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印刷ビジネスにおける新たな生産プロセスへのアプローチとして、プロセスフリープレートをはじめとした環境配慮型CTPが話題になっている。現像工程を必要としない無処理CTPは、現像液の削減や節水、省エネルギーといった環境対応項目はもちろんのこと、自動現像機のメンテナンス作業負担削減や省資源、液管理、廃液処理コスト削減など、経済的なメリットも大きい。とくに、これまでボトルネックとなっていた視認性や生産性の改善をはじめ、ロングラン印刷適性、UV印刷適性などが付加され、輪転機での使用事例も見られる中、今後国内でも確実に導入が進んでいくと予想される。そこで今回、環境対応型CTPの現状と可能性に迫るべく、無処理プレート・ケミカルレスプレートをクローズアップし、「経営を変えるプレート技術」と題してシリーズで特集する。

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コーセイカン、アズーラ「基点」に「真似のできない品質」創造へ

[現像レスプレート「Azura」採用事例]資材コスト4.3%削減:オフ輪・枚葉で一気に全面採用

印刷ジャーナル 2020年5月15日号掲載

 「品質に責任とプライドを」─女子マラソンでオリンピック選手も輩出する百貨店「天満屋」のグループ企業として印刷・クリエイティブ事業を担う(株)コーセイカン(本社/岡山県倉敷市下庄1126-6、山野睦治社長)は2017年8月、アグフアの現像レスプレート「アズーラ」を全面採用し、水を究極まで絞る「速乾印刷」を確立。結果、インキ使用量4.7%減をはじめとする材料経費の大幅な削減を達成するとともに、紙面温度設定値を10℃程度下げることでブリスターやひじわ、波打ちを抑制。他社が簡単に真似のできない「個性ある印刷」を目指し、新たな企業価値の創造に乗り出している。

水が絞れる「アズーラ」

チャレンジ精神が「成長エンジン」に

 コーセイカンの創業は1937年。「岡西館印刷所」として「晴れの国 おかやま」の地で産声をあげてから今年で83年目を迎えた老舗の総合印刷会社である。1969年には、事業規模の拡大とさらなる近代化・合理化を目的に(株)天満屋と業務提携。現在は、天満屋100%出資のグループ企業として、倉敷の本社工場のほか、岡山市内に岡山オフィス、ストアチームという2つの営業・デザイン拠点を展開している。

 オフ輪・枚葉を両輪とした印刷事業を柱とする同社だが、その最大の強みは、そこに付加価値をもたらす「クリエイティブ力」にある。現在の従業員数110名に対し、グラフィックデザイナー、Webデザイナー、プランナー、ディレクターなど、クリエイティブ分野の従事者が40名以上在籍していることにも、その企業特性がうかがえる。管理統轄の岩井馨取締役は「設備や生産能力においては、岡山県内の競合他社と比較して優位とは言えないが、ソフト面での対応力、企画提案力、柔軟性に大きな強みをもっている」と説明。若い世代を中心とした「新しいものにチャレンジする想い」が同社の成長エンジンとなっているようだ。

 現在の取引先別の売上構成比率は、天満屋グループ企業が53%、その他一般顧客が47%。天満屋グループ内ではスーパーマーケット「天満屋ストア」の折込チラシや販促ツールを、岡山と倉敷エリアの天満屋(デパート)にも折込チラシやPOP、帳票類、包装紙などの印刷物を供給している。

岩井 馨 取締役

印刷オペレータは「作業者」ではなく「技術者」

 そんな同社が、アグフアの現像レスプレート「アズーラ」の可能性に着目したのは2016年。同年9月に岩井取締役が製造部門の責任者に就任したことがきっかけとなる。「入社以来、デザインを17年、営業を1.5年経験してきた私が、まったく畑違いの製造部の責任者に就任。当時、印刷技術に関しては素人同然だったが、逆に先入観がなかったことでアズーラの良さが素直に理解できたのかもしれない。『新しいものが好き』という私の性格もアズーラへの興味を膨らませた」(岩井取締役)

 一方、同社では2017年夏に刷版の自動現像機の保守契約が切れるため、次の設備更新をどうするかという現実的な課題にも直面していた。CTPが1ラインしかない同社では、異なるメーカー資材の併用は現実的に難しく、版材を一気に変えることのリスクも想定する必要があった。

