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ダイレクトメール特集 2023秋

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エイエイピー、「デジタル×紙」でイベント事業の高付加価値化へ[バリアブル印刷ソフトFormMagic採用事例]

処理スピードと汎用性〜DM制作のフロント側を強化

印刷ジャーナル 2023年12月15日号掲載

 「人と、地域と、共鳴する。」──さまざまなメディアを駆使したプロモーション支援を手がける(株)エイエイピー(本社/静岡市駿河区森下町3-6、土屋康一社長)は2023年1月、ダイレクトメール(DM)をはじめとしたバリアブル印刷データの生成に、富士フイルムの「FormMagic」を採用。その処理スピードと汎用性を活かし、イベントプロモーション事業のさらなる高付加価値化に乗り出している。

FormMagicのオペレーションの様子


イベントとバリアブルDMの親和性


 同社の創業は1953年。熱海の旅館で支配人をつとめていた初代社長が、印刷物で旅館をPRしようとするものの「高品質な印刷物を依頼できる印刷会社がない」という現状を察し、自らが「熱海美術印刷社」を立ち上げ、旅館向け印刷業をはじめたのがその原点である。

 当初は、カタログやパンフレットなどの商業印刷物が中心だったが、同社に対する旅館の要望は、次第に館内・客室の備品の販売や紙袋・箸袋・お膳紙などの消耗品類、各種イベントの企画・運営などに広がり、この要望に寄り添うことで旅館の集客支援をおこなう「広告商社」へと業容を拡大。1968年には「アド・アート・プランニング」の頭文字を取って現在の「エイエイピー」に改称し、名実ともに総合的な広告宣伝分野に事業の軸足を置くことになる。現在では、ショッピングセンターや交通関連、メーカーほか一般企業の広報宣伝、販売支援も手がけ、ホテル旅館コンサルタントの(株)リョケン、Web・映像フォトの(株)プロフィックスといったグループ会社と連携しながら、イベントプロモーションやメディアプラン、クリエイティブ、空間演出、映像・動画制作、ウェブサイト制作、ネット広告、システム開発など、デジタル事業を積極的に展開。現在では売上高に占める印刷物の割合もおよそ1/4になっているという。同社専務取締役の土屋範之氏は、「プロモーションツールは日々、進化、多様化している。その『引き出し』を数多く持っていること。これが当社最大の強みである」と語る。

 現在、全国に7支店・3営業所を構え、グループ全体の社員数はおよそ400名。うち「アドプランナー」と呼ばれる営業が約200名、そして約70名のクリエイター・デザイナーを擁している。

 同社のDMを含む印刷事業を担うのは、約60名で組織するプリントメディア事業部。そもそも旅館には、宿泊客へのお礼状や四季折々の案内状など多くのDM需要があることから、15年ほど前からCRM(Customer Relationship Management)の考え方にもとづき、DMのさらなる需要喚起に注力してきた同社。一方で、2020年3月には、バリアブル印刷物を「デジタル印刷ならではの商品」として、より付加価値を高めていくことを目的に、富士フイルムのB2判枚葉インクジェットデジタルプレス「Jet Press 750S」を導入。同社はこれをひとつのきっかけにバリアブル印刷商材へのアプローチを一層強化している。

 プリントメディア事業部の技術担当部長である狩野真司氏は、「『広告会社』という立ち位置からバリアブル印刷物を考えた時、我々がクライアントに提案するイベントとバリアブルDMは非常に親和性が高い」とし、あくまでDMはイベントプロモーションの中のひとつのツールであることを強調している。

左から、土屋専務、狩野氏、久保田氏


高速でバリアブルPDFを生成


 バリアブル商材を強化する上で、ひとつの課題となっていたのがフロント側のシステムだ。

 同社のバリアブル印刷およびDM事業の出力デバイスは、富士フイルムビジネスイノベーションのプロダクションカラープリンター「Iridesse Production Press」と「JetPress」。そして、そのフロント側のバリアブル印刷データ生成には他社システムを採用していたが、このシステムと「JetPress」との間で課題があったという。

 狩野氏は、「従来システム+JetPressで約1万種類のQRコードのバリアブル印刷テストを行った際、演算に50分程度かかった。従来システムは単頁のPDFは書き出せるものの、面付けされたPDFを書き出せないため、間に富士フイルムのワークフローシステム『XMF』を介して面付け作業を行っていたが、ここでの演算に時間がかかっていた」と振り返る。そんな矢先に従来システムの「販売・サポート終了」のアナウンスが...。これを機に、すでにテストを進めていた富士フイルムのバリアブル印刷ソフト「FormMagic」の検証を急いだ。

 「FormMagic」は、単なる宛名書き・差し換えソフトの領域を超え、宣伝効果の高いバリアブルプリントデータを作成できるプロフェッショナル向けソフトウェア。流し込む項目ごとにデータの有無やフラグを判断してレイアウトを可変させる「自動判断組」や、グラフ作成、イメージバリアブルなどにも対応。顧客情報に合わせて商品や表現を変えるOne to Oneの分野において、もともと自動組版ソフトとして開発された「FormMagic」は、リッチデザインが求められる印刷物の制作に適している。

