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システマチックな検査工程で品質保証と効率化目指す

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【寄稿】新技術が要求する検査 〜 技術の進歩こそが原理原則

ジクス株式会社 代表取締役 高原亮介氏

印刷ジャーナル 2019年3月15日号掲載

 いつの時代でも、より秀でたものが価値あるものとされる以上、どのような業種であっても、品質の良さを競うことは未来永劫なくなることはない。料理であろうが電気製品であろうが同じことである。

 小生は、重箱の隅を突くような印刷のアラ探し的品質チェックには元から否定的だったので、デジタル印刷の出現と普及により、オフセットの世界においてもあまりにも微細な欠陥探しであったり、ユーザーにとって見分けがつかないような色の違いを問題視することは収束し、その代わり検査工程を「経た、経ていない」を問う「検査エビデンス」を残すことが検査装置の役割となる時代が来たと考えていた。また実際に現在はその様な傾向が強くなりつつあることも感じている。

ジクス・高原社長
​ また、オフセット印刷のインライン検査装置の真の効果は、潜在的な印刷の変化をリアルタイムで「見える化」することによりオペレーターの第3の目となり、問題が潜在化したままで発生するヒッキーなどの印刷不良を根絶するツールとしての機能だと説いてきたし、今もそうあるべきだと信じている。

 しかしながら日本全国、海外も含めて「検査装置を導入したい、または検討している」という様々な印刷会社の方々と毎日のようにお会いし、実際のニーズをお聞きし、そこで見聞きする情報、印刷発注者が印刷会社に求める品質要求が製品分野によっては、前述のような小生の予想や想いとはよそに益々厳しくなっているケースも少なくない。むしろ多様化によって増えている面もあると思うことがある。

 例えば目を凝らして見ても中々見つからない様なキズや、以前なら「これは仕方ないね」と許されたようなものが歴然と問題とされていたりするケースもある。

 しかしながら、このような要求に応える仕事は普通の仕事と比べて非常に付加価値が高くなっていたり、大量のオーダーが約束されていたりしている。

 このことが教えるのは、価値観の多様化により印刷発注者がとことん品質にこだわる分野もあり、またそうでない分野もあり、誰をターゲットにして商売するかによって印刷に求められる品質もピンからキリまでがあること。そしてこのことは今後、より顕著になるのではないかと思われることである。

 考えてみれば、外食産業においても一流レストランや割烹料理屋に求められるクオリティは今も昔も高いものであっただろうし、B級グルメにおいては価格のリーズナブルさと、一定以上のクオリティは同時に満たさなければならないし、その中で、抜き出たクオリティであれば爆発的な人気を得て成功するのであるから、印刷もまた同じように、印刷物のユーザー層の違いとその分野の求める品質の違い、印刷会社の戦略によって様々な要求品質があり、それは今後も変わり続けるのではないか?と考えさせられるようになった。

 そのことは、当社のような検査装置メーカーが考える従来からの印刷検査装置の守備範囲、例えば「これ以上の欠陥は無理、検査装置が検出できるのはこの程度まで」といったメーカーの判断は意味を成さないケースも少なくないし、そのように決めつけることはまた原理原則から外れることでもあると考えるようになった。

 考えてみれば、印刷オーダー毎に、求められる印刷物の役目、そして印刷価格も異なるのだから、求められる品質が異なるのも当然である。

 デジタル印刷とWeb to Printオーダーの出現により、ノウハウとやりようによってはクライアント1人1冊だけの唯一無二の出版物を大量に請け負うことができるようになった。そしてそこに求められる品質は芸術書と同じレベルが求められていたりすることもある。

 また、スマートフォンの価格は、かつての家庭用テレビ1台を超える価格となり、そのパッケージ外箱に求められるデザインは印刷会社泣かせであり、品質要求はかつてなかった程であったりする。しかしこれらの仕事は品質要求も高いが、付加価値も高い。

 一方で通常の商業印刷物は、色や見当が一定以内の範囲に入り、目に付く欠陥が混入していないかどうかの検査工程を経た検査済みのエビデンスを付けて出荷しているかどうかが問われつつある。均質性と認証性とを担保するような方向に向かっている。

 その品質は検査装置が市場に出始めた頃のパッケージ印刷レベルの要求でもあり、このように一般印刷物にまで検査装置による品質保証が求められるようになったのは、検査装置の普及と技術の進歩を背景とした自由競争の原理が成せるものであろう。

標準化の意味するもの

 このように考えると、「標準化」と言うものは変化する時代のある期間においては存在意義を持つこともあるとは言えるが、自由競争による技術の進歩が原理原則である以上、それは長続きするものではないのではないだろうか。

 「世界標準」という言葉があるが、これもまた常に進化し続ける一瞬を切り取ったものであろう。

 技術の進歩は、標準的のものを過去の産物とし、より新しい技術を持って新しい分野で競争が繰り返されることにより進歩しているからである。

 新しい技術を積極的に取り入れながら、新しい印刷市場を開拓しようとする、そんな印刷人たちから新しい要求を受けるにしたがって当社のようなメーカーが検査装置による品質保証の標準化を提唱したりすることは意味をなさないように考えるようになった。

 これからも検査装置メーカーとして、より高い要求に応えるべく開発を続けていくことが原理に則った行いであり、存在意義だと考えている。



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