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インクジェットテクノロジーが印刷ビジネスにもたらす新たな事業領域とは。

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堀内カラー、可能性秘める「厚盛印刷」〜「色を見る力」で印刷業界と協業へ

「品質」と「生産性」をバランス良く両立:フラットベッドUVIJ「JETI MIRA」導入事例

印刷ジャーナル 2019年9月15日号掲載

 プロラボ最大手の(株)堀内カラー(本社/大阪市北区万歳町3-17、吉本高久社長)は昨年2月、「品質」と「生産性」をバランス良く両立したハイエンドフラットベッドUVインクジェットプリンタ「JETI MIRA 2732 HS LED」を東京プロダクトセンター(東京都杉並区和田1-6-7)に導入。銀塩プリント時代から培ってきた「色を見る力」をベースに展開するビジュアルコンテンツ制作に「厚盛印刷」などの「新たな価値」を付加することで、印刷業界との協業も視野に入れた、ディスプレイ事業分野の新たな市場開拓に乗り出している。
ディスプレイ事業の新たな戦略機として導入された「JETI MIRA」

業界再編を乗り越え、創業60周年

原嶋 所長
​ 同社の創業は1959年。「堀内カラー現像所」として大阪市北区の地で産声をあげた同社は、その名の通り、カラーフィルム現像を主体とする、いわゆる「プロラボ」として事業を拡大し、1966年には東京進出を果たすとともに、その後、積極的な設備投資でプロラボ最大手と言われるまでに急成長を遂げ、1997年には大阪証券取引所市場2部への上場を果たす(2008年、MBOにより非上場に)。

 しかし、この分野は2000年頃から急激にデジタル化が進行したことは周知の事実だ。同社の「根幹」とも言える事業だったカラーフィルム現像、デュープ(複製)の市場はドラスティックなまでに縮小し、同社の経営を直撃。しかし、デジタル化に備えて、「人」「物」「金」の多くの経営資源を投下することで、その時を迎える準備を早くから進めてきたことが功を奏し、多くのプロラボが淘汰される中、同社はこの業界再編を乗り越え、今年、創業60周年を迎えている。

 「ビジュアルコンテンツ制作の総合デパート」を標榜する堀内カラーでは現在、写真サービス、フォトアート、アルバム、ブロマイド、デジタルアーカイブ、ビジュアル制作、ディスプレイといった7つの事業を展開している。このことについて同社・東京プロダクトセンターの原嶋純一郎所長は「競合会社では特化型のビジネスモデルが多い中、当社は『一通り何でもできる』という汎用性、守備範囲の広さを強みとしている」と説明。東京の杉並、青山、そして大阪に生産拠点を構え、約230名の従業員が、ビジュアルコミュニケーションパートナーとしての機能に従事している。

インクジェットと銀塩は8対2

藤原 課長
​ 7つの事業の内、売上全体の4割を占めているのがディスプレイ事業である。コスメ、アパレル、交通系などのクライアントを有するメイン事業だ。

 同事業における従来の製造工程は、大判デジタル銀塩プリント機でデジタルデータを写真感材にレーザー露光するというもの。もちろんここには現像液を使用する工程がある。

 同社がこの事業においてインクジェットプリンタをひとつの出力デバイスとして採用したのが1996年。当時、「黎明期」とも言える時期にあったインクジェットプリンタの導入は、品質・生産性の両面で苦戦を強いられたという。当時について制作1課の藤原貴司課長は「銀塩プリンタと比較して、その品質には雲泥の差があった。銀塩プリンタをハイクオリティな仕事、インクジェットプリンタを短納期で価格重視の仕事というように使い分けていた」と振り返った上で、「いまでは、その差はなくなり、逆にインクジェットプリンタの方が上という評価もできる。現在は8対2でインクジェット出力が主流になっている」と説明する。

 さらに藤原課長は「当時、電飾看板(フィルム)の出力において、インクジェットプリンタはバックライトで照らすと濃度が出ず、黒を黒として表現できなかったため、銀塩プリンタを使用していた。いまではその品質・技術も向上し、インクジェットプリンタに移行している」と説明する。この技術革新におけるコストメリットは非常に大きく、フィルム、PET素材への印刷においては1/5程度になる。

 なお、百貨店のコスメフロアーで採用されている電飾看板の大半が同社で制作されたものだという。「コスメ関係の仕事はシビアな品質要求がともなう。この実績は銀塩から培った『見せるため』のビジュアルづくりへのこだわりと、当社の『色を見る力』が評価されたもの」(原嶋所長)

必須だった白インク

 「ビジュアルコンテンツ制作の総合デパート」を謳うだけあって、同社が設備するインクジェットプリンタも用途に応じて水性、溶剤系、ラテックス、UVといったインク適性にバリエーションを持たせている。ただ、これまではこれらすべてがロール機だった。

 2年程前からボード(板物)へのダイレクトプリントで、大量ロットの見積もりが頻繁に入るようになったものの、ロール機しかない同社では、紙にプリントしたものをアルミ複合板に貼り合わせるという工程を強いられるため、これを1,000枚単位で受注するのは現実的に難しい。そこでボードにダイレクトプリントできるフラットベッド型のワイドフォーマットプリンタ導入に向けたプロジェクトが立ち上がった。

