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トップ > 特集 > 印刷通販特集 2015:成功の鍵はオムニチャネルによるブランディング 〜 寄稿・船井総研 岩邊久幸氏

「印刷」という枠組みの中で、新たなビジネスモデルとして登場してから10年以上が経過した「印刷通販」。一般コンシューマを中心に、ユーザーニーズを的確に捉えることで、需要を取り込み、また新たな需要を創出しながら印刷通販市場は急成長を遂げ、需要全体の先行きが不透明な印刷ビジネスにおいて、営業価値を変革する新たなビジネスモデルとして注目されている。一方、昨今ではプロの印刷会社が自社のアウトソーシング先として印刷通販を利用する例も増えている。本紙が昨年Web上で行ったアンケート調査によると、印刷業による利用率はすでに50.3%にのぼり、その数はさらなる高まりが予測されます。これらの需要は印刷通販ビジネスにとって効率的かつ大きな市場であることは言うまでもない。  そこで今回、印刷通販サービスを「緻密なノウハウの蓄積によって究極の効率化を追求するビジネスモデル」として、また「プロの需要・要求を満たすアウトソーシングサービス」として特集し、「印刷通販の今」に迫ってみる。

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成功の鍵はオムニチャネルによるブランディング
業績を伸ばす手法とは?

寄稿・船井総研 岩邊 久幸 氏 〜 新時代に突入した印刷通販ビジネス

印刷ジャーナル 2015年7月15日号掲載

岩邊 久幸 氏
​ 大手印刷通販会社が展開する総合印刷通販から同業者間のネットワークを活用した外注型総合印刷通販、そして自社の強みを全面に打ち出した商材特化型印刷通販など、印刷通販ビジネスは進化を続けている。「早い」・「安い」だけでは、もはや通用しなくなってきた印刷通販ビジネスで成功するには何が必要なのか。そこで今回、経営コンサルタントの岩邊久幸氏((株)船井総合研究所・印刷ビジネスチーム チームリーダー)に、印刷通販市場の動向と今後の展望について伺った。


 この度は貴重な機会を賜り、誠にありがとうございます。おそらく、このレポートを読んでいただくのに、5分から10分ほど皆様の貴重なお時間をいただくことになります。今回は、「印刷通販市場の動きと今後の展望」ということでテーマをいただきました。おそらく、このレポートを読んでいただいている方は、次の種類に分かれるのではないでしょうか。
(1)今、印刷通販事業を展開している。これから、どのようになるのか知りたい。
(2)印刷通販事業に参入しようかどうか迷っている。
(3)印刷通販に参入する気は無いが、印刷業界に影響はあるだろうから、情報だけは知っておきたい。
 これらの方々すべてに、参考になるようにレポートを進めていきたいと思います。

印刷業界はどうなるのか?

 まず最初に、印刷業界の現状と印刷通販マーケットの流れを押さえておきたいと思います。印刷業界のピークは、1997年時であり、その時の市場規模は8.9兆円でした。そして様々なレポートなどを拝見すると、現在の市場規模は5.9兆円と言われ、ピーク時より30%市場が減少していることになります。1997年当時は、消費税増税直後であり、IT革命真只中の市況でした。実はお気づきかもしれませんが、今の世相と似ているのです。2017年4月に消費増税を控えています。今年は、ロボット元年の年でもあります。ソフトバンクが展開しているPepperが普及し、IBMが提供するワトソンを代表とするAI(人工知能)も普及し、PCだけでなく、設備はもちろん、車や冷蔵庫など、すべての家電がインターネットでつながることが当たり前の時代になっていきます。皆様のご自宅にも、当たり前のように執事型ロボットがいる時代も容易に想像できます。以前のIT革命時よりも、その流れは速く、2020年〜2025年には印刷業界の市場規模は4兆円台に入ることは想定をしておいた方がよいでしょう。そのような時代において、印刷通販市場はどうでしょうか。
 現在印刷通販市場は、1,000億〜1,200億円と予想しております。プリントパックやグラフィックなどに代表される商業印刷の総合印刷通販、ベストプリントやラクスルを代表とした外注型総合印刷通販、挨拶状ドットコムや、おたより本舗のような単品特化型印刷通販、ウェブプレスや良安のような輪転チラシの大中ロット対応の印刷通販といった様々な印刷通販業態が存在します。印刷通販のフランチャイズも登場しました。
 フランチャイズ加盟企業は、本部が提供する印刷通販の販売システム、そして印刷・配送システムを利用し、自社は販売オペレーションのみに集中するというものです。中には、コールセンター機能も提供するというフランチャイズもあります。印刷通販参入の初期投資も安くなり、参入しやすくなっています。
 このような流れから、商業印刷における印刷通販市場は、2,000億円〜3,000億円までは成長するだろうと予測しております。もう少し正確に申せば、2,000億〜2,500億円というのが、現実的なところではないでしょうか。
 これらのことをまとめると、印刷業界は大手2強を除いて考えると、これから何も対策を立てていなかったり、チャレンジをしていない印刷会社は、次の2点のことが同時に起こりえるのではないでしょうか。
 ▽1事業所当たり売上は、20〜30%の自然減(印刷業界市場規模の縮小)
 ▽1事業所当たり売上の2,000〜3,000万円は印刷通販へと流れる
 印刷通販に参入する、しないということを考える前に、まずはこれを押さえておかないといけません。

