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[印刷とサステナブル 2023]印刷業界における持続可能な社会の実現に向けた取り組みにフォーカス。

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光陽社、印刷を通じて持続可能な社会の実現へ

顧客の環境ニーズに対応〜CO2削減を軸に多彩な施策を展開

印刷ジャーナル 2023年4月25日号掲載

 (株)光陽社(本社/東京都文京区、犬養岬太社長)は、持続可能な開発目標である「SDGs」に賛同し、経済、環境、社会のあらゆるニーズにおいて、持続可能な社会の実現と経済的価値の創造に向けて積極的に取り組んでいる。2021年には、同社の生産拠点である飯能プリンティングセンターBASE(埼玉県飯能市)のカーボンゼロプリント工場化を実現している。現在では、その環境に配慮した生産能力を活用した独自の印刷サービスを通じて、顧客のSDGsへの取り組みやESG経営に貢献している。

飯能プリンティングセンターBASE

 同社は、1949年に印刷工程における写真製版を主な生業として創業。現在では、主業務を最終成果物である「印刷」にまで拡大し、クライアントに対し、自信と責任をもって製品を提供できる生産体制を構築している。

 その同社では、2000年頃から環境に配慮した様々な取り組みを開始している。2013年には、(一社)日本印刷産業連合会が主催する「第12回印刷産業環境優良工場表彰」において、東京プリンティングセンター(当時)が「会長賞」を受賞。そして2021年には、「第19回印刷産業環境優良工場表彰」において、飯能プリンティングセンターBASE(飯能PC)で「経済産業省商務情報政策局長賞」を受賞している。

 同社がSDGsに関心を寄せ始めたのは、国内でもその取り組みへの気運が高まってきた2018年頃のことだ。同社・生産本部システム部の千葉達也部長は、「SDGsが掲げる持続可能な開発目標と、当社がこれまで実践してきた環境対応や、福利厚生をはじめとする従業員を対象とした健康経営などの取り組みをSDGsに紐付け、整理することで具体的な施策を開始した」と説明する。

 同社では、SDGs推進委員会を設置し、具体的な活動を開始。同委員会には、健康づくり推進委員会も設け、サステナブルを軸とした環境対応と健康経営をリンクした独自の取り組みを開始している。

千葉 部長


カーボンゼロプリント工場を構築


 2021年には、「SDGs宣言」を掲げ、温室効果ガス(GHG)の排出量削減に向けた取り組みを開始し、飯能PCのCO2排出量ゼロ化を実現。具体的には、GHGプロトコルが定めるCO2のサプライチェーン排出量の算定基準「Scope1」(直接排出量)および「Scope2」(エネルギー起源間接排出量)において、「Scope1」はJクレジットにて、CO2排出量をカーボンオフセットし、「Scope2」では、使用電力を再生可能エネルギーに転換することで、カーボンゼロで稼働する工場として地球温暖化対策に貢献している。

 全社的な意識の高まりもあり、2021年度のCO2排出量は、同社全体で電気14%、ガソリン4%の削減を達成。とくに飯能PCにおいては、生産効率の向上と環境活動により、原単位で電気18%、ガソリン23%の大幅な削減を達成している。

 同社のCO2排出量削減への取り組みは、印刷関連資機材にも及んでいる。2013年には、富士フイルム製の無処理サーマルCTPプレートを採用し、CTP版の完全無処理化を確立。さらに同社は、富士フイルムが完全無処理サーマルCTPプレートを対象に行っているカーボンオフセット制度「グリーン・グラフィック・プロジェクト(GGP)」にも参画。「GGP」は、富士フイルム製の完全無処理サーマルCTPプレートを、原材料調達から、製造、輸送、使用、廃棄、リサイクルまでの工程で排出されるCO2を開発途上国のCO2削減プロジェクトに出資して得た排出権でオフセットすることで、CO2の排出量をゼロとした「カーボンゼロプレート」として提供するもの。同社では、すべての刷版工程において完全無処理版を使用することで、印刷工程から発生するCO2の一部をオフセットするとともに、開発途上国でのCO2の削減や雇用創出、インフラの整備といった支援にもつなげている。また、使用済みのCTP版は、クローズドループサイクルシステムであるPLATE to PLATEシステムの活動を通じて、CTP版製造工程におけるCO2の削減にも貢献している。

 「現像機および現像液を完全排除したことで、CTP版出力の無人化と電力や薬品の削減を実現することができた。また、現像液などの管理も不要となったことで従業員に安心・安全な作業環境を提供する健康経営にも効果を発揮している」(千葉部長)

 健康経営への取り組みの1つとして同社では、「25万歩チャレンジ」という活動を全社で展開している。この活動は、従業員が専用アプリを使い、1ヵ月間の歩数を集計し、25万歩を達成した場合、1,000円相当のプリペイドカードがもらえるもの。2年前からは、1,000円のうち500円分をセーブ・ザ・チルドレンに寄付する活動に進化させている。

 「当初は、金額が半分になるため参加者が減るのではと心配したが、自身の健康を保つ活動が世界の子供たちの支援にも繋がることから、多くの社員が参加してくれている。SDGsへの対応と言うと躊躇う人もいるが、実際は多くの人が活動を始めるためのきっかけを求めているのだと改めて実感した」(千葉部長)


