新型コロナウイルス感染拡大を背景に、富士フイルムではグループの総合力を活かした柔軟なソリューションを展開し、厳しい経営環境下にある印刷業界に向けた支援サポートを強化している。そのひとつが富士フイルムイメージングシステムズのクラウド型ファイル管理・共有サービス「IMAGE WORKS」だ。これはデータ管理・共有における「業務効率」や「情報保護・セキュリティ」といった課題を解決するDAM(デジタルアセットマネジメント)システムで、単にデータを管理・共有するだけでなく、クライアントとのコミュニケーションを円滑化するひとつのビジネスモデル創造のツールとして注目されており、印刷会社でも取引先に「素材管理システム」を提供することで付加価値ビジネスが生まれている。
コンテンツ活用のための「DAMシステム」
データを管理・共有する上で、よくある課題として「業務効率」や「情報保護・セキュリティ」がある。まず業務効率面では、制作データなどを顧客と共有する際、訪問や郵送など、その受け渡しに物理的な時間や労力、経費を掛けているケースがある。あるいは、取引先から印刷物の素材データをリクエストされても、そのデータが個人PCで保管されていたり、サーバーに無秩序に保管されているケースも多く、必要なデータを「探す・渡す」のに時間が掛かってしまう。また、10MBを超える大容量データは、メール送信容量制限で送れないことも多い。
一方、情報保護やセキュリティ面では、無料のオンラインストレージサービスを使うことで、データの外部送信や共有の履歴が把握できておらず、さらに情報漏洩のリスクやウイルス・スパイウェアの侵入、取引先からデータ受け取りを拒否されるなどの問題がある。また、メールの誤送信や経路上の漏洩、メディア発送の紛失・盗難などの情報漏洩も過去にはある。
これら困り事や課題を解決するのがクラウド型ファイル管理・共有サービス「IMAGE WORKS」だ。
富士フイルムイメージングシステムズ ディスプレイ・メディアクラウドメディア事業部の片田秀行氏は、「2006年からサービスをスタート。当初は大容量のデータ管理に重きを置いていたが、時代とともに個人情報やセキュリティが注目され、IMAGE WORKSもその機能が強化されてきた」と説明している。
IMAGE WORKSは、コンテンツライフサイクルのあらゆるシーンにおいて、安全で効率的なコンテンツ共有・管理を実現するクラウドサービス。データを蓄積・共有するだけのオンラインストレージとは異なり、コンテンツ活用するための「探せる」「見つかる」「管理する」という機能で情報共有を支援する、いわゆる「DAMシステム」だ。
エクスプローラ形式のフォルダツリー化されたインターフェースで、登録ファイルはサムネイルで高速に一覧表示、プレビューされ、Web画面上で何のデータが入っているのかがイメージ画像で視覚的にわかる。イラストレータやインデザインなどをインストールしていない営業マンでもファイルの中身をチェックできる。
一度に60GBまでの大容量データの登録が可能で、データごとに100項目を超えるファイル属性情報のカスタマイズ設定が可能。簡易データベースの構築により、その付加情報に基づく検索が可能で、さらに文章データ内全文検索や、AIが対象画像を分析して類似画像を自動抽出する「類似画像検索」機能のほか、IMAGE WORKS上で動画再生できるストリーミング機能も搭載している。
さらに大きな差別化ポイントとして、富士フイルムイメージングシステムズ ディスプレイ・メディアクラウドメディア事業部の松本正士氏は、ホームページやプロジェクト内でのデータ公開やダウンロード承認によるコンテンツの受け渡しワークフローを構築できる点を強調している。「使用期限や権利関係が複雑なコンテンツは、『ダウンロード申請・承認機能』により、ファイルダウンロードをする前に利用者・利用目的などの申請を行い、管理者による承認のもと、コンテンツを利用させることができる。この機能が他のサービスにない付加価値を生んでいる」(松本氏)
