PJweb news

印刷産業のトレンドを捉える印刷業界専門紙【印刷ジャーナル】のニュース配信サイト:PJ web news|印刷時報株式会社

トップ > 特集 > 省電力UV印刷特集:[寄稿]導入が進む省電力UV:小森コーポレーション 平田素康氏

​ 従来UV乾燥システムと比較して省電力化を実現、という機能性に加え、速乾印刷による短納期対応と後加工工程への迅速な移行、パウダーレス印刷による作業環境の改善、排気ダクトが不要なため設置スペースの問題解消などの経営面のメリットのほか、特殊原反への印刷やニスなどを活用した高付加価値印刷で国内外の印刷会社に様々な成果をもたらす省電力UV乾燥システム。「特殊設備から業界スタンダードへ」と進化し、導入が進んでいる。

特集一覧へ

導入が進む省電力UV〜特殊設備から業界スタンダードへ

[寄稿] 小森コーポレーション 平田素康氏

印刷ジャーナル 2019年4月25日号掲載

平田 氏
​ 従来UV乾燥システムと比較して省電力化を実現、という機能性に加え、速乾印刷による短納期対応と後加工工程への迅速な移行、パウダーレス印刷による作業環境の改善、排気ダクトが不要なため設置スペースの問題解消などの経営面のメリットのほか、特殊原反への印刷やニスなどを活用した高付加価値印刷で国内外の印刷会社に様々な成果をもたらした省電力UV乾燥システム。その火付け役として2009年9月、「H-UV」を発表し、印刷業界に省電力UV乾燥システムの可能性を提示した(株)小森コーポレーションの平田素康氏(PEPS事業推進部 営業技術課)に、省電力UVシステムの最新動向や同社の取り組みなどについてうかがった。

省電力UVの急進、H-UVシリーズ1,000台突破

 当社は、2009年9月に高感度UVインキを使用する省電力UV(H-UV)をリリースしたが、その後オフセット枚葉印刷機の設備動向は大きくシフトした。それ以前の設備は大多数が油性の印刷機であり、電力の大きい従来型のUV印刷機の比率はわずか10%未満、用途はパッケージやフィルム向けなど油性印刷では困難な条件の仕事であった。以降は省電力UVが急進し、当社オフセット印刷機出荷の5割弱を占める状態が現在まで継続している(UV仕様が可能な機種では6〜7割を占める)。図1に省電力UV搭載印刷機のラインアップを示す。

図1:H-UV/H-UV L(LED)搭載印刷機のラインアップ
 一般商業印刷向けの片面機、両面高生産向けの反転機・両面専用機、パッケージ・特殊紙原反向けのコーター搭載機など多様なタイプが設備されている。
 そして2019年1月、当社のH-UVシリーズ(LED-UV含む)の販売は10年を待たずして世界で1,000台を超える実績となった。当社だけで年間100台以上も設備されている計算になる。その5割以上が国内の設備と、省電力UVの導入は世界の中でも日本が圧倒的に多い。その背景としては、日本ではマット系やラフグロス系など乾燥の遅い用紙が多く、乾燥対策のニスの使用も少ないという文化の中で短納期化が進んだことから、乾燥トラブルによる損失が年々増加してきた事情がある。中国・アジア地域は、日本よりもラフグロス紙や短納期対応が少ないと思われ、欧米は乾燥対策にニスを使うこともあり、日本ほどは乾燥トラブルで困っていない。
 省電力UV印刷は、乾燥トラブルを一掃するとともに、乾燥待ち不要の「速乾、即加工」で超短納期対応が可能になり、オフセット枚葉印刷の競争力を高めた。極小ロット対応では、版のコストが割高になるが、Web受注の印刷通販では別々の仕事を同じ版に面付けするギャンギング(付け合わせ)を標準的に行い、A4×100枚でもオフセット印刷で対応可能になっている(A4×8面付けが、すべて別々の仕事なら版のコストは8分の1になる)。このような極小ロット・超短納期対応の仕事は、デジタル印刷機の得意分野といえるが、バリアブル(可変)・バージョニング印刷でもなければ省電力UVのオフセット枚葉機で多くが対応できるようになった。
 一方で当社は、H-UV搭載、シーター付のオフ輪(オフセット輪転印刷機)を展開している。ガスドライヤーが不要であり、通常の高熱をかけるヒートセットでは避けられない火じわが出ないため、枚葉印刷の領域の仕事に対応できる。しかも生産能力は毎時3万枚と枚葉印刷機の約2倍にもなる。

オゾンレスUVとLED-UV

 省電力UVの乾燥装置は、オゾンレスUVランプを使ったシステム(当社製品H-UV)とLEDモジュールを使ったLED-UVシステム(当社製品H-UV L(LED))がある(図2)。

