PJweb news

印刷産業のトレンドを捉える印刷業界専門紙【印刷ジャーナル】のニュース配信サイト:PJ web news|印刷時報株式会社

トップ > 特集 > デジタル印刷 × パッケージ 2017:FFDP、「Jet Press 540WV」市場投入を開始

 パッケージ印刷の世界市場は、2015年から2020年にかけて年平均成長率6.26%で拡大を続け、2020年には市場規模が5,971億9,000万米ドルに達すると予測されている(グローバルインフォメーション調べ)。  一方、矢野経済研究所が実施した国内パッケージ印刷市場調査によると、2015年度の国内パッケージ印刷市場規模(事業者売上高ベース)は1兆3,392億3,500万円で前年度比1.3%増。軟包装分野が拡大推移する中、紙器分野も2015年度は微増で推移している。2016年度も軟包装分野は引き続き拡大し、紙器分野もほぼ横ばいで推移する見通しで、2016年度のパッケージ印刷市場規模は1兆3,526億円で1.0%増となる見込み。また、2017年度の同市場規模は1兆3,570億円で0.3%増と予測している。  軟包装分野のパッケージ印刷は、近年拡大基調にある。2015年度も依然コンビニエンスストア向けが好調に推移し、PB品の増加も含め、食品・菓子向けの需要が概ね拡大したことで、市場規模はさらに拡大している。紙器分野のパッケージ印刷も漸減している需要分野がある中で、2015年度はプラス要因が複合的に影響し、市場規模は微増で推移した。2016年度もほぼ横ばいで推移する見通しで、好調な需要を背景に一定の市場規模を維持している。(矢野経済研究所調べ)。  このように、出版印刷や商業印刷分野と比較して、底堅い需要に支えられた市場と言われるパッケージ印刷市場だが、一方で、人口減少やライフスタイルの変化、流通・販促手法の多様化などを背景に、小ロット・多品種化が加速するとともに、パッケージのカスタマイズなど、消費者とのタッチポイントにおいて柔軟かつ革新的なソリューションが求められている。  これら市場の動きへの対応は、drupa2016においても出展傾向として顕著に表れた。drupa2016によって印刷産業のメガトレンドとなった「Print4.0」の中核的な技術要素となるデジタル印刷ソリューションが予想通り活況を呈したわけだが、同分野の最大の焦点となった「B1サイズ対応モデル」のほとんどが紙器パッケージ印刷向けを謳っている。その他、特色を補完するためのプロセスカラー+多色モデルや厚紙対応、軟包装用モデルの発表も相次ぎ、パッケージ印刷用途をターゲットとしたものが非常に多く、会場では、インライン加工・加飾までを含めた具体的で工業的な生産ラインによるソリューションに注目が集まった。  そこで今回は、デジタル印刷技術を活用したパッケージ印刷分野を「新事業領域」として捉え、その事業化に向けたソリューションや具体的な取り組み事例を紹介する。

特集一覧へ

FFDP、「Jet Press 540WV」市場投入を開始

軟包装の課題解決を支援 〜 IJ技術で工場全体の稼働率向上を提案

印刷ジャーナル 2017年11月25日号掲載

菅沼氏
​ 昨今の消費指向の多様化を背景とする多品種小ロット化は、もはや後戻りができないムーブメントとなり、生産者側もこの動きに対応することが必須であることに、疑いの余地はない。一般商業印刷や出版印刷分野では、インクジェット方式、あるいは電子写真方式による様々なデジタル印刷機が導入され、多品種小ロット・短納期といった市場ニーズに対応した生産が本格化している。一方、軟包装印刷を手がけるグラビア印刷の現場は、従来のグラビア機を主軸に、オペレータの絶え間ない作業改善によって生産を維持しているのが実態で「紙」に対するデジタル印刷と比べ、「フイルム基材」への生産は、極わずかに留まっている。この様な状況の中、今年10月、富士フイルムデジタルプレス(株)(FFDP)が、発売を開始したのが軟包装用途向けUVインクジェットデジタルプレス「Jet Press 540WV」だ。今回、同社・営業部第3グループ担当部長の菅沼敦氏に、導入事例を踏まえ「Jet Press 540WV」がグラビア印刷業界にもたらす効果などについて聞いた。


