英国印刷業界団体のBPIF(British Printing Industry Federation)が今年1月に実施したアンケート調査結果によれば、印刷会社の55%が事業の現状について「伸びている」と回答、また「横ばい」という回答した印刷会社も35%を占めた。しかし、回答企業の平均売上高利益率は約4%となっている。この結果から、英国の印刷会社は、売上は伸びているが利益率が高まらないという課題に直面していることが伺える。
こうした現状を打破するため、英国の印刷会社は同レポートで紹介したものに加えて、以下のような取り組みも進めている。IPEXでは、これらの取り組みに貢献する機材やソリューション、サービスも数多く展示されていた。
▽海外需要の取り込み
▽顧客企業のブランディングに貢献すること
▽自社サービスのブランド化
▽印刷物が「手許に届く」ところまでを意識すること
ところで、SNSやオムニチャネル、O2O、ビッグデータといった言葉は、セミナーを含め、会場でほとんど見かけなかった。また、ARなどスマートフォンやタブレット端末を絡めた印刷サービスも、事前に予想していたよりも少ない印象だった。
今回の取材を通して、英国の印刷会社は「目新しさ」よりも、自社が提供する印刷物・印刷サービスの「顧客にとっての意味や価値」を訴求する傾向が伺えた。Webマーケティングなどに関する話題が少なかったのは、こうした姿勢と関係あるのかもしれない。
一方、米国や日本の印刷会社では(価格と納期以外では)「目新しさ」を訴求する傾向が強いように思われる。「その目新しさは顧客(印刷物発注企業)やその顧客にとってどのような意味や価値を持つのか」を理解した上で、印刷物・印刷サービスを提供すること。日英の特徴を組み合わせたサービスは、日本の印刷会社が顧客企業との関係をより深め、売上・利益増大を実現することに役立つと考えられる。
IPEX2014では、そうしたサービスを実現するために必要なソリューション・機材の最新動向を見ることができた。また、とくに「インク・オン・ペーパーの品質向上」以外の部分で印刷物・印刷サービスの価値を高めるための様々なヒントも、英国印刷会社の取り組みを分析することで得ることができた。
これらは、過度な価格競争から抜け出し「攻め」に転じるきっかけを模索する日本の印刷会社にも大いに参考になる。ぜひ、2014年度を反撃開始の年としていただきたい。同レポートがその一助となれば幸いである。
ブライター・レイター 山下 潤一郎 氏
戦略系経営コンサルティング会社、情報通信機器メーカー・インターネット企業の市場調査部門、デジタル印刷市場調査会社などを経て、印刷会社の戦略立案・実践や新規印刷サービスの立上げを専門とするコンサルティング会社ブライター・レイターを設立。訳書に「未来を破壊する」(アスラン書房)