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インクジェット特集 2016

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drupa2016に見るインクジェット技術の最新動向
進化のキーワードは「多様化」

ブライター・レイター 山下 潤一郎 氏

印刷ジャーナル 2016年9月15日号掲載

山下 氏
​ 「Inkjet drupa」と呼ばれた2008年に引き続き、前回(2012年)、そして今回(2016年)もインクジェット式デジタル印刷機がdrupaにおける話題の中心であった。回を追うごとにインクジェット機はdrupa会場での存在感を高めており、今回の主要デジタル機メーカーのブースを見ると、研究開発の中心がトナー機からインクジェット機へとシフトしている状況が伺えた。市場では、印刷物発注企業そして印刷会社の課題や期待がどんどん多様化している。そうした動きを受け、インクジェット技術も「多様化」をキーワードに進化している。今回は、多様化という切り口からdrupaで見られたインクジェット技術の最新動向をご紹介する。

プレーヤーの多様化

 インクジェット機が存在感を高めている理由のひとつに、プレーヤーが多様化していることが挙げられる。今回のdrupaでは、小森コーポレーション、ハイデルベルグ、KBAといった主要オフセット印刷機メーカーによるインクジェット機市場への本格的な参入が注目を集めた。
 オフセット機メーカーは図1のようなデジタル印刷機メーカーとの協業を通じて、この市場への参入を進めている。これらの協業においては、インクジェット技術はデジタル機メーカー、用紙搬送技術はオフセット機メーカーがそれぞれ提供している。
 また、理想科学工業やブラザーといった企業による、産業用インクジェット機市場への新規参入も見られた。ブラザーは2015年のDomino社(英国)の買収を通じて、商品パッケージのデジタル印刷市場への参入を進めている。
 ゼロックスも今回、2013年に買収したImpika社(フランス)のインクジェット技術を活用した製品を3機種展示し、インクジェット市場における存在感を高めた。コニカミノルタも、資本提携したMGI社(フランス)のインクジェット技術を使ったデジタル後加工機をブースに展示した。

画質向上方法の多様化

 インクジェット機の印刷品質は着実に向上している。印刷機材展ではインクジェットヘッドの高解像度化が話題になるが、今回はミヤコシがMJP20AXに2,400×2,400dpiのヘッドを搭載した。
 ヘッドの高解像度化以外にも、さまざまな方法で高画質化は進んでいる。例えば、液滴のサイズを変えることで表現力を高める「階調」の活用。富士フイルムJet Press 720Sのヘッドは、1,200dpi・4階調で高い画質を実現する。
 今回drupa会場で発表されたリコーの産業用インクジェットヘッドMH5220も1,200dpi出力・4階調に対応可能である。また、HPのHDNA(High Definition Nozzle Architecture)は2,400ノズル/インチで2階調表現を実現する技術である。
 7色・8色など多色化による高画質化も進む一方、インク自体の濃度や色域を改良することで画質を高める取り組みも進んでいる。ゼロックス社は新発表のBrenva HDやTrivor 2400にHD(High Density)インクを採用、キヤノンも新開発のChromeraインクを採用した新製品Oce ColorStream 6000 Chromaの展示・デモを行った。
 また、新しい印刷方式で画質向上を実現する取り組みも見られた。Landaやキヤノンは、ベルトや胴の上で作像した後、用紙に転写する「転写型」の印刷方法を採用している。転写型印刷は用紙へのインクの浸透しない(あるいは非常に少ない)ため、高い画質を実現できる。

枚葉機の多様化

 昨秋東京で開催されたIGAS2015では、枚葉インクジェット機はB2サイズのみであった。しかし、今回のdrupaではB1・B2・B3・A2・A3など、さまざまな用紙サイズの枚葉機が紹介された(図2)
 B1サイズの枚葉インクジェット機は以下のように5メーカーから6機種が発表された。
 Landa S10、LandaS10P、KOMORI Impremia NS40、ハイデルベルグ Primefire 106、KBA VariJET 106、コニカミノルタKM-C。
 これら6機種の中で、とくに大きな注目を集めたのはLanda機である。「オフセット印刷品質・オフセットの印刷速度・用紙を選ばない・低いコスト」という基本コンセプトで開発され、デジタル印刷とオフセット印刷のギャップを埋めること、そしてオフセット印刷の仕事の一部を置き換えることを目指している。
 実際、ブースに展示されたサンプルや最大1万3,000枚/時という印刷速度、KOMORIとの共同開発機などから、オフセット印刷の置き換えの可能性を感じた来場者は少なくなかった。他のB1枚葉機についても、オフセット印刷機メーカーと共同で開発された機種が多いこともあり、印刷品質や生産性に関する期待は高い。
 B2枚葉機については、富士フイルムJet Press 720S、コニカミノルタKM-1、KOMORI Impremia IS29などIGASでも展示された機種は、さらに改良されたものが展示された。また、キヤノンやDomino社からは新製品が発表された。
 キヤノンのB2枚葉インクジェットフォトプレスVoyagerは、Landa機と同じような「転写方式」を採用している。ただ、Voyagerでは胴の上で作像した後に用紙に転写する方式となっている。なお、Voyagerは最大7色、水性顔料インクを使用、印刷速度は3,000枚/時(両面印刷時)、1,500枚/時(両面印刷時)である。
 B3サイズ枚葉機として、オセ VarioPrint i300、ゼロックスBrenva HDのデモが行われた。また、A2枚葉機は前回drupaで話題となったMemjet技術を使ったDelphax社(米国)のelan500、A3枚葉機は理想科学工業から油性インクジェット機T2およびORPHIS GDの2機種などが展示された。