改めて、印刷会社の通常のビジネスモデルを考える

 印刷会社は、リピートビジネスです。新規顧客を獲得し、深耕開拓を行い、1社当たりの取引金額を上げていくというモデルです。そのときに現在の印刷会社の新規1社受注するためにかかっているコストはいくらでしょうか。1社獲得するのに50〜60万円かかっているのです。多くの印刷会社で、営業マンの稼働状況を分析し、時間をすべて金額換算して算出してみました。例えば、車での移動時間や見積もり作成時間、お客様との打ち合わせ時間等々です。
 では、1件当たりの受注単価はいかがでしょうか。首都圏の営業力のある会社は、10万円〜30万円/件。地方の普通の印刷会社は、5〜10万円/件。印刷通販は、〜5万円/件(総合印刷通販は、2万円弱)という状況です。
 つまり、地方の会社は、5〜10万円の案件を獲得するために、50〜60万円のコストをかけているといえるわけです。
 このような状況を改めて考えますと、収益性は悪くなるのは、当たり前の話ですし、社員の年収を上げることは困難です。結果、生産性が下がったり、離職率が高いというのは、必然のように感じます。

印刷通販というビジネスの位置付け

 このような状況の中で、印刷通販という販売モデルを考えないといけません。まず販売モデルを考察する上で、印刷会社の商品を考える必要があります。通常の営業対応型の印刷会社が提供している商品は、「営業対応(企画・提案、処々の代行等)」「デザイン」「製版」「印刷」「加工」「納品」という6つの機能から成り立っています。
 では、印刷通販の商品とは何でしょうか。それは「印刷」「加工」「納品」というものです。だからこそ、安く提供ができるということですし、お客様も自社でデザイン・製版ができるのであれば、安く印刷ができる印刷通販を選ぶわけです。
 営業対応をしないわけですから、販売方法は自動化せざるをえません。だから、「通販」というカタチになるわけです。
 これは、和食の飲食店をイメージしていただければ分かりやすいと思います。消費者は、時と場合に応じて、利用する店を変えます。お客様を接待したり、何か特別なことをお祝いするときは、割烹に行きます。板前さんが作ってくださったおいしい料理、心遣いが隅々まで行き渡った、着物を着た女将さんの接客、落ち着いた空間、このようなサービスを堪能するので、1万円以上の料金です。しかし、同僚と帰り際に「少し飲んで帰ろう」というような気軽な雰囲気の場合は、単価3,000円強のいわゆる大衆居酒屋を利用するのではないでしょうか。料理は出来合いのものを電子レンジで温めたものでしょうし、騒々しい店内で、接客も気が利きません。でも、問題ないわけです。
 今までは、営業が販売して、自社スタッフが納品して...というのが当たり前だったのですが、「印刷通販」という印刷の販売モデルが登場したことで、お客様にとっては、購買方法が広がったのです。
 ですから、印刷会社としては、前記印刷という商品の6つの機能を改めて考えたときに、どの商品をいくらで、どのような販売方法で提供するのかを考え直さないといけないのではないでしょうか。
 そのように考えると私は、印刷通販というビジネスモデルは、印刷通販事業単体で儲ける・儲けないという話ではなく、「機能」として持たないといけない時代に突入したのだと認識しております。
 我々の会員様で、とある地方都市の印刷会社様T社様の事例をお話します。T社のトップ営業は、担当社数が35社あり、年間1億円の売上を上げていました。しかし、35社の案件を分析してみると、32社の案件は5万円以下の案件であることが分かりました。そこで、印刷通販サイトを立ち上げます。5万円以下の案件を印刷通販へ誘導するようにしたのです。
 本来であれば、営業が対応していた案件です。同じ印刷通販になるのであれば、大手の印刷通販に流れる可能性もあります。お客様が離れるだろうというリスクを承知の上で実行しました。するとどうでしょう。トップ営業の売上は、たった3社の対応で、年間1億円から1.3億円に上がり、印刷通販に流した売上も80%減ほどで済んだのです。つまり、結果的には売上が上がったということになります。この営業は、今期は1.3億円〜1.5億円ペースで推移しています。
 いかがでしょうか。この事例から言えることは、「販売方法は、営業対応が全てではないということ」「営業対応だけだと、お客様のニーズと合わない可能性が高いということ」「お客様のニーズと販売方法を合わせると、売上(生産性)は上がるということ」ではないでしょうか。
 そういう意味でも、印刷通販単体で「売上を上げる・上げない」や、「儲ける・儲けない」という議論の時代は終了し、本体の売上を上げるためにも、印刷通販という販売方法を「機能」として持つ必要があると思うのは私だけでしょうか。
 印刷会社が存続するためには、今までお付き合いしてきた多くのお客様と今までのやり方で数多くお付き合いするのがベストではありません。それでは収益性が下がる一方です。
 つまり「お客様のニーズと販売方法を合わせること」「販売方法(収益モデル)に合わないお客様とはお付き合いしないと決めること」の2点が必要なのです。

