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印刷×SDGs 2022

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FFGS、「エシカルペーパープロジェクト」全国展開へ

厳選12種類をパネル化〜PODビジネスに付加価値を

印刷ジャーナル 2023年7月25日号掲載

 富士フイルムグラフィックソリューションズ(株)(山田周一郎社長)は、富士フイルムイノベーションジャパン(株)(以下「FBJ」)と協業し、環境負荷を低減することを目指して作られた「環境配慮型用紙」のなかでも、アップサイクルなど「持続可能な発展」に繋がる用紙のことを「エシカルペーパー」と名付け、「印刷会社がPODビジネスで提供できる付加価値の高い商材」として訴求を本格化させている。今回、この「エシカルペーパープロジェクト」を推進する技術二部の鈴木勇人氏に、SDGsにおける同活動の狙いや訴求ポイントについて聞いた。

鈴木氏とエシカルペーパーの紹介パネル


「リサイクル」と「エシカル」


 「エシカル」という言葉を直訳すると「倫理的」。現在、広く使われるようになった「エシカル」には「人や社会、地球環境に配慮した倫理的に正しい消費行動」という意味合いがあり、その物が作られるために必要な環境、あるいは作っている人の労働環境などに気を配ることで「環境保全や社会へ配慮する」という意味で捉えられる機会が多い。

 一方、最近よく耳にする「アップサイクル」とは、原料の状態に戻してから再生産するリサイクルに比べ、素材をそのまま利用することで、製造時に消費されるエネルギー量が削減されるというもの。廃棄物そのものの発生と消費エネルギーを抑制する、持続可能な循環型経済を促進できる取り組みとして注目されている。

 富士フイルムグループでは、環境負荷を低減することを目指して作られた「環境配慮型用紙」のなかでも、アップサイクルなど「持続可能な発展」に繋がる用紙のことを「エシカルペーパー」と名付け、数年前からFBJ大阪を中心に「エシカルペーパープロジェクト」を展開。今回、FFGSでは、このプロジェクトに賛同し、より具体的に「印刷会社がPODビジネスで提供できる付加価値の高い商材」として全国規模で訴求を本格化させている。

 環境意識が高まる中で、用紙に関しては、これまで「リサイクル」という視点や考え方に重きが置かれていたが、消費者がその物が作られる段階で人や社会、地球環境に配慮するという「エシカル」に対する関心を強める中で、印刷会社がそこを訴求できる商材としてエシカルペーパーを提案していく考えだ。

 鈴木氏は、「この活動が直接、我々が提供しているプロダクションカラープリンタ『Revoria Press』シリーズの販売に寄与するわけではないし、これらの用紙の販売が伸長しても当社の売り上げになるわけでもない。あくまで印刷会社がPODビジネスの資材である用紙を通じてSDGsを身近なものとして事業に取り組む一助になればと考えている」と説明する。


全国8ヵ所にパネル設置


 FBJとFFGSがタッグを組んで、この「エシカルペーパープロジェクト」を全国展開する上で、ツールのひとつとして12種類のエシカルペーパーをまとめた1枚のパネルを作成。7月中にFBJの主要拠点、全国8ヵ所に設置してイベントなどでの活用を促していく考えだ。

 「パネルには、ハガキサイズのエシカルペーパーが数十枚収納できるクリアポケットを設け、お客様が見るだけでなく、実際に触って、持ち帰ってもらえるようにした。もちろんこのクリアポケットも再生プラスチックを使用している」(鈴木氏)

 今回、パネル化された12種類のエシカルペーパーは、「エシカル」の定義にもとづいて、様々な観点から厳選されたものになっている。鈴木氏は、この12種類のエシカルペーパーについて、「富士フイルムグループの『エシカルペーパー』の概念に則って、まず生産段階で人や社会、地球環境に配慮された用紙を分類してデータベースを作成。そこから素材に含まれる廃棄物の混抄率などを調査し、その中から比較的重複しないもの、流通量があるもの、そしてさらなる付加価値のあるものを精査してピックアップしている」と説明する。

