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「進化する製本・後加工」特集

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中正紙工、ホチキスを「名脇役」に

デザイン、安全性に優れる「紙のホチキス」

印刷ジャーナル 2020年3月5日号掲載

 日本の伝統技術「水引」。祝儀や不祝儀の際に用いられる和紙でできた飾りで、贈答品の包み紙などにかける紅白や黒白の帯紐のことだが、これを中綴じ製本のホチキスとして活用することでデザインや安全性を高める「紙のホチキス」がpage2020で注目を集めた。開発したのはペーパーリングカレンダーを手掛ける(有)中正紙工(東京都江東区、中村勝彦社長)だ。全7色のカラーバリエーションがあり、中村社長は「安全性に優れることはもちろん、これまでは脇役中の脇役であったホチキスを 『名脇役』として引き立てることができる」と、紙のホチキスをデザインに組み込むことによる付加価値向上を提案している。

全7色の「紙のホチキス」を手に中村社長

 「人と環境にやさしいものづくり」を目標に掲げる同社がペーパーリングをこの世に送り出したのは2005年。そしてペーパーリングの特許技術を応用して2010年に特許を取得したのが水引を「針金」として活用する「紙のホチキス」である(現在は両特許譲渡)。それは単に紙を硬くすればできるというものではないようで、中村社長は「そもそも硬くする加工はしていない。元々ある水引そのものを活用している」と説明する。はじめに紙に穴を明け、そこに水引を刺し、最後に熱で接着するという方法になるが、「水引を紙に刺すにはどうしたらいいか、その技術が最も難しかった」と中村社長は振り返る。水引の接着に関しては、ペーパーリングと同様に熱で綴じる技術を応用しているという。

日本の伝統技術を世界へ--。新しい表現の可能性を提案

 「紙のホチキス」のカラーバリエーションは現在、赤・白・黄・桃・紫・深緑・緑の全7色。これらを中綴じ製本のホチキスとして使用する場合は2本のリールを使用するため、同じ色だけでなく別々の色を使用することも可能だ。例えば、おめでたい席の案内状などでは赤と白のホチキスを使用したり、黒い表紙に黄色のホチキスを使用して目立たせるようにすることもできる。

 中村社長は「中綴じの針金はこれまで、脇役中の脇役と言ってもいいほど目立たない、できれば目立たせたくない綴じ具であったが、全7色のカラーバリエーションを上手く活用することにより、主張するホチキスにできるようになる。主役とまではいかなくても、『名脇役』としてアイテムを引き立てることができるようになる」として、紙のホチキスをデザインの一部に組み込むことによるアイテムの付加価値向上を提案している。

「魅せる」アイテムとして活用できる

中綴じカレンダーで採用実績。page、販促EXPOでも反響

 同社は「紙のホチキス」を2月のpage2020で紹介し、来場者の注目を集めた。採用実績はまだまだ少ないようだが、中村社長は「中綴じカレンダーで使用されている事例はある。また、今回のpageで興味を持っていただいて決定した案件もある。文具メーカーなどからも、ノートなどのオリジナルブランドに活用したいという声は多くいただいている」としており、今後の受注拡大に期待する。

 価格は針金の中綴じと比べると目安として3倍と高値であるが、中村社長はデザインと安全性に優れることを訴求しながら受注を伸ばしていく考えだ。「子供やお年寄りが手に取る冊子などでも安心、安全に使用できることを前面にアピールしていきたい。一昨年は販促EXPOに出展し、子供向けノートを提案し来場者の反響を得ることができた」(中村社長)

「エコはエゴ」。選択肢の1つとして提案

 「紙のホチキス」と聞くと一聞、環境対応をアピールする製品と考えてしまいがちだ。しかし中村社長は、そのアピールに「環境対応」という言葉はあまり使わないという。その理由について聞くと、「エコはエゴ」だと説明する。

 「当社ではカレンダー製本を得意としているが、例えば金属のリングカレンダーであれば、使用するのは紙と金属のみであるため完全分別することができ、100%リサイクルできる。一方、タンザックのようなエコカレンダーであっても、ホットメルトの種類によってはリサイクルの際に紙と混ざってしまい、古紙再生が難しい場合がある。この観点で言うと、環境対応とはその人の考え方によって変化するものであるため、紙のホチキスにおいても、環境対応をアピールの前面には出していない」(中村社長)

 たしかに、金属のリングカレンダーであれば分別するという工程は発生するが、分別さえすれば紙のみの100%リサイクルが可能な製品となるわけだ。このため、同社では中綴じ製本においても、クライアントの求める環境や安全への取り組みや予算、納期、ロットなどのニーズに応じて、針金の中綴じ製本以外の選択肢の1つとして「紙のホチキス」を提案していくという。

 なお、同社はGP認定やFSC森林認証の環境認証を取得しており、環境に配慮した製本を安心して発注できる企業であることが制度面からも証明されている。「人と地球にやさしい製本の未来を創造していきたい」(中村社長)とする同社の取り組みに注目したい。