 「Jet Press 540WV」は、富士フイルム独自の画像形成技術「EUCON Technology(ユーコンテクノロジー)」を搭載した、裏刷り・ラミネート有りの軟包装用途向けに開発されたUVインクジェットデジタルプレス。印刷スピードは、50m/分で解像度は600×600dpi。色数はCMYK+白の5色。使用できる基材は、OPP、PETやNYなどで基材幅は580mmから300mmまで対応する。さらにLED-UV硬化による乾燥方式のため、熱による基材への影響や電力消費量を抑制する。
 同機の最大の特徴である「EUCON Technology」について菅沼氏は、「新開発のUVインク『Uvijet』とプラスチックフイルム基材面上でのインクにじみを防止する『下塗り技術』、UVインク特有の臭気を大幅に低減する『窒素パージ技術』から成り立っている」と説明する。
Jet Press 540WV

臭気低減やインクのにじみを抑える新技術

 「Uvijet」は、従来のグラビアインキに近い濃度域を持ち、鮮やかで美しい発色が得られる、加熱処理に耐えられる、さらに、再現安定性に優れていることが特長。フイルム系基材に対して高い密着性を発揮し、ラミネート後に画像部を加熱した場合でも、インクの剥離や溶融などが発生することがない。このため、製袋の際のヒートシール加工や高温での殺菌処理を行う食品のパッケージなどでも、高い仕上がり品質を実現する。
 「下塗り技術」は、プラスチック系素材のような非吸収体の基材に対して、にじみが発生することなく、確実にインクを着弾させるために、新たに開発した「プレコート液」を下塗りした後に、CMYKWの各色インクを吐出することで定着性を高め、にじみのないクリアな画像再現が可能となる。
 一般的にUVインクは、ノンVOCで速乾性に優れ、多様な種類の基材に対応できるなどの優れた特徴があるが、印刷後に臭気が残るという課題があった。これは、紫外線硬化の際、空気中の酸素が硬化反応を阻害し、微量のモノマーが未反応のまま残留するために起こる現象。その問題を解決するために開発されたのが「窒素パージ技術」で、具体的には、高速搬送される基材の表面を瞬時に窒素ガスで満たすもの。これにより酸素を完全にシャットアウトして反応効率を高め、未反応なモノマーを削減し、臭気を劇的に低減することを可能とした。
 「従来のUVインクでは、どうしても臭気が発生してしまうため、主に食品包材に使われる軟包装材用途としては敬遠される傾向にあった。この問題を解決するために開発されたのが、EUCON Technologyを搭載したJet Press 540WVである」(菅沼氏)
 さらに、同機に使用されるインクは、印刷インキ工業連合会が制定した食品包装用インキの自主規制「NLマーク」を取得。これにより業界の基準にそった安心と安全性を示すことができるようになった。
SIMANAMI PACKで紹介された印刷サンプル

北四国グラビア印刷で本格稼働開始

 「Jet Press 540WV」は今年4月、食品関連の軟包装印刷などを手がけているグラビアコンバーターの(株)北四国グラビア印刷(香川県、奥田拓己社長)に納入され、テスト稼働などを経て、本格稼働を開始している。
 北四国グラビア印刷が「Jet Press 540WV」を導入した背景について菅沼氏は、次のように説明する。
 「国内の軟包装業界も多品種・小ロット化が加速している。さらに、品質要求に対するバリエーションも『価格重視の顧客』から、逆に『高品位なものを求める顧客』というように広がっている。こなすべき仕事数自体が増加傾向にあることと裏返しとして、1ジョブあたりのロットは減少している。この結果、版替えなどジョブチェンジ回数が増え、オペレータの作業負荷増大が問題となっている。その解決手段としてインクジェットによる生産を選択いただいた」
 北四国グラビア印刷では、既存の小ロットジョブをすべて「Jet Press 540WV」に移行するのではなく、インクジェットの方が効率的なもの、また、より訴求効果の高い軟包装パッケージとして提供できるか、などを自社内で検討した上でグラビア印刷機からの移行生産を行っているという。また、「Jet Press 540WV」のグラビアに近い発色・濃度を活かして、まずは小ロットジョブを「Jet Press 540WV」で印刷・出荷し、グラビア印刷製品が出荷するまでの間をつなぐといった生産を行っている。これにより、クライアント側の要求する納期にも柔軟に対応することや、先行少量生産によるテストマーケティングが可能になった。

