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パッケージ印刷ビジネス 2023

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富士包装紙器、パッケージデータの完全自動検版を実現

[アビッド・フレックス「Package Compare KIT」導入]
次工程への信頼性向上と属人化を排除、紙出力不要で環境負荷低減も

印刷ジャーナル 2023年6月25日号掲載

 レンゴーグループの富士包装紙器(株)(本社工場/滋賀県蒲生郡日野町北脇 日野第二工業団地5-2、窪田尚広社長)は今年5月、パッケージデータのフルオート検版による次工程へのスムーズな連携とデータの信頼性向上などを目的に、アビッド・フレックスがIGAS2022で発表したパッケージデータの完全自動検版ソフト「Package Compare KIT(パッケージ コンペア キット)」の第1号を導入した。スキル不要で誰でも簡単に検版が可能になったことから、属人化を排除するとともに、検版のために紙出力する必要もなくなり、環境負荷軽減という観点からも効果を発揮している。

左から 坂本取締役、瀬田工場長、野原課長


業界トップクラスの設備で、レンゴーグループのパッケージ事業を担う


 同社は1924年10月、大阪市南区において創業。来年、創業100周年を迎える。当初は貼り箱を主体に事業展開していたが、クライアントニーズに対応しながら業容を拡大。現在の紙器に特化した企業への変貌を遂げた。

 ターニングポイントは平成元年。本社工場を大阪市から現在の日野工場に移転したことだ。新工場の竣工と合わせ、同社は最新鋭の印刷機や抜きの設備を導入。「関西紙器業界に、富士包装紙器あり」とその名を轟かせ、2014年にはレンゴーのグループ企業となった。窪田社長は、「レンゴーグループはヘキサゴン経営を推進しており、重包装・板紙・段ボール・紙器・軟包装・海外の6つの事業を展開している。46社のグループ企業の中、6社ほどの紙器工場があるが、当社ほどの設備を持ち合わせている企業はない」と、業界トップクラスの紙器生産工場であることを強調する。

本社工場外観

 窪田社長は、社長に就任後の7年間で設備投資を積極的に展開。2018年にもパッケージの生産性を大幅に向上させる最新鋭の印刷機、抜きやグルアーなどを設備したが、2024年も新たに印刷機を導入する計画だ。「レンゴーグループのパッケージ事業は当社が重責を担っているとの認識で今後も設備投資を進めていきたい」と窪田社長は話す。


中学生の野球チーム「近江ボーイズ」に無償でグラウンドを提供


 同社は日野工場を竣工した際、野球用のグラウンドを敷地内に造設。社会貢献の一環として、地元中学生のボーイズリーグ「近江ボーイズ」に無償でグラウンドを提供している。スコアボードもあり、練習試合もできる本格的なグラウンドである。毎週のように練習に使用されている。卒団生からは、これまでに2名がプロ野球選手になっているようだ。

「近江ボーイズ」が毎週練習している野球場

 そして、特筆すべきは近江ボーイズの総監督は同社の営業本部長が務めており、2年前には卒団生が同社に入社してきたということだ。「総監督から父兄に話をしてもらい、入社してくれたことは非常に嬉しかった」(窪田社長)。卒団生は3年間、同社本社工場を見上げながら汗を流してきたわけである。その卒団生にとっては、地元に社会貢献する同社に感謝の気持ちがあったのかも知れない。窪田社長は「2年後にはもう1人、卒団生に入社してきて欲しいと計画している」としており、今後も近江ボーイズへのグラウンドの無償提供は続けていく考えだ。

 また、窪田社長はグラウンドを活用し、日野工業団地の企業の運動会を開催したい意向も示している。「実は、数年前に計画していたことがあるのだが、コロナ禍になり実施できずに終わっていた。日野工業団地には32社の企業が入っているので、企業対抗戦ができれば面白い。普段の仕事では見えない、同僚や上司の素顔が見えて楽しい催しになるはず」とコロナ禍も収束した現在、実現に向けて再び検討を進めたいと話している。


検版に費やしていた膨大な時間、紙出力の無駄という課題を解決


 同社では、厳しい品質ニーズに対応するために、印刷機などの生産設備だけでなく、印刷やプリプレスなど、各工程の品質基準を高めるための検査システムの導入も進めてきた。ただ、検版の工程については、依然としてRIP済みデータを分版して出力し、人の目による「あおり校正」というアナログの方法から抜けることができなかった。というよりも、「検版のフルオートメーションを実現したくても、当社のニーズに合致するシステムがなく、自動化したくてもできなかった」(生産本部長 兼 生産業務部長の坂本進自取締役)というのが本当のところだ。そのような中、IGAS2022において、生産本部 生産業務部 クリエイティブ・デザイン課の野原康司担当課長の目に止まったのが、アビッド・フレックスが新製品として発表していたパッケージデータの完全自動検版ソフト「Package Compare KIT」であった。