印刷通販で業績を上げる方法「オムニチャネルでブランディング!」

 それでは、今、印刷通販を展開しており、今後さらに成長させていきたいと思われている企業は何をしなければいけないのでしょうか。改めて、印刷通販が提供している価値を考える必要があります。それは、「価格」と「利便性」です。
 「価格」とは、文字通り安さです。そして、「利便性」です。利便性を考える上で、もっとも大切な概念が「時間」です。つまり、お客様が好きなときに、選択し、購買することができる。そして、お客様が欲しいときに商品を手にすることができる、ということです。この2点を徹底的に追求していくことがもっとも大切になります。
 前記の基本機能を徹底的に磨き続けることが前提で、さらに業績を上げるために実施した方がよいことは、「オムニチャネルによるブランディング」です。まず、オムニチャネルという言葉の概念を押さえる必要があります。
 「オムニチャネル」とは、実店舗やオンラインストアをはじめとするあらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合すること、および、そうした統合販売チャネルの構築によってどのような販売チャネルからも同じように商品を購入できる環境を実現することです。「オムニ」とは、ラテン語で「すべて」を意味する言葉であり、文字通り、「すべての顧客接点を融合すること」をオムニチャネルと言います。
 では、ブランドとは何でしょうか。私は、ブランドを「信頼と共感の集積」と定義づけています。そもそも企業活動とは、企業とお客様との間で提供される価値(観)と評価の繰り返しのことをいいます。その評価の繰り返しの結果、企業とお客様との間で、信頼と共感が成立します。ですから、信頼と共感の集積(=ブランド)とは、企業から提供された価値(観)に対するお客様からの評価の集積とも言えます。
 インターネットとスマホの普及により、評価が売上金額以外で、可視化できる時代になりました。例えば、フェイスブックの「いいね!」や通販サイトの「レビュー」などです。評価の可視化が進んだことにより、今は信頼と共感は加速度的に広がっていく時代になったのです。ですから、信頼と共感の集積につながる「個人の評価」を集積することで、ブランドになることができるということです。
 では、「個人の評価」とはどのようなものでしょうか。私は、それぞれ個人個人の「好感が持てる」や「何となく好き」という素直な感情に近いものだと考えています。ですから、写真や動画、ロゴマーク、キャラクター、工場、店舗が必要になっているわけです。信頼や共感ができるから、好きになるのではなく、「何となく好き」だから、信頼や共感ができるのです。ですから、何となく好きになってもらえるために、想いや世界観、ストーリーを伝えるための媒体が数多く必要になり、クリエイティブな要素が必要になります。
 企業とのコミュニケーションにおいて、お客様が信頼している媒体(=情報源)は何でしょうか。お客様が信頼している情報源は、次の項目を見ていただくとお分かりのとおり、「商品・サービスの情報サイト」「企業のオフィシャルホームページ」「パンフレットやカタログ」「サービスガイド」「企業のコールセンター(電話問い合わせ窓口)」がもっとも大切になります。
 これらのことからも、印刷通販サイトを強化するだけでなく、店舗や紙媒体、コールセンターなど、あらゆるチャネルを強化しないといけないわけです。逆に言えば、チャンスです。すべての媒体、つまりオムニチャネル戦略を徹底的に実施していけば、お客様との接触回数(=信頼される機会)を増やすことが可能になります。ですから、結果的にブランディングが可能になり、業績を伸ばすことが可能になるのです。
 「価格を下げて、品揃えを多くし、利便性を上げる...」これらの内容は、印刷通販を展開していく上では、業績を上げる戦略ではなく、今では当たり前に実行されていなければいけない要素といえます。つまり、今以上に業績を上げていくためには、これだけの要素では足りないのです。そこで、大切なのは、オムニチャネルでブランディングなのです。
 あらゆる媒体を活用し、お客様とのタッチポイントを増やし、信頼と共感を集積していく。これが、今印刷通販を展開し、さらに業績を上げていくために、必要なことなのではないでしょうか。


岩邊 久幸氏(経営コンサルタント)
 船井総研に入社以来、幾多の小売り店・サービス業のプロジェクトを経験し、現在主に広告業界、印刷業界を中心にコンサルティングを行う。
 年間250日超を現場における業績アップ支援に充て、全国を駆け回る。下請企業の元請化、営業力アップでは業界内の評価も高い。机上の空論ではなく、即実践、即業績アップする手法はクライアントからも高く評価されている。