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デジタル印刷特集 2024

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昭和堂、小児患者と家族に希望を - 子どもの絵画をデジタル印刷で作品化

チルドレンズアートの活動を支援〜IPA2023で「マルチピース部門」第2位獲得

印刷ジャーナル 2024年3月25日号掲載

 (株)昭和堂(本社/長崎県諫早市、永江正澄社長)が、闘病中の子どもたちを支援するボランティア組織「久留米大学チルドレンズアート」の活動を支援するために制作した「闘病中の子どもたちへの支援活動〜Kurume University Chirdren's Art〜」が、2023年度の「Innovation Print Awards(以下、IPA)」において「マルチピース部門」第2位に選出された。この作品は、久留米大学病院で治療を受けている子どもたちが描いた絵画を使い制作されたポスターやカレンダー、トランプで構成されている。その制作には、富士フイルムビジネスイノベーション製のカラープロダクションプリンター「Revoria Press PC1120(以下、Revoria Press)」が使用されている。

表彰セレモニーで記念撮影

 昭和堂は1951年の創業以来、約70年間にわたり培ってきた印刷技術と、クロスメディアを駆使した様々な情報発信ツールでプロモーション支援を展開している販売促進サポート企業。「ワクワク・ドキドキをプロデュースする」をコンセプトにマーケティングから企画・デザイン、特殊印刷、ホームページ制作まで様々な事業領域で顧客のビジネスを支援している。

 その同社が今回、入賞を果たしたIPAは、富士フイルムビジネスイノベーションアジアパシフィックが2008年からアジア・パシフィック地域で毎年開催しているデジタル印刷コンテストプログラムで、富士フイルムビジネスイノベーション(富士フイルムBI)のプロダクションプリンター「Revoria Press」シリーズやインクジェットデジタルプレス「Jet Press」シリーズ、ワイドフォーマットプリンター「Acuity」シリーズなどを使って制作された印刷物が作品として第三者の審査員によって評価される。

 通算で16回目の開催となる今回は、アジア・パシフィックの11の国と地域から275作品の応募があり、その中から39作品が入賞。日本からは、13社20作品がエントリーし、4作品が入賞を果たしている。同社は、「マルチピース部門」で第2位を獲得。さらにIPA入賞作品が自動エントリーされる「2023 ASIAN PRINT AWARDS(以下、APA)」において「デジタルカレンダー部門」の銀賞も受賞している。

 1月15日には、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン(株)福岡支社において、今回の作品制作に携わった昭和堂の鈴木岳男氏(アクティブ・クリエイション本部 執行役 アクティブ九州 支店長)、横尾竜太氏(アクティブ・クリエイション本部 アクティブ九州 アクティブ・クリエーター)、渡部純三氏(企画デザイン室 トップラン マーケティング・ディレクション室 マーケティング・ディレクター)、池邉真穂氏(企画デザイン室トップラン ビジュアル・クリエーター)の4氏が出席のもと、表彰セレモニーが行われ、富士フイルムBIの木田裕士執行役員から記念トロフィーと表彰状が手渡された。


余剰在庫の問題をデジタル印刷で解決


 入賞作品の題材となった「久留米大学チルドレンズアート(以下、チルドレンズアート)」は、久留米大学病院に勤務し、小児がんや小児医療領域の治療に携わる医師を中心に、2010年から活動を開始したボランティア組織。闘病中の子どもたちに治療を受けていく中で希望や支えになるような取り組みを行うことを目的とし、同病院で治療を受けている子どもたちが描いた絵画をもとにオリジナル作品を商品化し、その収益を小児科領域の活動や、その他の病気の子どもたちへの支援の活動資金として還元していくことを目指している。

左から鈴木氏、横尾氏、渡部氏、池邉氏

 この取り組みに賛同した同社は、チルドレンズアートの活動開始当初から横尾氏を中心として商品の企画・開発、制作に携わることを決定。これまでその生産にはオフセット印刷機を用いていたが、今回の入賞作品は、Revoria Pressを活用してデジタル印刷に切り替えて制作されている。

 その理由について横尾氏は、新型コロナウイルスの感染拡大が背景にあると語る。

 「これまで当社は、オフセット印刷で各種商品を生産してきた。これら商品は医療関連の学会、または病院内のイベントなどで販売されていた。しかし、コロナ禍により各種会合やイベントが中止になるなど販売機会が減少し、余剰在庫が問題となっていた。その問題を解決する方法として、富士フイルムBIからの提案を受け、柔軟な生産が可能なRevoria Pressによる制作にトライした」