 「あおり校正は、ある程度の検版の知識とノウハウが必要で、例えば分版して出力すると白黒で出てくるため、イエローの版の場合はこのようになるなどの知識がないと間違いに気付かずスルーしてしまう。しかし、これを教育するには相当の期間が必要になるため、どうしてもベテランに任せるしかなく、属人化から抜け出せなかった」(坂本取締役)

 同社では毎月、約300版を検版する。4色の場合は1,200版となる。紙に出力し、1つの検版が終わるまで1時間はかかっていたようで、膨大な時間を検版に費やしていたことになる。野原担当課長は「版を作成した社員と、別の社員の2人で検版するようにしていたが、午後の時間帯はすべて検版に取られていた。それでも常に5〜6版は検版待ちの状態でテーブルに置かれていた」と導入前の状況について説明する。

 そして、同社はpage2023でも紹介されていた同検版ソフトを改めて検討。「当社の求めていたニーズに合致することが確認できた」(坂本取締役)ことから導入を決定し、今年5月に設置を完了した。取材時は本格運用からわずか1ヵ月ながらも、すでにその効果を最大限に発揮していた。


検版時間は10分。データを流し込むだけの簡単操作で全員が検版可能に

 同検版ソフトは、前回データとの比較、AiファイルやPDFファイル、EPSファイルの変換前と変換後の比較、単面データと面付けRIP済みデータの比較をフルオートメーションで検版できる。データを流し込むだけなので、これまでのようにベテランに頼ることなく、DTP部の全員が正確、かつスピーディーな検版を行うことが可能になった。

スムーズに検版できるようになったDTP部

 「チェックボックスが入ったところを確認するだけのため、1版あたりの検版時間はこれまでの1時間から10分に短縮された」(野原担当課長)。そして、これは検版の時間短縮だけでなく、生産工程全体のスピーディーな運用につながっているようだ。

 「検版はデータ変換の最終関門であるため、とくに慎重な作業が必要になる。そのストレスから解放された効果は大きく、次工程の印刷も生産を止めることなく、安心して取り掛かれるようになった効果は大きい」(理事/本社工場長 兼 製造部長の瀬田秀光氏)

 そして、これまで検版に費やしていた膨大な時間を他の作業に回せるようになったため、人件費の大幅削減につながっていることは言うまでもない。さらに、「これまで検版のためだけに出力していた紙は、検版が終わると当然ながら破棄する。これほどの資源の無駄はない。紙の出力が不要になったことで、紙コストの削減と、結果的に環境負荷軽減にも貢献できている」(瀬田工場長)とトータルコストの圧縮に効果を発揮できていることを評価している。

パッケージデータを簡単・スピーディーに完全自動検版できる

 「当社は無処理版の採用を目指して昨秋にCTPを入れ替えたが、その際にジョブの印字が版面の裏にできるシステムを導入した。このため、版の視認性は不要で、版は個別に確認できる。RIP処理済みのデータをもう一度チェックするのもこれと同じで、同じ作業を繰り返すのは無意味である。今後も無駄のないシステム構築で生産性向上に務めていきたい」(坂本取締役)


今後も困り事に「気付き」のあるアビッド・フレックスの提案に期待


 同社は、2017年にアビッド・フレックスの各種パッケージ/ラベル・商業印刷製版ソフトウェア「Pack#フルセット(パック・シャープ)」を複数台導入。アビッド・フレックスとはそれからの付き合いになるようだが、坂本取締役は「困り事を解決してくれる『気付き』のあるメーカーであるとともに、対応が親切で、かつスピーディー」と評価する。

 そして、同社は2年前にも「iC3D Suite」というパッケージ製品のモデル作成・3Dデザインシミュレーションソフトをアビッド・フレックスから導入。これも自社のクリエイティブ力を育んでいきたいという同社のニーズに合致したという。「実際に製品にしなくてもクライアントに提案できるため、営業も試作やデザインを、スピード感を持って行えるようになった」(坂本取締役)

 坂本取締役は「人手不足の中、自動化により省人化を進めていく」と今後を展望する。そしてその実現のため、今後もアビッド・フレックスの自動化ワークフローのPackFlow等の提案に期待したいということだ。