 ただ、近隣の競合他社と比べて設備や生産能力の面で決して優位ではない立場にある中、他社が簡単に真似のできない「個性」をどこに見出すかを模索していた同社にとって、アズーラによる速乾印刷はひとつの選択として大きな魅力があった。

 「もちろん速乾印刷による工期短縮は大きな魅力。しかし、それだけで近隣のUV印刷機を所有する印刷会社との差別化は難しい。アズーラの魅力として個人的に最も心を動かされたのは、他社製品では真似のできない品質の印刷物をつくりだせる可能性を感じた点である」(岩井取締役)

 一方、新しいことへのチャレンジに貪欲なのは、製造チームの小田幸市部長も同様である。

 「オフ輪のオペレータ時代から、自らに一貫して2つの改善項目を課していた。それは顧客のための『印刷品質の向上と安定』と、自社・自分のための『効率化による作業時間短縮』である」(小田部長)

 大阪の校正印刷会社が発端となった胆管がん発症問題以降、印刷資材の見直しを進めてきた同社では、小田部長の方針のもとで、第2種有機溶剤の使用を撤廃し、第3種有機溶剤への切り換えを進めていた。しかし、それによって印刷への対応力を再構築しなければならず、とくに裏付きや水ちりの問題発生時には、苦慮していたという。

 そこで小田部長もアズーラの「水が絞れる」という特性に着目していたという。「フラットサブストレートと呼ばれる浅くて細かな砂目構造によって水とインキが絞れるアズーラの特性は魅力的だった。その分、メンテナンスの重要性も理解していた。版を変えることに対するオペレータの抵抗もあったが、将来の方向性をしっかりと説明し、その不安を払拭していった」(小田部長)

小田 幸市 部長

 満を持して2017年5月にアズーラによるテスト印刷を実施。結果、オフ輪機・枚葉機いずれも良好な結果を得た。当時について岩井取締役は「品質面での取り扱い難易度は高い資材だが、テスト印刷の結果、当社の印刷オペレータのポテンシャルを改めて感じた。印刷物は水を絞るのが基本中の基本。その原点を小手先でごまかしていては成長できない。『印刷オペレータは、作業者でなく技術者である』という小田部長の考えともマッチしている資材だと感じた」と振り返る。

 このテスト印刷の結果をもって2017年8月に保有するすべての印刷機(枚葉菊全機・菊半機・四六全判機、オフリンB判機2台)で一気にアズーラを全面採用。「アグフアによる機械メンテナンスを基本とした技術指導を受け、一気に立ち上げた。正直、不安はあったが、何らトラブルもなく、スムースに移行できた」(小田部長)

オフ輪・枚葉で一気に全面採用

「人材育成」でも効果発揮

 アズーラ全面採用による速乾印刷のコスト削減効果は数字として表れている。まず、パウダー量だ。2016年のパウダー使用量は年間220kgだったのに対し、安定運用に入った2019年では160kgにまで減少。インキ使用量においても全機で4.7%の削減を達成している。さらにオフ輪では、従来120〜125℃だった紙面温度設定を、現在では110〜115℃まで抑え、低温乾燥印刷を実現。ドライヤーの乾燥温度を下げることによる使用電力削減というコストメリットとともに、ブリスターやひじわ、波打ちの発生を抑制。顧客からもその品質に高い評価を得ている。結果、アズーラへの全面切替にともなう印刷資材のコスト削減効果は4.3%、金額で年間184万円におよぶ。

 一方、刷版の管理については、「現像液を使用せず、ガム処理液だけになったことで、人体への影響に対する不安が払拭され、取り扱いに安心感が高まった」というCTP担当者の声があるほか、メンテナンス面でも「負荷軽減」という効果が生まれている。同社では3ヵ月に1回という処理装置の清掃ペースは変えていないものの、その1回当たりの所要時間は、従来丸1日かかっていたものが、現在では半日程度にまで短縮。「処理装置の中のローラー自体の本数は増えているものの、清掃作業自体が楽になったことで時間短縮に繋がり、オペレータの負担軽減にも繋がっている」(小田部長)