図2 進化型LED-UVシステム(H-UV)
 ともに従来型UVインキよりも小さなUV照射で乾燥する高感度UVインキを使用し、用途もほぼ同様で一般の商業印刷が中心である。H-UV、H-UV L(LED)のどちらも従来型UV印刷機のようにデリバリー部を延長する必要がなく、付帯の電源・冷却装置も小さいため、油性印刷機とほぼ同じ設置スペースで入替えが可能である。また従来型UVランプと違ってオゾンが発生しないため、大掛かりなダクト設備をしてオゾンを屋外へ排出する必要がなく、近隣でオゾン臭のトラブルが出る心配もない。これらの設備上のハードルがなくなったことと、高品質な高感度UVインキが普及したことが多数の設備実績につながった。
 オゾンレスUV(H-UV)の優位点は、乾燥の実績が豊富で用途が広いこと、ランプ交換のコストが安価なことである。PP(クリアファイル)などの特殊原反、コーターニスなど乾燥・密着性が難しい条件ではLED-UVよりも対応事例が多く、資材や印刷ノウハウも充実しており有利である。また、H-UVランプは約1500時間毎の交換が基本であり、LED-UVの10分の1程度で交換する計算になるが、ランプ単価が安く1年あたりのランプコストとしては安価になる。
 LED-UV(H-UV L(LED))の優位点は、オゾンレスUVよりさらに省電力であること、瞬時点灯・消灯が可能で稼働効率が上がることが大きい。印刷時の消費電力も小さいが、その上、印刷中断時は消灯できるため、ジョブ切り替え時の消費電力が大幅に削減できる(オゾンレスUVは印刷中断時に減灯状態であり、一定の電力がかかる)。印刷時は、瞬時点灯で待ち時間がなく、消灯した際も瞬時に再点灯可能である(オゾンレスUVは消灯時にクールダウン、ウォームアップで5分前後待ち時間がかかる)。初期のLED-UVは、紙面との距離が10mm前後と近く、乾燥が不安定であったが、最近は80〜100mmの距離を取ったシステムが主流となり、紙の尻側がややばたついても乾燥が安定するようになってきた。当社のH-UV L(LED)は紙面と100mmの距離を取り、さらに独自のレンズ集光技術で紙尻が40mm程度浮き上がっても乾燥能力(照射強度)がほとんど低下せず、LED-UVの弱点を克服している。

油性印刷に対するメリットと注意点

 油性印刷からオゾンレスUV/LED-UVに切り替える際には、印刷部門、営業部門、経営側それぞれにメリットがあり、大きなイノベーションを起こすことができる。

【印刷のイノベーション】
 ▽乾燥トラブルからの解放...裏付き、コスレ、ブロッキングの発生なし
 ▽パウダーレス棒積み...パウダーのボタ落ちなし、板取り不要
 ▽ドン天(返し)で効率化...片面機で表面/裏面を同じ版で両面印刷可能、版交換や色合わせ時間の削減
 ▽乾燥待ち印刷物の削減...片面印刷後の上がり面印刷待ちの滞留や移動作業の削減
【営業のイノベーション】
 ▽品質クレームからの解放...乾燥不良やドライダウンによるトラブルなし、クライアントからの信頼確保
 ▽短納期で受注可能...乾燥の遅い用紙、重い絵柄でも短納期で受注可能
 ▽新たな仕事の拡大...UV系の特殊原反対応、パウダーレスを活かした後加工やデジタル機追い刷りなど
【経営のイノベーション】
 ▽油性印刷での損失を一掃...乾燥トラブルによるムダな刷り直し、残業の削減
 ▽印刷、加工の工程のロスを改善...乾燥待ちによる工程のロス、納品前夜の加工までの乾燥時間確保のための残業の削減
 ▽時間あたりの生産、売り上げアップ...ドン天、パウダーレス、ドライダウンなしの効果で本刷り立上げ時間を削減、稼働率アップ

 油性と比べてメリットの多い省電力UVだが、インキの違いと乾燥プロセスの違いから、油性と見た目の品質(色や光沢)を合わせる場合には注意が必要である。省電力UVに使用する高感度UVインキのプロセス4色の色は厳密には油性と若干異なるが、通常の仕事でほとんど問題にならない。冒頭に述べたように、この10年ほどで省電力UVは広く普及し、もはや短納期対応の仕事では標準的になりつつある。
 光沢(グロス)については、数値的には油性インキ→高感度UVインキ→通常UVインキの順となる。インキ表面が時間をかけて平滑化(レベリング)する油性インキに対して、化学反応で硬化するUVインキは、レベリングが進まず光沢が劣る。しかしながら高感度UVインキは、低エネルギーのUV照射でUVインキよりもレベリングと光沢が上がり、一般のコート紙などでは油性と見た目も近い品質になる。高感度UVインキで光沢を少しでも上げたい場合には、印刷速度を少し下げてUV照射までのレベリングを向上させればやや上がる。
 また、油性インキでは印刷後にドライダウンで濃度が低下していくため、それを見越して高めの濃度で印刷するが、UV系インキではドライダウンがほぼないため、乾燥後の目標濃度で印刷すればよい。油性印刷でドライダウンが大きい上質紙ではその差が大きく、高感度UVインキでは濃度を低めに印刷できる。
 当社は、このような品質を含めたサポートをするために、H-UV/H-UV L(LED)システムだけでなく、インキやローラーを含む印刷資材をK-Supplyブランドとして展開している。中でもK-Supplyインキには、多数のH-UV納入実績によるノウハウが投入されている。各資材メーカーと協力してテスト・開発を行い、小森の印刷機とのマッチング、各資材同士のマッチングが最適化された標準資材である。UV印刷の経験がない印刷会社でも、印刷機搬入からすぐに品質が安定し、本刷り稼働が立ち上がるようになっている。印刷機メーカーの当社が印刷資材まで供給することで、品質維持、トラブル解決、コスト低減までトータルでサポートできることができ、ユーザーからは問題解決が早くなったとご評価いただいている。

