカー向けのMISも紹介されていた。これはTrade Only社(英国)のTransActionという製品で、印刷会社に発注した印刷物や印刷物発注先などの管理といった、プリント・ブローカーに必要な機能がすべて含まれるという特徴を持つ。






ブライター・レイター 山下 潤一郎 氏

戦略系経営コンサルティング会社、情報通信機器メーカー・インターネット企業の市場調査部門、デジタル印刷市場調査会社などを経て、印刷会社の戦略立案・実践や新規印刷サービスの立上げを専門とするコンサルティング会社ブライター・レイターを設立。訳書に「未来を破壊する」(アスラン書房)