一方、セキュリティ面では、通信経路およびデータそのものが暗号化保存され、不正侵入防止装置やIPアドレス制限、クライアント証明書アクセス制限も可能。また同様のサービスにおいてサーバーが海外に設置されているケースが多いが、国によっては法律により政府からデータの開示を求められるというリスクもある。その点、IMAGE WORKSは国内データセンターで運用されているため安心である。
豊富な実績と印刷業界向けソリューション
IMAGE WORKSは、2016年の伊勢・志摩サミットやG7広島外相会合、2019年のG20大阪サミットにおけるホスト写真提供業務のプラットフォームに採用され、訪日要人の写真画像を全世界のプレスに向け、安全かつ確実に配信し、各国のメディア報道に大きく寄与した。
そのほか、国際協力機構(JICA)や港区、世田谷区、浜松市役所の常設サイトから写真を提供。「ダウンロード申請・承認機能」のワークフローが採用されている。
一方、印刷業界では富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(FFGS)が提案を行い採用が進んでいる。FFGSワークフロー営業部の原桂一郎課長は、「FFGSの強みは、印刷の工程を把握していること。印刷会社の抱える課題に合わせたサービス提供に力を入れており、上流工程にはXMF RemoteのほかにIMAGEWORKSも取り扱っている。以前は取引先との印刷データの共有・授受を目的とした採用が多かったが、ここ1年くらいは印刷会社が取引先に対して『素材管理システム』を提供するという流れになりつつある。その背景には『既存客の囲い込み』もあるが、印刷会社が新しいビジネスモデルを模索しているという背景もある」と説明する。つまり、発注者の多くは素材をシステマチックに管理できていない。そこで印刷会社は発注者やデザイナー、制作会社に対して、印刷物の素材を簡単に、素早く、一気通貫で提供できる「素材提供」をひとつのビジネスモデルに組み込んでいるということ。さらに言えば、発注者が複数の印刷会社と取引がある場合、IMAGE WORKSを使って、素材管理をきっかけにその数社を取りまとめることも狙える。ワークフローを使って、その仕組みと素材を提供し、そのバリューで存在価値と発言力を高め、顧客の囲い込みを狙っているわけだ。
在宅支援サービスの無償提供
新型コロナウイルス感染拡大にともない在宅勤務およびテレワークの導入を検討する企業が増えるなか、その環境においても顧客や取引先、社内関係者間で大容量データや秘匿性の高いデータを安全に一元管理・共有・送受信したいというニーズが高まっている。
そんな中、FFGSおよび富士フイルムグループでは、大容量データを扱う印刷会社向けに期間限定でIMAGE WORKSの無償提供を実施している。「アフターコロナでもテレワークの導入が進むことが想定され、業務フロー変革に向けたプラットフォームとして今後も訴求していきたい」(原課長)
当初、申し込み期限を6月15日までとしていたが、今回、下にあるQRコードからアクセスすれば7月15日まで受付可能ということだ。無償提供されるのは「体験版」ではなく、フルサポート版で、無償利用は7月末までとなっている。新規での利用の場合、容量500GB・100ID、既存ユーザーの場合、現在利用中のサイトに容量500GB・100IDを追加で提供する。
また、1GB11IDを月額1万5,000円で提供するプランもある。「スモールスタートでも、富士フイルムブランドの安心サービスをクライアントに訴求できる」(原課長)。
無料のファイルストレージサービスにおける情報漏洩問題をきっかけに需要が増すIMAGE WORKS。新型コロナウイルス問題以降は、より加速し、企業規模を問わず全国の多くの印刷会社から申し込みがあるという。「ワンタイムURLの生成やAPI連携など、印刷会社がクライアントに素材管理の場所として提案するには充分な機能を備えている」(片田チーフ)
新型コロナウイルス問題によりデータ管理・共有における課題やニーズが顕在化したと言える。テレワークという働き方の変化が、IMAGE WORKSという新たなプラットフォームの活用で、ひとつのビジネスモデルに繋がるという発想を生んでいる。「新たなビジネスモデルの創出」、そこにIMAGE WORKSの真骨頂があり、付加価値があるようだ。