輪転機の多様化

 輪転インクジェット機は、オセ、HP、コダック、SCREEN GP、ミヤコシなど、これまでの主要企業に加えて、ゼロックスによる製品ラインアップの拡充、理想科学など新しいプレーヤーによる展示などの動きもあり、今回も大いに注目された。
 この市場のプレーヤーが増えることで、例えば対応用紙サイズの多様化が進んだ。会場には10インチ(約250ミリ)・20インチ(約520ミリ)・30インチ(約770ミリ)・40インチ(約1,070ミリ)とさまざまな用紙幅の機種が展示された。
 また、印刷速度も多様化している。これまでの機種では、最大印刷速度は100m/分〜300m/分が中心であった。しかし今回、50m/分以下の機種も登場した。ただ、50m/分といっても、A4換算では300枚/分程度(10インチ幅機)〜600枚/分程度(20インチ幅機)と、トナー機と比較すると生産性は非常に高い。

価格帯の多様化

 これまで、印刷品質・生産性・用紙対応性のすべてにおいて最高レベルである「ハイエンド機」がインクジェット機の中心であった。これらの製品はスペックが非常に高い一方、国内印刷会社の中には後加工機まで含めたシステム全体のサイズが大きい、価格が高い、といった懸念を示すところも少なくない。
 今回のdrupaでは、以下のような特徴を持つ「ライトプロダクション機」がさまざまなブースで紹介された。

▽インクジェットヘッドの解像度は600dpi程度。ただ、階調表現を使うなど画質を高める取り組みを進めている。
▽最大色数が4色。あるいはモノクロ機。
▽生産性はハイエンドのトナー機以上。
▽価格は100万ドル(およそ1億円)以下が中心。

 枚葉機・輪転機ともにこの市場向けに製品が投入されており、とくにゼロックスが積極的である。ゼロックスブースには、Trivor2400(輪転機)、Brenva HD(枚葉機)、Rialto 900(輪転機)といったライトプロダクション機が展示されていた。
 また、理想科学工業もT1(輪転機)・T2(枚葉機)・ORPHIS GD(枚葉機)といった機種でライトプロダクション市場の開拓を進める計画である。キヤノンも、オセVarioPrint i300をこの市場向けに投入している。

仕事の多様化

 インクジェット機は、商業印刷、帳票類、学参関連、書籍、新聞、シール・ラベルなど、すでに幅広い分野で使われている。drupa2016では、技術の進化により可能となった新しいアプリケーション(印刷物の活用分野)も紹介された(図3)
 例えば、紙器、ダンボール、軟包装などのパッケージ。drupa2016で発表されたB1枚葉インクジェット機は、(商業印刷市場向けであるLanda S10Pを除き)すべて紙器市場をターゲットにしている。
 輸送箱と陳列箱の両方の機能を備えたSRP(シェルフレディパッケージ)など、フルカラー印刷されたダンボール向けには、HP PageWide Web Press T1100S(輪転機、用紙幅110インチ(280センチ))などが紹介された。また、コニカミノルタが発表したB1枚葉機KM-Cも、マイクロフルートと呼ばれる薄いダンボールにフルカラー印刷が可能である。
 軟包装向けインクジェット機も展示された。富士フイルムブースでは、IGAS2015でも展示されたUV機MJP20Wに加え、水性顔料インクで軟包装に印刷したサンプルも展示された。
 コダックブースではXGV(Extended Gamut+Vanish)のデモが行われた。XGVは7色(CMYK、オレンジ、緑、紫)の水性インクジェット機で、デモでは水性デジタルニス加工も合わせて行われた。
 ほかにも、フルカラー3D印刷、サッカーボールなど立体物への印刷、テキスタイル(布)への印刷といった仕事に対応できるインクジェット機が紹介された。また、セキュリティ機能や回路を印刷する機種もあった。
 SCREEN GPが発表した5色輪転機Truepress Jet520NXは、5色目として磁気インクや紫外線発光インクなど特殊インクを使うことが可能となっている。そのため、偽造防止効果のある印刷物も生産できる。

インクジェット機導入・活用成功のポイント

 多様化が進むインクジェット機を導入・活用して売上・利益を伸ばすためには、ターゲットとする顧客層や獲得を狙う仕事の明確化が必要不可欠である。それらを明確にすることで、適切な機材を選定し、効果的・効率的な仕組みをつくることができるためである。
 また、仕組みの自動化・省力化・スキルレス化も進めることも必要である。インクジェット機は生産性が高く、またパーソナライズなどさまざまな仕事に対応できる。仕組みの生産性と柔軟性を両立させるためには、印刷量やジョブ数に関わらず、ミスやロスを常に最小限に抑え、ボトルネックを作らないことが求められる。仕組みの自動化・省力化・スキルレス化は、そのために必要なのである。
 生産の仕組みを営業やマーケティングの仕組みと連携させることも重要である。工場で生産する印刷物は営業が顧客に提供する「コト」の一部であり、マーケティングが高めている「ブランド」の一部でもある。こうした視点も踏まえた上で生産の仕組みを構築・運用することは、売上・利益を伸ばすことに大きく貢献する。
 drupa2016において、インクジェットは引き続き発展しており、また今後もさらに進化する技術であることが示された。ぜひ、インクジェット技術を積極的に取り入れて、2020年までに新たな成長事業を構築していただきたい。