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トップ > 特集 > 印刷×SDGs 2022:多田紙工、エコ.プレスバインダーで環境配慮紙製品の営業活動支援

新型コロナウイルスによるパンデミックがもたらした「ニューノーマル」の世界において、「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」への関心がより一層高まっている。SDGsは、もはや「企業の使命」であり、印刷会社においても今後事業を継続して上で、「誰のために、何のためにSDGsに取り組むのか」という認識を今一度再確認する必要性が生じているのではないだろうか。そこで今回、改めて「SDGs」に焦点を当て、印刷経営における重要な視点として、事例やソリューションを紹介する特集を企画した。

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多田紙工、エコ.プレスバインダーで環境配慮紙製品の営業活動支援

中綴じインライン式/紙ファイル専用機を保有〜紙ファイル事業本格化へ

印刷ジャーナル 2022年7月25日号掲載

 国内屈指の折り、中綴じ、断裁の設備力と技術力で印刷業界をサポートする(株)多田紙工(本社/埼玉県さいたま市南区松本1-16-1、多田信社長)は、針金や糊などの副資材を一切使用しない環境に配慮した製本技術「エコ.プレスバインダー」を12年にわたって使用し、印刷会社の環境配慮製品による営業活動を支援している。同社は2010年9月に中綴じインライン式を導入、そして2021年4月には卓上型の「紙ファイル専用機」を導入した。メーカーの(有)三光(本社/本社/石川県河北郡津幡町字舟橋ろ75-1、本吉友和社長)は「どこよりもエコ.プレスのノウハウを持たれている。当社にとって、エコ.プレスと言えば多田紙工様です」。これまでに蓄積したノウハウを活かし、今夏にも紙ファイル事業を本格化する。

中綴じインライン式 エコ.プレスバインダーの前で多田社長


環境だけでなく「安全性」も大きなポイント


 同社は1971年、埼玉県川口市に裁ち・折りの企業として創業。「先代は設備一本槍で業容を拡大してきた」(多田社長)。とくに、折り機についてはミニ折りからA倍、特殊折りまで幅広く対応しており、多田社長は「すべてのメーカーを所有している」。多田社長は若い頃、折りから仕事を覚えたようで、折りの知識とノウハウに自信を持つ。「すべての折り機メーカーについて、細部に至るまでの知識がある。折りの『オタク』に近い」(多田社長)。

 多田社長が「エコ.プレスバインダー」の存在を知ったのは2010年。リーマンショックから間もない頃で「業界全般に縮小の波が押し寄せ、会社として今後、どのようにしていくかを模索していた時期であった。そしてちょうど、付加価値路線で行こうとしていた時だった」(多田社長)。

 そのタイミングで、中綴じ機を導入していた三光から「環境に優しい画期的な製本技術を開発した」とアナウンスがあったのが、出会いのきっかけになった。

 「初めて説明を聞いたときは、ニッチな仕事だねと感じた程度だったが、その後に代理店がプレゼンテーションに来た。その話を聞くうちに、やってみようかという気持ちが芽生えてきた。当初は私自身の環境に対する意識が弱かったのかも知れない」(多田社長)

 そして、2010年9月に「中綴じインライン式 エコ.プレスバインダー」を導入。副資材を一切使うことなく、環境に優しい「針なし・糊なし・加熱なし」の画期的な製本技術として印刷会社にアピールした。それから12年、環境や安全意識のとくに高い顧客を中心に、エコプレスによる冊子などを製造している。さらに昨今はSDGsの注目も追い風となり、受注を拡大している。

エコ.プレスバインダー 紙ファイル専用機(卓上型)「針なし・糊なし・加熱なし」で環境・安全性に優れる

 「エコ.プレスバインダーは副資材を一切使わないので、水に対する負荷も糊綴じよりは少ない。また、長年にわたり、エコ.プレスバインダーの仕事をする中、印象的であったのは食品業界の仕事。この業界は異物混入の基準が厳しく、とくに針金の混入などは問題外である。そのような顧客に対して、エコ.プレスバインダーは非常に有利な製本方式であるといえる」(多田社長)

