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トップ > 特集 > 検査関連機器特集 2018:[寄稿]本当に活用できるインライン品質検査装置の使用方法とは

 「印刷物」を「工業製品」と捉える以上、その製造メーカーには「品質保証」というひとつの責任が生じる。そこには生産工程における機資材の見直しや工程間での工夫など、様々な手段が考えられるわけだが、最終手段はやはり生産物を「検査」「検品」するということになる。印刷業界においても多くの検査関連機器が市場投入されており、「不良品をどう処理するか」、また「不良の原因を如何に生産工程へとフィードバックするか」といったシステマチックな検査工程から生まれる高品質で安定した製品供給は、クライアントの信用を獲得する手段だけにとどまらず、多品種・小ロット・短納期化が進む中では品質管理の検証による作業の効率化、損紙低減によるコストダウンなど、経営的観点からも重要性を増している。そこで今回は「検査関連機器・システム」を取り上げる。

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[寄稿]本当に活用できるインライン品質検査装置の使用方法とは

ジクス株式会社 代表取締役 高原亮介氏

印刷ジャーナル 2018年3月15日号掲載

 ここ数年、枚葉インライン品質検査装置導入事例、検討事例が加速的に増えてきている。

 20年近く前、まだ枚葉印刷機の有効なインライン検査装置がなかった頃から、その開発にたずさわってきた小職にとって、装置の必要性と効果が認知されてきたことについては感慨深く感じるところではあるが、一方、検査装置を導入された会社をヒアリングする中でインライン検査装置を生かした使い方がなされていない事例を見ることも多く、これから導入を検討中の担当の方々もインライン検査装置へ求める使い方が当を得ていないと感じることも少なくない。

 そこで小職が考えるインライン検査装置の守備範囲や有効な活用方法について改めて紹介したい。


インライン検査装置は欠陥をなくす装置ではない。なくすのは人間である


ジクス・高原社長

 インライン検査装置を導入しても欠陥の流出が止まらないということを聞くことがある。

 しかし、これは検査装置を取り付けてもそれ自体が欠陥をなくしてくれるわけではないから当然のことである。

 このようなことはインライン検査装置普及初期の頃から見られることではあるが、導入直後には、すべての欠陥は検査装置が見つけてくれると思って安心し、油断してしまうことがある。しかし、欠陥が発生する原因を特定し、その原因を各個撃破で対策していくのは人間にしかできないし、そのための情報を取り出す装置がインライン検査装置の本質である。


オフセット印刷は潜在的不良が発生する印刷方式である


 釈迦に説法ではあるが、オフセット印刷は平版印刷で、インキと水の表面張力の違いによる化学的バランスで画線部と非画線部を分けているため、版の凹凸で物理的に分けている印刷方式と違い、湿し水の状態やインキの状態、それらへ影響を与える室温、湿度など、影響を与える条件が多く、互いに影響を与え合う「複雑系」の製造工程である。したがって潜在不良は必ず存在すると考えて品質保証の方法を構築することが大切である。


インライン検査装置は「顕在化」=「見える化」装置である


 ヒッキーのような大量に連続して発生する不良でない限り、抜き取り検品では突発的な潜在不良を顕在化することができない。現場ではたまたま抜いた1枚の中に油ダレや水ダレが見つかった場合に偶然顕在化するが、そのような状況では肝を冷やすことになる。

 インライン検査装置の最大の機能は、これらの潜在的不良を顕在化する見える化機能である。


「水」を制する者は「欠陥」を制する


 そのようにして顕在化される不良は、導入直後には「こんなにも沢山の不良が発生しているんだ!」と驚く結果を知ることになる。ここで重要なのは、その原因をひとつひとつ確実に対処し、取り除くことである。全部対処するのに半年とか1年かかるかもしれない。しかしそうすることで「欠陥が発生しない印刷工程」が得られるのである。

 ところが検査装置を導入した印刷現場では「今まで問題になっていなかったから」という理由でせっかく検査装置が見つけた膨大な欠陥情報をそのままにしておき、クライアントへ出荷できない大欠陥だけを抜き取り、除去するという使用方法をするところも多く見られる。

 このような使い方をしていると絶対に欠陥の流出は止まらないし、検査装置導入の効果は限定的にしか得られないことになる。

 検査装置から得られた欠陥情報を分類、整理し、「湿し水などの材料」「機械のメンテナンス」「作業のやり方」「清掃を含むなど環境の改善」などに取り組むことが必須である。とくに初期の段階においては、湿し水の状態=汚れ、バラツキ、温度状態を改善すること、機械内の清掃を行うことで大幅に欠陥の発生が減少することをお伝えしたい。


8,000画素のカメラは本当に必要なのか?


 最近、インラインカメラに取り付けるカメラの解像度が高くなってきており、1,050ミリの用紙幅を8,000画素の解像度で検査したいという要望が増えている。もちろんラインアップには揃えている製品ではあるが、小職はこのことには疑問を感じている。

 ここまで述べてきたようなインライン検査装置の活用方法においてはあまりに細かい分解能で検査することは不必要であり、多くの8,000画素導入事例では、結局、最少の欠陥サイズを4,000画素のカメラと変わらないサイズまで落として使用している。一方、部品点数が増えるということはそれだけ配線の接続場所なども増え、故障率も上がることになる。

 小職の知る限り最もインライン検査装置の活用が上手な印刷会社があるが、その会社では今でも2,000画素の解像力のカメラ1台で素晴らしい品質管理をされている。

 したがって、8,000画素の検査はオフラインの検査専用ラインなどで細かい欠陥を検出したり、製版データーと比較するために解像度を上げておくのには意味があるが、通常のインライン検査においては過剰スペックである。また重箱の隅をつつくような欠陥検査をインライン検査装置に求めると印刷作業効率を低下させ、装置産業の印刷工程においてデメリットの方が大きくなると思われる。


これからの印刷検査は、検品工程を経ているかどうかのevidence=「証明」のために活用されるべきである


 従来のオフセット印刷に関する検査という位置付けは、クレームが発生>出張検品また刷り直し>被害が大きいので自主検品として検査装置を導入、というものが導入への過程として主に見られるものであったが、近年は検査という工程を経たものを出荷しているのかどうかということが問われるように変化してきている。つまり印刷不良の有無に関わらず、出荷工程として全品検品工程を経ているかどうかのevidence=「証明」を要求される傾向がある。全数検査工程そのものが標準工程として扱われ始めているということであろう。

 重箱の隅をつつくようなあまりに微細な部分を欠陥印刷物として扱い、無理な対応を印刷会社が要求される傾向から、このようにevidenceを取るために検査をするという方向へのシフトが印刷業界全体に広がり、装置産業としての正常化が行われるべきであると考えている。