環境配慮型プリントとしてサービス提供開始


 CO2排出量削減への取り組みは、「カーボンゼロプリント」として印刷物提供にも水平展開されている。カーボンゼロで稼働する同社で印刷した製品(オフセット印刷・オンデマンド印刷・インクジェットプリント)には、「カーボンゼロプリントマーク」を表示することが可能で、これにより印刷物の発注者は、印刷物を通じてCO2排出量削減への取り組みを訴求できる。

 2022年には、その取り組みをさらに進化させた「カーボンニュートラルプリント」の提供を開始。「カーボンニュートラルプリント」は、印刷物のライフサイクルにおけるCO2排出量を算定し、有償でカーボンニュートラル化するもの。印刷物には「カーボンニュートラルプリントマーク」を表示でき、脱炭素化への貢献をアピールすることができる。さらにカーボンオフセットを行った証としてカーボンオフセット証明書も発行される。

カーボンニュートラルプリントマーク(左)とカーボンゼロプリントマーク

 この「カーボンニュートラルプリント」の提供にあたり同社では、印刷物のライフサイクルにおけるCO2排出量を算定するCFP(カーボンフットプリント)算定ツールを開発。これにより原材料調達・製造・物流・販売・使用・廃棄までの一連の流れ全体のCO2排出量を算定し、印刷物に表示することができる。また、要望があれば見積の段階でCO2排出量を顧客に提示している。

 「カーボンニュートラルプリントは、LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づいて印刷物の材料調達から廃棄リサイクルまでのCO2排出量を算定し、印刷物のCO2排出量を『見える化』するもの。当社で削減したCO2排出量で賄いきれない部分については、顧客に森林クレジットで補ってもらい、カーボンニュートラルを達成させている。これにより生産を担う当社だけでなく、印刷発注者側も森林経営への貢献を通して、地球温暖化対策に容易に取り組むことができる」(千葉部長)

 今や同社のような生産者側だけではなく、その発注者を含め、サプライチェーン全体での取り組みが急務となっている。不足分を発注者側が森林クレジットで補うという仕組みは、以前では受け入れられないものだったのかもしれない。しかしCO2排出量削減という社会要請への対応は、印刷発注者側も避けられないものとなっており、その結果、同サービスに賛同して活用する顧客企業も増えてきているという。つまり印刷の生産者と発注者の双方で環境配慮への理解を共有することで持続可能な印刷物の市場提供が可能となる。


日本サステナブル印刷協会(SPA)を設立


 同社は2022年12月、(株)研文社、弘和印刷(株)、(株)サインアーテック、(株)セントラルプロフィックス、東京平版(株)、(株)丸信、(株)山櫻、(株)トーダンと協力し、「日本サステナブル印刷協会=Sustainable Printing Association of Japan(SPA)」を設立。2023年4月からは、本格的な活動を開始している。

2023年4月より本格的な活動を開始

 SDGsやカーボンニュートラルなどが社会に浸透し、地球環境問題への関心が高まる中、印刷業界においても環境に配慮した取り組みが求められている。そこで、環境に配慮した印刷の普及を図り、印刷業界における持続可能な社会の実現に向けた取り組みをすることで、印刷業界の健全な発展と社会貢献への寄与を目的に、同社を含む9社で構成される「日本サステナブル印刷協会」が設立された。

 同協会を設立した背景について千葉部長は「当社は、カーボンゼロプリントやカーボンニュートラルプリントなどを確立し、自社の強みとして展開してきた。しかしサステナブルへの対応は、すべての産業の課題となっている。そこで当社がこれまでに蓄積した技術やノウハウを提供していくことで、印刷業界も持続可能な社会の実現に取り組んでいることを広く社会に発信していくことが重要だと考えた」と説明する。


CFP算定ツールを提供


 同協会では、環境に配慮した印刷に関する情報収集・発信・交換や研修会やセミナーなどを開催し、環境に配慮した印刷会社の取り組みや印刷物などの普及促進を図っていく。また、同社が開発したCFP算定ツールを会員企業に提供し、印刷物のライフサイクルにおけるCO2排出量の削減と見える化を支援していく。さらに、この算定ツールを活用してカーボンニュートラル化した印刷物には、環境ステータスマークである「カーボンニュートラルプリントマーク」を表示することもできる。

 また、CFP算定ツールは、国の施策などを踏まえ、今後もブラッシュアップを行い、常に最適なツールとして活用できるように改良していく。

 「カーボンゼロやカーボンニュートラルといった環境配慮の取り組みへの理解は、残念ながらそれほど高くないと考えている。しかし、この理解が浸透していけば、印刷業界も社会に貢献することができる。日本サステナブル印刷協会では、そのための支援を積極的に行い、社会に貢献する印刷業界としての理解を広めていきたい」(千葉部長)

 SDGsへの対応が求められていることを認識しつつも、実際に何から取り組めばいいのか判断がつかない印刷会社も多いはず。同協会では、今後の活動を通じて、印刷業界として持続可能な社会を実現できるモデルケースを研究・実践し、広くその情報を発信していく方針だ。

 なお、今年7月には会員向けに、同協会のアドバイザーを務める(一社)日本LCA推進機構(LCAF)の稲葉敦理事長を講師に迎えた講演会の開催も予定している。