特殊トナーで子どもたちの絵画を鮮やかに色再現


 同社がRevoria Pressによる生産に切り替えて制作したのは、カレンダー、身長測定ポスター、トランプの3アイテムだ。

「マルチピース部門」第2位に選出された昭和堂の作品

 カレンダーは、作品すべてがメインビジュアルとなるため、Revoria Pressの強みの1つである特殊トナーのピンクとシルバーを活用し、作品の魅力を引き出している。

 鈴木氏は「女の子などはピンクを好んで使うため、ピンクで描いた絵が多くあった。オフセット印刷では色が出にくいが、Revoria Pressでは、鮮やかなピンクを印刷することができた」とRevoria Pressを評価している。

 渡部氏も「原画をスキャンし、デザインを施して印刷しているが、子どもたちの絵は蛍光色など明るい色が多いので、メタリックカラーやピンクトナーとの相性が非常によかったと実感している」と、特殊トナーを活用した新たな表現手法に手応えを感じている。

 入社3年目で参加した池邉氏は「ピンクトナーなど普段の仕事ではあまり手掛けたことがない色だったため、データ制作は苦労したが満足のいく作品に仕上げることができた」と、今回の作品制作について振り返る。

 ポスターは、Revoria Pressで対応可能な長尺用紙(1,200mm)への印刷を活用し、子どもの成長記録として身長を測定できるデザインにしている。また用紙には、不織布のシータスを使用している。長尺用紙への印刷を活用し、身長測定用ポスターとして仕上げたことには、ある目的があると横尾氏は説明する。

 「多くの小児科で、このポスターを貼ってもらい、診察の待ち時間などに使用してもらいたい。そうなれば必ず親御さんの目に留まり、この活動を知ってもらえるはず。また、耐久性のあるシータスを採用したことで多くのお子さんが見て、触っても長く使用してもらえるはず」

視覚的な効果と子どもたちの絵画を融合

 このポスターでは、ホログラムで波を表現したデザインをシルバートナーで印刷している。これにより見る角度によって変化する視覚的な効果を演出し、より多くの人の目に留まるように工夫している。


チルドレンズアートの認知普及へ〜IPAに出品


 同社が今回、IPAにエントリーした最大の目的は、チルドレンズアートの認知普及の拡大だという。

 チルドレンズアートの活動は、久留米大学病院の医師を中心に運営されている。当然、医療従事者として日々、忙しい中での活動となるため、なかなか普及拡大を図っていくことは難しい。そこでIPAにエントリーすることで、この活動がより多くの人に知ってもらえれば、という思いから出品を決断した。

 そして第三者による厳正な審査の結果、同社の作品は、IPAとAPAの両アワードにおいて入賞を果たした。この朗報を受け、渡部氏は、「普段は裏方的な存在であるが今回、デザインが認められ表彰を受けたことに喜びを感じるとともに、我々のチームとして大きな自信になった」と、また池邉氏は「今回の制作を通じて発色性を高めるためのピンクトナーの使用など、多くのことを学ぶことができ、私自身も表現の幅が広がったと思う。また、チルドレンズアートの活動は、素晴らしいものであることから、その活動自体も評価されたことが何よりもうれしい。そして最終的には、この活動が医療関係者だけでなく、幅広い分野の人たちに認知してもらい、支援の輪が広がっていくことに期待している」と、デザイン制作の視点から今回の入賞についての感想とともにチルドレンズアートへの想いを語る。

若い世代の想像力が今回の入賞を牽引した

 実際に審査員からは、子どもの持つカラフルな色彩表現やマルチピース展開したアイデアだけではなく、闘病中の子どもたちを支援する活動についても高く評価されたという。


Webサイト構築で周知活動を強化


 同社では、難病と闘う子どもたちとその家族、そして小児医療関係者以外の新たな層との接点を強化するために、この活動の情報発信源となるプラットフォームとしてチルドレンズアートのWebサイト構築を目指している。さらに同サイトでは、Web受注システム機能の搭載も視野に入れているという。

 鈴木氏は、「より多くの人にチルドレンズアートの取り組みを知ってもらうだけでなく、子どもたちが描いた作品を自由に選択し、カレンダーやポスターなどの商品を必要な部数だけ、受注生産するプリントオンデマンドを活用したビジネスモデルが構築できれば、余剰在庫の問題を一気に解決できる」と、Webサイト構築の狙いと活用方法について説明した上で、その構想を実現できる生産設備として、Revoria Pressに期待を寄せている。

 これらの取り組みを通じて同社は、全国の難病に苦しむ子どもたちと、その家族に向け「同じ仲間に希望と元気を与える」コミュニケーションツールの形成と支援活動をこれからも積極的に推進していく方針だ。