省電力UV対応印刷資材(K-Supply)

特殊原反やコーターニスの動向

 省電力UV印刷の仕事は、油性印刷と同様に紙への商業印刷が大多数ではあるが、従来型UV印刷向けの特殊原反(アルミ蒸着紙、PPフィルムなど)への印刷も行われている。表面が全面銀色のアルミ蒸着紙はきらびやかなパッケージやカード、表紙などに、PPフィルムはクリアファイルへの用途が多い。これらの特殊原反には通常の紙用インキではなく、高密着タイプの高感度UVインキを使用する。PPやPETなどのフィルム系は、コロナ放電処理をして印刷面の濡れ性を良くしたシートを使用する。従来型UVインキと比べると密着性(はがれにくさ)に難があったが、H-UV、そして最近ではLED-UVでも資材の改良やマッチングの事例が増え、容易に取り組めるようになってきた。
 日本ではコーターニスの使用が欧米より少なく、パッケージや表紙など表面保護も必要な用途が中心となっている。コーターユニット付きの印刷機の割合もやや少ない。しかしながら年々、疑似エンボス(ハジキニス)という光沢部とざらざら部で凹凸感が出る手法が普及し、見栄えのするパッケージや表紙に使われることが多くなった。従来型UVから始まったが、高感度UVでの疑似エンボスも多くなり、当社のK-Supplyニスでもラインアップしている。従来からの樹脂版を使ったスポットニスコーティング(部分的にニスを塗布)の代替として、疑似エンボスに置き換わってきている傾向がある。1枚数万円以上する樹脂版を用意する必要がなくなり、コーターユニット前の印刷ユニットにハジキニス用として刷版を1枚追加すればよく、小ロットの単発の仕事でもコストが合う。当社では、ハジキニスの細かいデザインできらきらするもの、レンズのように見えるものなど、さまざまな表現の事例を紹介している。

先進型両面印刷機と自動運転への展開

 昨年のIGAS2018では、商業印刷向けの先進型ソリューションとしてH-UV L(LED)を搭載した8色両面印刷機「リスロンGX40RP」を出展した(図4)。「パラレルメイクレディ」は、切り替えの各自動化工程をパラレル(並行)に制御するもので、「ブランケット自動洗浄+A-APC全色同時刷版交換+プレインキング」が同時に完了し、毎ジョブの準備時間が大幅に削減される。切り替え後は、試刷り→版見当・色調自動立上げ→本刷りと印刷を止めずにノンストップで生産を行う「自動運転」を実演した。最高印刷速度18,000sphでの両面印刷、LED-UVによる速乾と高生産&短納期対応をご確認いただいた。品質検査装置PQA-S V5は、専用マークとカラーバーにより版見当と色調を自動で立上げ(基準値内OKの判定をする)、本刷りに入ると絵柄の全紙検査を行う。ノンストップの自動運転は、色調も見当も基準値の範囲内とする標準印刷の仕事に限られるが、印刷通販やデジタル印刷のような標準印刷の仕事が伸びている現状から、今後は要求が増えていくと予想できる。

図4:先進型両面印刷機の準備時間短縮と自動運転
 また、パッケージ向けの先進型ソリューションとして、H-UV L(LED)およびコーターを搭載した6色印刷機「リスロンGX40」を出展した。こちらは特色の色替えが多いパッケージ向けの「パラレルメイクレディ」を搭載し、「ブランケット自動洗浄+A-APC全色同時刷版交換+インキローラー自動洗浄」が同時に完了する。文字やバーコードなどの欠陥に厳しいパッケージ向けとして、検版を兼ねて検査ができる「PDF照合装置」も搭載し、本刷り開始前のOKシートの信頼性を高める。また、コーターには「アニロックスローラーチェンジャー」を搭載し、アニロックスローラーを4本までセット可能。重量があり交換時間がかかるアニロックスローラー交換を約40秒で自動交換できる。

今後の動向

 現在のオフセット印刷の主役となった省電力UV印刷であるが、比較・検討される手法も出てきている。油性印刷では、パウダー量を削減して乾燥の良いパウダーレスインキも伸びている。通常の油性印刷機を使い、インキも高感度UVインキよりも安価であるが、用紙や条件など用途が限定されている。一方では、電子線硬化型のEBシステムがフレキソ印刷などでリリースされているが、大がかりで高価な装置になり、オフセット印刷としてはまだ要求がほとんどない状況である。省電力UVは、品質検査、短納期、プリプレス・ポストプレスとの相性が良く、現在の印刷市場の動向にマッチしていることから、今後も当面オフセット印刷の主役であり続けると考えている。