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トップ > 特集 > 検査関連機器特集 2020:[寄稿]求められる検査エビデンス:ジクス 高原亮介社長

 「印刷物」を「工業製品」と捉える以上、その製造メーカーには「品質保証」というひとつの責任が生じる。そこには生産工程における機資材の見直しや工程間での工夫など、様々な手段が考えられるわけだが、最終手段はやはり生産物を「検査」「検品」するということになる。印刷業界においても多くの検査関連機器が市場投入されており、「不良品をどう処理するか」、また「不良の原因を如何に生産工程へとフィードバックするか」といったシステマチックな検査工程から生まれる高品質で安定した製品供給は、クライアントの信用を獲得する手段であり、 問題があった時もその製品の出荷時の検査記録などがチェックできる体制にあるかどうかが発注先の評価対象に加えられるようになってきている。つまり検査エビデンスの存在が求められるようになってきているということだ。また一方で、多品種・小ロット・短納期化が進む中では品質管理の検証による作業の効率化、損紙低減によるコストダウンなど、経営的観点からも重要性を増している。そこで今回は「検査関連機器・システム」を取り上げる。

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[寄稿]求められる検査エビデンス〜新技術による進化が原理原則

ジクス株式会社 代表取締役 高原亮介氏

印刷ジャーナル 2020年3月15日号掲載

ジクス・高原社長
​ 当社の「GICS」という社名は、「Graphic Inspection Camera System」の頭文字から取った、文字通り印刷に特化した検査装置メーカーである。検査装置は自動車や電気製品などあらゆる製造業の工程にあるが、当社は取り分け印刷という分野に特化した検査装置メーカーとしてのコンセプトでスタートした。印刷という製造業の持つ難しさ、様々な分野の技術が互いに絡み合い、人間のセンスが加味されて判断されるこの分野は、様々な検査装置を手掛けて片手間でできる仕事ではないと考えたからである。GICSという社名は、そのような信念から成っている。

 私が初めてオフセット枚葉印刷機の検査装置を手掛けたのは2000年のDRUPA直後で、当時の印刷業界は最高のピークは過ぎてはいたものの、好景気でとても華やいでおり、次々に新しい技術が開発され、それが新しい印刷機に搭載されることで技術の進歩と業界の発展が同じフェイズの中で成長し続けていた力強い時代だった。

 検査装置は高生産の輪転印刷機においては普及し、ポストプレスにかけても様々な検査装置が導入されていたが、枚葉印刷機のように印刷品質にこだわる刷り物の分野では、まだまだ一部の先進的な印刷会社が採用し始めた時代だった。当時の検査装置に対する印刷会社の感覚は「出張検品や刷り直しになっている印刷の不良を発見して知らせてくれる装置」であったと思う。

 そのような「必要が発明の母」の流れの中で、印刷現場が求める検査装置の機能をヒアリングしながら開発した印刷検査装置だが、導入後の評価を調べていくとうまく活用できているという会社と、そうでもない会社があることがわかった。

 うまく活用できない背景には、日増しに厳しくなる競争と、そこから生じた品質要求の中で、良品域がどんどん狭められていき、目で見てもなかなか判別できないものまでクレーム品として扱われるようになってきたことで、検査機だけでは判断できないようなものが不良としてクレーム対象になってくる中で、検査装置だけで良品・不良品を判別しようとすると望んだ結果が得られないというものだった。

印刷検査装置の本質は「見える化」装置

 ところがお客様の中には、「おかげでクレームがゼロになったよ」と評価してくれる会社も少なからずある。私はこの違いが知りたくて、そのような印刷会社にヒアリングした。そこで聞いたのは次のようなことである。

 「高原さん、品質検査装置は欠陥をなくしてはくれないよ。でも検査装置はオペレーターの『第3の目』なんだ。検査装置を取り付けることでわからなかったことが沢山見えるようになるから、それを元に様々なことを直していくんだ」

 うまく使っている会社は検査装置で「見える化」したものを活用して印刷工程を改善していたのである。その会社では検査装置から得られた情報で湿し水を中心にあらゆる問題点を各個撃破で改善。まさに「見える化」により上流側を改善した実践例がそこにあった。

 このことから私は、品質検査装置を「欠陥をなくす装置」ではなく、潜在化している問題点を顕在化させる「見える化装置」として使用することが印刷会社にとって最も良い活用方法だと理解し、お客様にもそのような使い方を提案するようになった。

 一方で印刷現場の実情を見ると、景気の減退や人材不足から印刷機へ付く技術者も個人のスキルを追求する職人型から、ボタンを押して操作するまでの作業者型へ変わってきているのも事実だが、いつの時代でも最も重要な人材を育てるためにも検査装置のトレーサビリティーや記録性は会社の将来を担う経営者、技術者を育てるツールとして最適なものであると考えている。

成熟社会がもたらした、印刷の品質保証に対する変化

 ここ近年、印刷市場がかつてのように拡大しない変化の中で、品質保証による差別化に設備投資が割かれる率が増え、品質検査装置の普及率は格段に高まった。社会も結果が得られれば良かった状況から、結果はもちろん、過程も重要視するように変化してきたこととも無縁ではないだろう。

 そんな背景から、今までは良品であればそれで良かったという状況から、「検査工程を経ているのか、検査済のものが納入されているのか」、つまり「社内で出荷基準や品質基準が制定されているかどうか、またそれらの基準を満たした認証済みのものが出荷されているかどうか」が発注者側から問われるように変わってきているように見える。

 このような変化の中では「印刷不良が見つかった」など、問題があった時もその製品の出荷時の検査記録などがチェックできる体制にあるかどうかが発注先の評価対象に加えられるようになってきている。つまり検査エビデンスの存在が求められるようになってきているということだ。

 このことは、かつて重箱の隅をつつくように印刷クレームをつけられたという実情から、一定の品質基準内で全数検査チェック済みのものであるかどうかが問われるように変化していることを表している。そしてこの方向性は、他の製造業が行ってきた品質管理の方向でもあり、印刷会社にとっても望ましい、新しい検査装置の活用方法になると思われる。

新しい技術が要求する品質に適合することが検査装置の役割

 いつの時代も、より秀でたものが価値あるものとされる以上、印刷に限らず、どのような業種であっても品質の良さを競うことがなくなることはない。「検査装置を導入したい」、または「検討している」という様々な印刷会社に実ニーズを聞いていると、発注者が印刷会社に求める品質要求に中には目を凝らして見てもなかなか見つからないキズのようなものが問題とされていたりもする。
しかし、このような要求に応える仕事は普通の仕事と比べて非常に付加価値が高くなっていたりもする。
価値観の多様化により、とことん品質にこだわる分野とそうでない分野があり、こういったことは当社のような検査装置メーカーが考える従来からの検査装置の守備範囲、例えば「これ以上の欠陥を検出することは無理だ」とか、「検査装置が検出できるのはこの程度まで」といった判断は意味を成さなくなり、それは進化の原理原則から外れることでもあると考えるようになった。

 時代の変化に適応し、新しい技術を積極的に取り入れながら、新しい印刷市場を開拓しようとする、そんな印刷会社から今後も新しい要求を受け、より高い要求に応えるべく開発を続けていくことがこれからの検査装置メーカーの進む方向だと思う。