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トップ > 特集 > 検査システムによる品質管理 2024:イシイ、枚葉機に続いてB2オフ輪にもDAC検査装置を設置

 「印刷物」を「工業製品」と捉える以上、その製造メーカーには「品質保証」というひとつの責任が生じる。そこには生産工程における機資材の見直しや工程間での工夫など、様々な手段が考えられるわけだが、最終手段はやはり生産物を「検査」「検品」するということになる。印刷業界においても多くの検査関連機器が市場投入されており、「不良品をどう処理するか」、また「不良の原因を如何に生産工程へとフィードバックするか」といったシステマチックな検査工程から生まれる高品質で安定した製品供給は、クライアントの信用を獲得する手段であり、問題があった時もその製品の出荷時の検査記録などがチェックできる体制にあるかどうかが発注先の評価対象に加えられるようになってきている。つまり検査エビデンスの存在が求められるようになってきているということだ。また一方で、多品種・小ロット・短納期化が進む中では品質管理の検証による作業の効率化、損紙低減によるコストダウンなど、経営的観点からも重要性を増している。そこで今回は2024年度版「検査関連機器・システム」を取り上げる。

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イシイ、枚葉機に続いてB2オフ輪にもDAC検査装置を設置

紙幅が広くても端まで検査が可能〜今年9月にはA1オフ輪にも設置へ

印刷ジャーナル 2024年3月15日号掲載

 総合制作・印刷会社のイシイ(株)(本社/大阪市中央区、石井和貴社長)は、紙メディアの印刷範疇に捉われない「脱・印刷」を図り、3DCGや動画制作などに事業拡大する一方、祖業の印刷事業をさらに拡大させるため、「拡・印刷」にも業界に先駆けた取り組みを進めている。同社はその一環として品質管理を徹底するため、大阪工場(大阪府堺市)に2019年1月、ダックエンジニアリング(株)(以下DAC)のオンライン枚葉検査装置「Trinity」をオフセット枚葉印刷機に設置。これに続いて2023年9月には、B2高速オフ輪にもDACの検査装置「Prenity」を設置。品質管理のさらなる強化を実現するとともに、ストレスフリーな検品体制を構築した。



「脱・印刷」と「拡・印刷」でアフターコロナを勝ち抜く印刷会社へ


 同社の設立は1972年3月。大阪市中央区の本社ほか、大阪府堺市の大阪工場、東京都千代田区の東京事業部の3拠点で事業展開している。現在の従業員は約150名で、このうち東京事業部では20数名の情報システム系の制作スタッフが勤務している。大阪本社では企画、デザインから制作まで、大阪工場ではCTPから印刷、後加工などの工程を担う。

 主な事業としては、広告・デザイン企画制作・デジタル撮影、および印刷までのディレクション、ウェブコンテンツ企画・制作、レンタルサーバー、チラシ・ポスター・POP・カタログ・会社案内などのデザイン・印刷・加工、電子出版・情報処理、ドローンによる空撮まで多岐にわたり、石井社長は「社会情勢が大きく変化し、情報コミュニケーションが多様化するのにともない、印刷会社が扱う情報の質や形も大きく変貌している。そのような中、当社は『新たな付加価値の創造、生産性向上』を経営の基本戦略に掲げ、印刷をコアに周辺事業領域を拡充、ワンストップサービスを提供している。充実した企画デザイン、3DCGも含めた高度な画像処理技術、小ロットから大ロットまで柔軟に対応する印刷。さらに、システム開発、Webプログラムなど、優れた情報処理技術で幅広いニーズに対応している」と話す。紙メディアの印刷需要が厳しくなる中、「拡・印刷」を目指し、印刷と周辺領域に事業拡大しながらも、動画制作など、とくに上流工程に全社で取り組むことで、アフターコロナの印刷業経営を乗り越えていく考えだ。

石井 社長

 また、同社では、SDGsにも意欲的に取り組んでいる。執行役員・工場長の岩下望氏は、「とくにグリーンプリンティングには10年以上前から取り組んでいる。このほか、FSC認証や水なし印刷のバタフライマークなどを取得しており、今後もクリエイティブと印刷を通し、SDGsの目標達成に貢献する印刷物を製造していきたい」との姿勢を示している。

 そんな同社は2019年1月、オフセット枚葉印刷機の入替えと同時にDACのオンライン枚葉検査装置「Trinity」を導入。検査装置による品質管理という新たな挑戦を開始した。

岩下 工場長


網点のダブりも見逃さずに検出。ナンバリングで効率的に全数検品


 オンライン枚葉検査装置を導入する前、同社では数百枚ごとにオペレーターが抜き取り検品して印刷物を検査していたが、高速印刷において、目視検査のみではすべての欠陥を検出することは難しく、岩下工場長は「印刷現場において印刷事故やクレームは少なからずあるが、その件数を少しでも減らしたかった」と検査装置導入の背景を振り返る。そのような中、新たに導入した印刷機メーカーの推奨で導入したのが、DACのオンライン枚葉検査装置「Trinity」であった。