 「エコ.プレスバインダー」の優位性を挙げるとき、どうしても「環境に優しい」ことだけに注目してしまいそうになるが、針金を使わないことによる「安全性」も重要なポイントであることを忘れてはならない。


SDGsと情報保護の観点から「紙ファイル専用機」を導入


 「見た瞬間、これは良い、売れると確信し、導入を決めた」。エコ.プレスバインダーの卓上型紙ファイル専用機を初めて見たときの多田社長の感想である。

 「三光はエコ.プレスの原理を中綴じだけでなく、カレンダーほか、異業種にも応用できるよう開発を進めているという話を聞いていた。そのような中、紙ファイル専用機を開発したと聞き、昨今のSDGsや情報保護の観点からも、これは売れると確信して導入を決めた」(多田社長)

エコ.プレスバインダーで作成した紙ファイル

 また、同社では10年以上にわたって中綴じインライン式「エコ.プレスバインダー」を活用していたため、その製本方式の優位性については十分に分かっていたことも、迷うことなく紙ファイル専用機の導入を決断できた一因である。

 そして2021年4月、同社はエコ.プレスバインダー「卓上型紙ファイル専用機」を導入。毎時200〜300枚程度の生産性のため、小ロットを中心に受注・生産しながら、この1年3ヵ月にわたって市場テストとノウハウを蓄積していったという。

 「当社にとって、卓上型の導入は、ノウハウの蓄積とマーケティングの位置付けに過ぎなかった。今年の夏頃にも、紙ファイル事業の本格化を進めていきたい。そして、早い段階で量産型を導入し、大ロットの受注にも対応していく考えである」(多田社長)

 また、同社では豊富な加工設備により、糊方式とエコ.プレスの両方で紙ファイルに対応している。多田社長は「エコ.プレスで綴じる方が、2〜3ミリであるが糊で接着するよりもスペースを取らないため、内容物を入れるときに収納スペースにゆとりがある」とその優位性を話す。

 さらに、長年の付き合いがある三光というメーカーについて、「取り扱いしやすいという点が挙げられる。例えば、他のメーカーの鞍は高いのでステップを作って対応しているが、三光の鞍はその必要がない」(多田社長)。また、「中綴じインラインのエコ.プレスバインダーは薄いものが綴じやすい。当社では事業報告書など、中綴じ後にパンチングマシンなどで加工が必要な仕事も多いため、そのような仕事に向いている」(多田社長)と話している。


魅力ある紙媒体で地域需要の掘り起こしへ


 「多角化経営」により成長する企業への変革を急ぐ同社では、家庭やオフィスなどの清掃を手掛ける「おそうじ本舗」のフランチャイズ店に加盟し、異業種分野への参入に挑戦している。これについて多田社長は「正直言って儲かる仕事ではない。ただ、これによりフランチャイズのシステムとBtoCのビジネスを学びたかった」と目的を語る。そして、そこで改めて気付いたのが、今後も地域型サービスでは紙媒体が重要な役割を果たすということだ。

 「おそうじ本舗はテレビやWebなどで幅広く広告宣伝を行っているが、集客のメインはチラシである。チラシを撒くことで、その地域の住民は近所におそうじ本舗のサービスがあることを知ることが分かった」(多田社長)

国内屈指の折り、中綴じ、断裁設備を誇る工場外観

 紙媒体は年々減り続けるが、多田社長は「情報の全体感が掴みやすいなど、紙媒体には電子媒体にはないメリットがある。しかし、コストは電子媒体の方が安くつくという中、今後、紙媒体は『富裕層』の持ちものになるかも知れない。電子媒体よりも紙媒体の方が反応や訴求力はまだまだ高いと考えているので、加工の立場として、地域需要の掘り起こしにつながるような紙媒体を提案していければ...」。

 SDGsが注目される中、「エコ.プレスバインダー」にも関心が集まることは容易に想像でき、多田社長は「紙ファイル専用機だけでなく、中綴じ方式にも改めて注目が集まっている」と相乗効果を実感しており、今後の展開に注目したい。