【厳選した12種類のエシカルペーパー】

▽小豆殻CoC
 小豆の殻と木材パルプの混抄紙で、廃棄物の有効活用に繋がる。FSCミックス認証製品。

▽尾道帆布の紙
 尾道の特産品である尾道帆布のクズ糸と古紙を原料とした100%再生古紙(帆布クズ30%/古紙70%)。

▽クラフトビールペーパー
 クラフト紙にビールを作過程で廃棄されるモルト粕を混ぜ込んだ、ほんのりビール色、ところどころに粕が残る再生紙。

▽越前そば殻ペーパー
 越前蕎麦の製造過程で出るそば殻を漉き込んだ混抄紙。廃棄物の有効活用、地産地消・ご当地ブランド付加に繋がる。

▽抗菌アヴィオン(ハイホワイト)
 青森県陸奥湾の天然ホタテ貝殻をリユースして生成された抗菌・抗ウイルス剤を使用した衛生的な名刺台紙。

▽平和おりひめ
 広島市平和記念公園「原爆の子の像」に捧げられた折り鶴を再生紙に蘇らせている。収益金の一部を平和貢献事業に寄付。

▽エコ間伐紙N
 森林の健全な育成のために伐採された「間伐紙」を利用した、木のぬくもりのある非塗工紙。

▽GAバガス-FS シュガー
 さとうきびの搾り粕から作られた「バガスパルプ」を10%以上配合した、自然な色と肌合いの印刷用紙。FSC森林認証紙。

▽バイオマスBA3313-50
 植物由来の原料を粘着剤に使用し、バイオマスマークを取得したラベル素材。化石資源の保護や二酸化炭素の削減に貢献。

▽ダイワフィールドF
 液体飲料容器古紙と長繊維古紙を使用し、表層に競技場由来の芝を混抄。古紙配合率100%。FSCリサイクル認証紙。

▽kome-kami
 食べられなくなったお米などを紙素材にアップサイクルした「フードロスペーパー」。売上の1%をフードバンクに寄付。

▽vegi-kami-FS にんじん
 ニンジンの皮を紙素材にアップサイクルした「フードロスペーパー」の新シリーズ。売上の一部がフードロス削減活動に役立てられる。


法規制や指向変化で変わるコスト意識


 もちろん、これら12種類のエシカルペーパーは、プロダクションカラープリンタ「Revoria Press」による印刷適性もクリアしている。「推奨紙ではないので、転写時の電圧や温度の調整が必要になる」(鈴木氏)

 これまで、大阪の「JP2023」をはじめとした展示会で数回パネル展示を行ったが、今後もPRの場として積極的に展示会を活用していく考えだ。

 「展示会で目立つところにパネルを設置すると、自然とお客様が集まり会話が始まる。これは優れたコミュニケーションツールになると考えている。『エシカルペーパーを既に使って付加価値の高いビジネスに繋がった』とか、『チャレンジしてみたい』、あるいは、『以前やってみたがコスト高でやめた』など様々なお客様がいるが、概ね、世間での需要の高まりは感じておられ、関心は非常に高い」(鈴木氏)

 エシカルペーパーの訴求において、やはりひとつのハードルとなるのはコストだ。しかし、「kome-kami」を使って名刺100枚8,000円で受注した、あるいは海外向けの日本酒のイベントでもエシカルペーパーが採用されたといった事例もある。鈴木氏は、法規制や社会ニーズの変化によって、この状況は刻々と変化しつつあると指摘する。

 「2024年のパリ五輪では、使い捨てプラスチックの禁止が発表されたほか、サプライチェーンが森林破壊に関与していないことを証明しなければ、EU加盟国での売上高の4%を上限とする罰金が課される森林破壊防止法など、今後はエシカル的指向も欧州を中心に加速することが予想される」(鈴木氏)

 「ESG投資」という言葉が盛んに使われ出した今、まさに環境・社会・ガバナンスといった視点で企業は選別される時代に入りつつある。これは人材確保という面でも今後重要になってくる。鈴木氏は、「就職活動中の学生のアンケートでも、全体の7割以上がSDGsへの取り組みを就職企業に求めている。エシカルな話に若者は敏感である。高齢化する日本社会において若い人材を確保するためにもSDGsへの取り組みは重要になってくる」と指摘する。


エシカルと最適生産


 FFGSでは、オフセットとデジタルの共存運用から生み出された「余力」を、再分配するという考え方にもとづいた、印刷経営の新たなメソッド「最適生産ソリューション」のブランド化を進めている。その本質は、所謂「DX」そのものの実践ではなく、その手前でやっておくべき、特定の業務プロセス全体のデジタル化、いわゆる「デジタライゼーション」を生産側で実践しようというものだ。同ソリューションを展開するデジタルソリューション営業部の田村和大担当部長は、「最適生産ソリューションは、家で言うと1階の柱を作るイメージ。ここをオフセットトランスファーで生産を最適化し、利益が出る環境を作る。そこに付加価値の高いビジネスをちりばめて2階部分を作る。エシカルペーパープロジェクトと最適生産ソリューションによって、そのような相互作用を生み出すことができればと考えている」とし、両活動の重要性と有用性を強調している。