 「FormMagic」が他製品に比べて優れている大きな特徴は、高生産性(処理スピード)と様々な要素をバリアブル生成できる汎用性だ。

 「FormMagic」の高生産性は、PDFを生成するエンジンの性能に起因する。独自のフォーマットでバリアブル処理を高速にシミュレートし、一発でPDFを生成する仕組みを持つ。例えば、ハガキの宛名の場合、1万件のPDFデータを5分以内に生成できるという。

 前記の「演算に50分程度かかった」という件について、富士フイルムグラフィックソリューションズによると「FormMagicは高画質な台紙、パーツ等、DM紙面で繰り返し発生する画像をRIP演算に最適化された形でPDFを書き出す。そのため演算時間に大きな差が付く」としている。


ホットフォルダ運用で自動化


 3ヵ月以上を費やして試用版で徹底的に検証を行ったというプリントメディア事業部 商品開発 副課長の久保田和弥氏は、「PDFデータ運用統一化により作業の効率化を図る方針を打ち出していた当社にとって、PPML(Personalized Print Markup Language)データを書き出していた他社システムによる運用は、大きなボトルネックになっていたのは確かだ。FormMagicの採用で、PDFデータ運用の統一化を実現し、作業の煩雑さがなくなり、演算スピードも劇的に向上した」と評価する。

 とくに、久保田氏が「尖った機能」と表現するホットフォルダ、外字の取り扱い易さには大きな可能性を感じたという。

 「『できることが増えそう』と感じた。なかでもホットフォルダ運用によるワークフローの自動化は非常に直感的で分かり安い構造になっている。定期案件はリストを投げ入れれば自動でバリアブル印刷データを生成。ホテルの会員向けバースデーカード(3万人)などの定期案件は、このホットフォルダで運用している」(久保田氏)

 また、大量のDM制作において最も注意が必要な「外字の取り扱い」を簡素化しているのも特徴のひとつ。FormMagicでは、専用ソフトでなければ閲覧できなかった外字の文字デザインやコードを一覧で確認でき、簡単操作でインストールできるようになっている。

 「FormMagicの導入によって、JetPressでは敬遠していたバリアブルのジョブにも挑戦できるようになった。IridesseとJetPressの棲み分けは基本、クライアントの予算やロット、品質要求、また対応用紙などが基準になるが、JetPressでバリアブルデータを多面付けした方が効率の良い案件もある。そこは柔軟に使い分けている」(狩野氏)

「Jet Press」導入で、バリアブル印刷商材へのアプローチを強化


「速く正確なバリアブル」を強みに


 同社では、デジタル印刷機の色域の広さを活かして、近隣のデザイン学校の生徒とのコラボレーションにより、「DMを作ろう」という活動も行っている。これは、女性社員の事業提案から始まったもので、SDGsや社会、地域貢献という側面、あるいはDMの需要喚起、学生の教育、将来のビジネスパートナーづくりなど、様々な可能性を視野に入れた取り組みとして期待が高まっている。

 DM事業の課題として久保田氏は、「正確で整ったリストの収集・生成」を挙げている。

 「提供されるリストの多くが整理されていない状態で入稿されるため、それを自社でハンドリングすると作業効率の低下だけではなく、リスクも上がる。いずれAIが解決してくれるかもしれないが、いまはリスト収集の段階でしかるべきシステムの必要性を感じている。ここでSEを擁するグループ会社との連携が有効になる。『速く正確なバリアブル』。これも当社の強みにしたい」(久保田氏)

 さらに久保田氏は、「デジタル施策は効果が測定できる。これを突き詰めれば、まだまだ印刷物の効果が再認識されるような気がする。もっと『デジタル×紙メディア』を提案できるひとつのきっかけにもなるのではないか」との見方を示している。

 一方、今後の方針について狩野氏は、「ホットフォルダ運用を上手く活用することで、さらなる効率化、省人化を目指す。また、FormMagicの採用によって、オフセット印刷の置き換え運用に留まっているJetPressを、B2判デジタルプレスの強みを活かした運用に切り替え、デジタル事業とのシナジーを創出していきたい」と語る。


 最後に土屋専務は、「バリアブル印刷は、イベントや販促の効果測定との親和性が高い。『デジタル×紙メディア』という試みがより認知されることで、我々の印刷ビジネスにおけるバリアブル商材の比率は増えてくると確信している」と語る。

 今回の取材から、印刷会社はデジタルと連携した効果的な紙DMの提案を行うことで、クライアントのビジネス拡大に貢献し、新たな印刷事業領域の商機を得ることができることを感じさせる。その紙DM制作のフロント側で、印刷会社の事業として成立されるだけの生産処理能力と多彩な機能による汎用性を提供するのが「FormMagic」である。