 また、小田部長は、「人材育成」の面からもアズーラ採用の効果を挙げている。

 「アズーラは水を絞らざるを得ないプレート。そのためにはしっかりとしたメンテナンスの実施で常にコンディションを整えておく必要がある。以前は私が月1回メンテナンスの指示を出していたが、いまでは私が指示しなくても、例えば版待ちがあった場合などは、自主的にオペレータがニップ調整やメンテナンスを実施するようになり意識が変わった。ある意味、アズーラは『プロフェッショナル用の版』だと思っている。アズーラで印刷することによってプライドも持つようになった」(小田部長)

 小田部長は現在でも、印刷後に外した版をシビアな目でチェックしているという。「水が絞れていなければ版面にインクが載っていないし、絞れていれば版面にインクがベタベタに付いている。最も重要なのは、両端に均等にインキが付いているかどうか。ある意味、印刷後の版チェックは、メンテナンスに対する『答え合わせ』である」(小田部長)

アズーラで印刷することによるプライドも

資材コスト削減と効率化にさらなる改善余地が

 「品質向上」「コスト削減」「工期短縮」に加え、「環境対応」や「人材育成」にまで波及効果をもたらした「アズーラ速乾印刷」。これら一定の成果を踏まえ、印刷現場では新たな挑戦も始まっている。そのひとつがさらなる資材コストの削減だ。そこで、まず小田部長が着目したのがH液の使用量である。「現在、H液にかかる年間コストは120万円程度。これを『水を絞ること』で削減したい。実際オペレータには『H液に頼らず、水だけで印刷しろ』くらいの意気込みで指導している。目標としては半分程度まで削減したい」(小田部長)

 また、ローラー交換頻度の低減も視野に入れている。同社では、通し数を見ながら1〜2年でローラーを交換している。これを現像レス、あるいは水を絞ることによる効果として、2〜3年に伸ばせる余地があるとしている。これについて小田部長は、「H液の使用量が少なければ、そこに潜む不純物がローラーに付着することを抑制できる。現在、ローラーの硬度は未使用時で24〜25度。それが輪転で30度、枚葉で28度以上になると水上がりが悪くなり、汚れの原因にもなる。これを常にチェックし、交換時期を延ばすことで印刷機1台にあたり数十万円のコスト削減に繋がる」と説明。当社が使用する高梁川からの水はカルシウムを多く含んでいるため、印刷機の水槽にカルシウムを除去するフィルタを設置。これもローラー寿命を延ばす施策である。

 一方で、効率面では、両面印刷時における乾燥待ち時間のさらなる短縮にも挑戦していく考えだ。「油性機での両面印刷において、表面印刷後、裏面を印刷するまでの乾燥待ち時間は作業効率、ひいては納期に大きく影響する。これを如何に縮めることができるか。アズーラ採用前の乾燥待ち時間は約30分だったが、現在は平均15分にまで短縮できている。これをさらに5分程度短縮したい」(小田部長)

「コーセイカン品質」の基点に

 折込チラシの需要減少にともないオフ輪の受注は減少傾向にある一方、強みである企画デザイン部門と営業の努力によって枚葉とオンデマンドの受注は、新規の会社案内や博物館・美術館系の図録など、消費型ではなく手元に残る印刷物が増加傾向にあるという同社。また、公募型のイベントやキャンペーンの受注も獲得し、そこで使用されるポスターやリーフレットなどの印刷物が顧客から高い評価を得て、社員の自信にも繋がっているという。

天満屋グループに折込チラシや販促ツール供給

 そのような環境下、同社では2020年度の経営方針モットーを「コーセイカン品質〜責任とプライドを持つ」と定めた。ここでも「アズーラ」による速乾印刷は重要な役割を担うことになるだろう。「プレートを変える」、決してドラスティックな改革ではないものの、プレートというひとつの資材をきっかけに同社では多くの効果を生み出し、「アズーラ」が他社との差別化戦略における「基点」となっている。それをさらにブラッシュアップし、他社に真似のできない「コーセイカン品質」を追求していく考えだ。

 「『工場の改善で印刷会社全体の変革を目指す』というテーマで、アズーラ速乾印刷について議論するアグフアの『工場長サミット(関東)』の取り組みは聞いている。今後、西日本での開催があれば、ぜひ小田部長を派遣したい。各社が取り組む工夫や技術を互いに共有できれば、さらなるステップアップに繋がると期待している」(岩井取締役)