 そこで機種選択の条件となったのが「白インクがしっかり載るUVタイプ」だった。「取り扱うのは白い素材だけではない。例えば黒いボードにカラー印刷すると当然色が沈んでしまう。そこには一層下に白インクを引くことが必須になる。また、当然ながら白インクによる意匠という付加価値も視野に入れていた」(原嶋所長)

 同社では早速、5社のプリンタを検証。結果、最終的に白羽の矢が向けられたのがアグフアの「JETI MIRA 2732 HS LED」だった。その決め手となったのは「品質と生産性の両立」だ。

 「『品質』はもちろん必須条件だ。しかし、我々は美術作品を制作しているわけではない。そこには商業ベースで採算の合う『生産性』が必要だ。ディスプレイ製品を制作する上で、これらをバランス良く両立したプリンタがJETI MIRAだったということ。迷うことはなかった」(原嶋所長)

 また原嶋所長は、アグフアのサポート体制も選択理由のひとつに挙げている。

 「機械が良ければいいというものではない。生産機である以上、バックアップ体制は重要な要件となる。サポート面では既設機で痛い目にあってきたが、それに対してアグフアの24時間体制のサポートは安心できる」(原嶋所長)

質感や凹凸感をリアルに表現する「厚盛印刷」

奥津 氏
​ 2018年2月、ディスプレイ事業の新たな戦略機として「鳴り物入り」で設置されたJETI MIRA。オペレーションを担当する制作1課の奥津謙介氏は「まず、一番驚いたのは『生産スピード』である。通常のものならば、既設機で1週間かかっていたものが、たった1日程度で終わってしまうぐらい速い」と評価する。JETI MIRAの出力スピードは、標準モードで43平方メートル/時。スペック上でも既設機を圧倒する出力スピードを誇る。また、従来のような貼り合わせる工程を排除できること、またインク単価も含めると相当のコスト低減効果が見込めるという。

 「導入から約1年半、大きなトラブルはなく安定している。UV機は3台目になるが、既設の2台で苦労したパスのスジや粒状感の問題もない。メンテナンスの対応も早く、JETI MIRAに関しては、スムースに立ち上がった印象しかない」と語る奥津氏は、RIP処理の速さや直感的なインターフェースによる操作性も高く評価している。

 「圧倒的な生産性」に加え、「新たなアプリケーションへの開発意欲を掻き立てるプリンタ」として高い評価を得るJETI MIRA。その代表的な特殊機能が「厚盛印刷」と「3Dレンズ印刷」である。もちろん堀内カラーでも、この「付加価値創造機能」は機種選択を左右する大きな要素となっている。

 なかでも現在最も引き合いが多いのが「厚盛印刷」だ。これは、言うまでもなく、実際のデザインの質感や凹凸感をリアルに表現できる印刷機能。例えば、油絵の複製では、厚盛りによるタッチの表現とニスによる質感の再現でクライアントからの反響も大きいようだ。

 この「厚盛印刷」は、他のプリンタでも多層印刷することで物理的には可能だが、生産性という面で商業ベースでは現実的でない。しかし、JETI MIRAの場合、プリントヘッドから通常の最大1,200%のインクを吐出できるため、ワンパスでも0.3ミリ程度の厚盛りが可能である。油絵の再現では、ワンパスで十分そのタッチを表現できるそうだ。

 「工夫次第でやれることが沢山ある。使っていて楽しい機械である」(奥津氏)
果物の断面の質感を厚盛印刷を表現したカレンダーのサンプル

「何でもできる、欲が出る機械」

 最近では、店舗内の壁面に使う石膏ボードなどの建材に直接印刷するというニーズもある。「建材のようなものから口紅のキャップへの厚盛印刷など、大きな物から小さな物まで、我々には思いもよらないニーズがある。改めてJETI MIRAの守備範囲の広さに驚いている」(藤原課長)

 また、同社は現在、什器に注力しており、その工程で「折る」という作業がともなうが、従来のUVインクでは割れてしまうケースも多い。これに対してアグフアのインクは、柔軟性・伸縮性に優れ、印刷後に折っても割れにくい特性があるほか、さらにラミネート適性にも優れ、シルバリング(ラミネート時に発生する空気の巻き込みによるグラフィックの白化現象)なども発生しにくい。

 JETI MIRAを「何でもできる、欲が出る機械」と表現する原嶋所長。今後は、稼働率向上に向けて、海外へ流出しつつある大量ロットのボードへのダイレクト印刷の需要を取り込んでいく一方で、小ロットで大判サイズのポスターなどの分野を中心に、印刷業界との協業の可能性を探っていきたいとしている。

 「プロラボと印刷業界は近いようで遠い存在だった。しかし、最近はその垣根がなくなりつつあり、棲み分けが難しくなっている。そのことを『競合』と見なすのではなく、いまは協業していく時代だと私は考える。互いを補完する関係を構築しながら、ともに市場を獲得していく。現在、そんなことを考えている」(原嶋所長)

 また、藤原課長も印刷会社との協業の可能性について「都内に設置しているJETI MIRAは、当社の1台だけだと聞いている。印刷会社の方々にもぜひ見学に来てもらいたい」と呼びかけている。

 写真家、コスメ、アパレルなどの厳しい品質要求に応えることで育んできた「色を見る力」により、他のディスプレイ会社とは一線を画する存在だと言える堀内カラー。印刷会社との協業においても、その「色を見る力」は大きな武器となり、印刷会社にとっては心強いパートナーとなりうる存在である。