相乗効果で既存設備の稼働率向上にも貢献

 軟包装用のデジタル印刷機を導入することで、グラビアコンバーターは、どのようなメリットを得ることができるのか。その点について菅沼氏は、「既設のグラビア機との相乗効果による工場全体の稼働率の向上」と述べた上で次のように説明する。
 「グラビア印刷の現場では、小ロットジョブの増加により、頻繁なシリンダー交換が余儀なくされており、装置の稼働率低下やオペレータ負荷の増大といった構造的な問題が顕在化している。小ロットの仕事に対しては、インクジェット印刷に切り替えることで、結果としてグラビア機の作業負荷の軽減を図ることができる。もちろんインクジェット印刷とグラビア印刷では、仕上がり品質が必ずしも同等であるとは言えない。しかし、インクジェットの品質であっても市場に受け入れられる仕事が相当数存在することも事実。それらの仕事をインクジェットに切り替えれば、圧倒的な生産効率を発揮する。また、グラビア印刷機についても、小ロットジョブが減ることで、ジョブチェンジ回数が軽減し、稼働率の改善を図れる」
 さらに菅沼氏は、「インクジェットによる生産は部分的な効率化ではなく、結果として既存のグラビア機の生産性向上にもつながる。これは経営視点で見ても大きなメリットになるはずと考えている。オフセット印刷においても、同様の効果が報告されている」と、インクジェット印刷機を導入することで、工場全体の稼働率向上につながることこそが最大の導入メリットであることを強調した。

ブランドオーナーとの認識共有で相互メリットを享受

 北四国グラビア印刷は、10月25・26日に広島で開催された中四国地区最大の包装展「SIMANAMI PACK(しまなみパック)2017」に出展し、「Jet Press 540WV」で印刷した多彩なサンプルを展示。実際のサンプルを手にとって見てもらうことで、その印刷品質を来場したブランドオーナーなどに、直接訴求することができたようだ。
 「ブランドオーナーにJet Press 540WVの高い印刷品質を確認してもらったことは弊社にとっても大きな成果であったと思う。ブランドオーナー側もグラビア印刷方式だけでなく、多品種・小ロットについては、インクジェット方式という選択肢があるという新たな発見をして頂いたと思っている。つまりグラビアコンバーターとブランドオーナーの双方で大量ロットはグラビア印刷機、多品種小ロットはインクジェット印刷機で、といった共通認識ができれば相互メリットにつながる」(菅沼氏)
 「Jet Press 540WV」によって生産された軟包装製品は、すでに市場にも投入されており、北四国グラビア印刷では、今後は本格的に市場展開をして行く方針だという。OPPやPETなどの一般的なフイルム基材のほか、和紙の風合を表現したレーヨン紙などにも印刷を行っている。
 菅沼氏は、FFDPの取り組みとして「人口減少や少子高齢化など社会環境の移り変わりによって、グラビア印刷業界だけでなく、産業構造全体がこれからも大きく変化していく。そのような環境の中で、当社としては、インクジェット技術を活用することでグラビアコンバーターが抱える課題解決の支援をしていく」と説明した上で、改めてインクジェット印刷機の活用による生産設備全体の稼働率向上を積極的に提案していくことを明らかした。

和紙の風合いが特長のレーヨン紙にも印刷を実施