 導入の結果、「印刷事故やクレームは、1年に数回あるかないかのレベルになるまで品質を良化することができた。今では印刷現場において、紙面検査装置は必須の存在となっている」(岩下工場長)と強調する。また、印刷課 次長の山口正道氏は「これまでもピンホールなどは目視で発見できていたが、網点のダブりについては、目視では見えなかった。それが『Trinity』の設置により検出できるようになり、検査レベルが格段に向上した」と話す。

山口 次長

 また、同社はオプションとして印刷前にインクジェットでナンバリングできる機能を搭載しており、これにより、欠陥を検出すると即座に不良の印刷物を抜き取ることが可能になった。山口次長は「1枚1枚の印刷物の端にインクジェットで印字しているので、仮に欠陥が出た場合、その番号を確認してすぐに抜き取ることができる」と説明しており、検品の作業負荷が激減したと評価する。さらに、生産性についても「20年間も使用していた印刷機を新台に入れ替えたという効果もあるが、それとオンライン検査装置を導入したことによるシナジー効果で、生産性は劇的に向上した」と効果を説明している。

枚葉印刷機に設置された「Trinity」


枚葉検査装置での実績を信頼し、B2オフ輪にもDAC検査装置を設置


 DAC検査装置の導入により、オフセット枚葉印刷機の品質保証が確立された同社だが、2005年に導入した2台のオフ輪のうち、B2輪転機に搭載していた別の検査装置メーカーの検査機が経年劣化で検査品質が徐々に鈍くなり、「要求品質に合致しにくくなってきた」(岩下工場長)という。そこで同社はB2輪転機について検査機の入替えを検討。DACはオフ輪への検査機導入実績は少なかったが、「枚葉検査装置の導入でDACというメーカーに信頼をおいていたので、オフ輪にもDACの検査装置を導入することに決めた」(岩下工場長)。

 そして同社は2023年9月、B2高速オフ輪に検査装置「Prenity」を設置。岩下工場長は、その扱いやすさを評価しており「シート出しや折り出し、B3やB4など、種類や大きさごとに検査レベルを選べるため、すごく使いやすい。これにより不良を見逃さずに発見でき、また、オペレーターは信頼性のある新しい検査機があるということで、不安なくストレスフリーで作業することが可能になった」と説明する。

B2オフ輪に設置された「Prenity」

オペレーターはストレスフリーで検査が可能になった
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 さらに、山口次長は「紙の夾雑物まで読んでくれる。簡単に詳細なところまで設定が可能で、細かいところまで検査できるほか、紙幅が広くなっても紙の端の部分までしっかりと検査して読んでくれる」と、検査精度が大幅に向上したことに満足している。


ダックエンジニアリングの開発姿勢と情熱、サービスに信頼と安心感


 岩下工場長はDACの検査装置を導入する以前、DACの京都にある本社工場を幾度と訪問し、前社長である氷上好孝会長と話をする中、「ユーザーに可能な限り良い製品を提供しようという姿勢と情熱を感じた」と話しており、このメーカーなら信頼できると確信したようだ。そして実際、導入後のサービスは期待以上のものであることに満足しているという。

 山口次長は「導入後も何かあれば相談しながら、その都度改善してもらっており、アフターサービスにも非常に満足している。また、DACは本社が京都にあるので、何かあったら迅速に対応してもらえるという安心感もある。これが東京などであったら、それなりに時間もかかってしまうので、その意味でも心強い」と話す。また、今後の期待として岩下工場長は「色調管理」も可能なオンライン検査装置の開発に期待しており、その要望はすでにDACに投げているという。

 「現在の印刷業界では、印刷物にカラーバーを入れ、カラーバーの濃度で色調管理をするシステムが一般的だが、B2のチラシなどではカラーバーを紙面に入れられないので、カラーバーがなくても紙面全体の色調管理ができる検査装置の開発を望みたい」(岩下工場長)


ライブロケーションを稼働。将来的にはスマート工場の実現へ


 同社は将来、大阪工場を「スマート工場」として稼働させていく考えで、さらに自動化を推進していく方針。その取り組みの第一弾として、昨年には大阪工場を改革し、「ライブロケーション」の機能を導入した。

 このシステムは、IoTを活用した位置測位ソリューションとして、あらゆる位置情報を可視化できる仕組み。「ライブロケーション」の導入により、半製品・製品の所在を把握し、検索時間を短縮できる。オペレーターが生産に費やす時間を増やしていくことで、売上アップを目指す。岩下工場長は「今後はさらに精度を高め、最終的にはAGV(自動搬送ロボット)を導入し、スマートファクトリー構築を進めていく」と展望する。

 最後に石井社長は、「当社の強みの1つである印刷事業を生かし、本社・東京事業部・大阪工場を融合させながら、変化を追求する姿勢で激動の時代に対応し、ソリューションプロバイダーとして魅力と存在価値のある会社を目指していく」と話した。

 なお、同社はB2オフ輪に続いて、今年9月にはA1オフ輪にもDACの検査装置を導入する予定で、さらなる高みを目指していく。同社の果敢な挑戦は、印刷業界に勇気と希望を与えるものとなりそうだ。