PJweb news

印刷産業のトレンドを捉える印刷業界専門紙【印刷ジャーナル】のニュース配信サイト:PJ web news|印刷時報株式会社

トップ > 特集 > 【対談】印刷業界の社会的価値とブランディング:胆管がん発症問題への対応急務

 「ソリューション・プロバイダーへの進化」という大きなビジョンを掲げる全日本印刷工業組合連合会(以下「全印工連」)。今年度は「連帯」「対外窓口」「共済」という主要機能を存分に発揮できる体制を整え、「やる気のある会社の発展のために役立つ連合会」を目指し、組合団体の新たな価値創造、ブランディングに着手する。その牽引役として今年5月、島村博之氏(東京都印刷工業組合理事長/六三印刷(株)会長)が会長に、同じく吉田忠次氏(大阪府印刷工業組合理事長/(株)ダイシンコラボレーション 社長)が副会長に就任し、両氏をはじめとする新リーダーのもとで全印工連事業がスタートしている。今回は、その両氏にお集まりいただき、中小印刷会社5,669社で組織する全印工連の役割や目指すべき方向性、さらに課題解決に向けた施策などについて語ってもらった。

特集一覧へ

胆管がん発症問題への対応急務

印刷ジャーナル 2012年7月25日号掲載

吉田 CSRにも関連する問題として、大阪の校正印刷会社が発端となった胆管がん発症問題が大きな波紋を呼んでいる。これは経営者の管理不行き届き、モラルの問題としか言いようがない。
 この問題については原因物質を含め、未だ業務との因果関係が明らかになっていない。しかし、校正印刷作業に従事していた元従業員の胆管がんによる死亡は「胆管がんの原因と疑われる物質を含んだ洗浄剤」を頻繁に使用していたことから、洗浄剤に含まれる化学物質が原因の可能性が高いと連日報道されている。事実は事実として真摯に受け止め、対応していかなければならないが、しかし報道による影響が印刷従事者およびその家族はもとより、一般市民にまで大きく及んでおり、さらには印刷業界に対するイメージは大きく損なわれ、雇用問題にも発展している。実際、社員が辞めたという例もいくつか聞いている。
 大印工組としても、いち早く対応策を検討し、予防的観点から「有機溶剤の分類と規則および有機溶剤中毒予防対策」についての文書を全組合員に発信し、注意喚起を行うとともに、セミナー開催や健康診断での血液検査項目の追加に取り組むことを決めている。
 さらに一般社会において「校正印刷会社」と「一般印刷会社」の区別は付かず、すべての印刷会社が同様の状況であるという間違った認識が広まっていることから、大印工組では報道機関に対して「校正印刷会社」と「一般印刷会社」の区別や発端となった校正印刷会社の特殊な作業環境を考慮した報道をしてもらえるように要請文を提出している。
島村 まさにこのような問題は、私が環境委員長だった4年前から指摘してきたこと。当時は産業廃棄物の処理について。法律に則った形で産業廃棄物を処理していない事業所が少なからずあったということ。これは何が問題かというと、ごく一部の不法事業所がマスコミに見つかっておもしろおかしく報道されることで、ほとんどの遵法事業所が多大な損害を被ることになるからである。「ほとんどがやっている」ではなく、「1社残らず」という強い姿勢で各県工組に指導を呼びかけた。そのツールとしてGP認定の啓発を推進した経緯がある。
 それが4年後、まさにほんのわずかな会社が過去において犯した不祥事によって、現在まじめにやっている印刷業界にとんでもない被害をもたらしている。このことを改めて認識してもらい、行動してもらうことが今の全印工連のやるべきことである。「遠慮なく、厳しく、1社たりとも許さない」というのが全印工連の方針である。

吉田 厚生労働省による立ち入り調査の結果では、有機溶剤中毒予防規則(急性の有機溶剤中毒を予防する観点からの規制)の規制対象物質を使用していた事業所のうち、77.5%の事業所に何らかの違反が認められたということだが、これも大きな問題だ。

島村 先ほども触れたCSRについてだが、よく「CSR=コンプライアンス」と考えられがちな部分がある。しかしコンプライアンスはCSRのほんの一部で、本来、CSRには道徳観の方が重要である。何らかの違反が認められた77.5%の事業所も、私の感覚からすると企業の法律違反ではなく、現場の法律違反だと捉えている。企業としては手袋やマスク使用の指導はしていたはずだが、現場サイドが効率を重視したあまりに怠った可能性は高い。つまり道徳観というものが、その企業文化に根付いてなかったということが問題である。これはまさにCSRの問題で、コンプライアンスだけでなく、マナーを守る「道徳心」を養うことこそが大事なのである。
 言い換えれば、「インチキ」「卑怯」は許されない時代。これがCSRの根幹で、今期の全印工連のベースになるもの。「インチキはしない」「卑怯者はいない」という業界団体を形成することで、はじめて組合に価値が生まれ、ブランディングが成立する。1年や2年でできることではないが、そこへ向かっていく第1歩を踏み出したいと考えている。

吉田 今回の事象は、印刷業界にとって大きなターニングポイントになるかもしれない。例えば電子書籍やデジタル印刷への流れを加速させることになることも考えられる。少なくとも、そのきっかけにはなり得るだろう。

島村 まったく同感である。いずれにせよ、風評被害を含め、早急な是正策が必要である。