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特集:デジタルプルーフ 2013

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デジタルプルーフの課題と技術的方向性
「特色」「本紙」「業界標準」への対応は?

FFGS技術二部担当部長 宮城安利氏に聞く

印刷ジャーナル 2013年3月5日号掲載

宮城安利氏
​ まだまだハイエンドDDCPがデジタルプルーフの主役だった2005年、インクジェットプルーファー「プリモジェット」を世に送り出し、同分野の黎明期から市場を牽引してきた富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ(株)(渥美守弘社長)。多様化を極めるユーザーニーズを反映させることで、いまやプリモジェットは「日本標準の信頼性」と謳われる製品へと成長を遂げている。そこで今回、同社技術二部担当部長である宮城安利氏に、プリモジェットの開発を通じて見えてきたプルーフ工程のニーズ変化や課題、今後の技術的方向性などについて話を聞いた。

1ビットデータでの運用をいち早く導入。プロファイル作成サービスにより普及を加速

 FFGSがファインジェットプルーファー「プリモジェット」を市場投入したのが2005年。当時はまだまだハイエンドDDCPが主流の時代だ。「インクジェットでプルーフ?」という程度の認識が大半を占めた頃である。
 インクジェットは8ビット運用による色校レベルでは利用されていたが、FFGSはCTPの露光データである1ビットデータを受け取り、モアレの確認もある程度可能なインクジェットプルーファーが必要であると考えた。これが、疑似網点という考え方を導入したプリモジェット ソフト-Sである。
 並行してFFGSでは「i-ColorQC」という、印刷会社の色基準作りをお手伝いするサービスも展開していて、独自のノウハウでプロファイルを作成するCMSサービスを提供していた。プリモジェット ソフト-Sは、当時としてはまだ煩わしさの残るCMS作業というハードルをユーザーから取り払うために、この「i-ColorQC」により、FFGSの技術者が責任をもってプロファイル作成を実施することとした。これらが相まって、インクジェットプルーフの信頼性が高まり、DDCPに置き換わりうる存在にまで成長した。

高精度のプロファイル作成ソフトの導入。プリンタの高性能化に対応

 ところが、インクジェットプルーファーが認知されはじめ、ユーザーがハイエンドDDCPから離れ出したときに、「自分たちで様々なプロファイルを作成して運用したい」というニーズが当然のごとく生まれた。
 ここでの課題をFFGSは、「ユーザー自らが作成したプロファイルでも高い精度が出せるソフトウェアの導入」と位置付けた。そこで生まれたのがプリモジェット ソフト-Gである。
 この課題を解決するために、プリモジェット ソフト-Gでは、ターゲットプロファイルと高精度に測色一致させることが可能なデバイスリンクプロファイル技術と、精度を維持させるためのプリンタキャリブレーション技術を採用した。高速測色器の登場もこの流れを後押しした。
 インクジェットの技術革新はさらに進み、エプソンが10色のインクジェットプリンタを市場投入し、よりガマットが広がる中で、これら10色すべてを使うことで、より忠実に色再現したいというニーズが生まれた。それに対応したのが、現在FFGSでの主力製品であるプリモジェット ソフト-XGである。
 ソフトウェアがプリンタの高性能化に対応することで、色に対するこだわりが強い日本ユーザーに対して、高精度の色再現と日常管理システムを提供すること。これらがひとつの流れだった。
ショールームに肩を並べて設置されたプリモジェット

「特色」「本紙」への対応

 DDCPがインクジェットに変わっても、「工程の中で特色を再現したい」という要求に対する、プルーフシステムとしての機能はまだ十分ではなく、今後解決しなくてはいけない課題のひとつであると認識している。
 前述のように、インクジェットプリンタの性能がどんどん良くなってきているので「インクジェットの広い色再現なら、何でもできるはず」と思われがちだ。確かにプリモジェットでは、特色ベタのかなりの部分をカバーできているし、特色単体については、かなりよい再現が可能になっているが、実際には、特色&プロセス4色、特色&特色の掛け合わせで色が表現されている部分も多く、これをプルーフシステムで再現することは非常に難しい。
 ターゲットの色味に一致させるというプロファイルの考え方では、無数にある色の組み合わせに対応できないからだ。つまり、特色を含む色の掛け合わせという話になると、もはや成り行きにしかならないというのが現在のソフトウェアの課題である。
 そこで、まったく新しい考え方のソフトウェアを導入しようと考えている。これは、用紙とインキの分光反射率を使用するというもの。つまり「ノットLab値」の考え方で色を合わせ込んでいくわけだ。独自の色予測エンジンで計算し、各色の掛け合わせでの印刷結果を正確に予測・再現する。
 現在一般的に使用されている測色器で色を計測すると、Lab値の情報以外にもXYZやスペクトルの情報も同時に取得できることをご存じだろうか。従来のICCプロファイルの作成にはLab値の情報しか使わないので、これらの情報は有効活用されていない。しかしスペクトルの情報を使って、光学的に様々な色の組み合わせを再現する方法が研究されていて、この研究に基づく特色シミュレーションエンジン(ソフトウェア)が開発されている。これを使えば、特色の掛け合わせを高い精度で再現することが可能になる。
 テストサンプルを見る限り良好な結果が出ている。とくに軟包装や紙器パッケージでは、特色の掛け合わせを多用するので、パッケージ用に展開しているブランド「GPプリモジェット」での先行導入も検討している。
 このエンジンの運用方法もいろいろ考えられていて、特色データの取得については、特色ベタのみ測色して、各色ベタのスペクトル情報から、すべての組み合わせをシミュレーションするモード、あるいは特色ベタに加えて、網%を変えた5つ程度の平網を計測することで、シミュレーションの精度を高めたモードなどを用意している。
 また測定した色データをデータベース化し、それら登録された色を自由に組み合わせることにより、最終的にデバイスリンクプロファイルを作成するといった複雑な運用も可能になっている。
 特色の色域をカバーするプリモジェットプリンタを有効活用できるソフトウェアとして期待しているが、新しい技術であり、まだ検証をはじめたばかり。皆さんに紹介するまで、もう少し待っていただきたい。
 プルーフは印刷見本であるから、印刷本紙で確認したいという潜在的なニーズがあることは否定できない。しかしながらDDCP同様、インクジェットプリンタも専用紙を使う。現在主流の水性顔料インクで、印刷本紙に描画してもインクをはじいてしまったり、にじんでしまったり、紙がカールするからである。
 プルーフシステムではなく、デジタル印刷機のカテゴリであるが、富士フイルムデジタルプレス(株)(FFDP)のジェットプレス720は、独自技術で印刷本紙への印字を可能にしていて、圧倒的な色の安定性と生産性の高さを背景に、平台校正機や本機校正機に変わる本紙校正システムとして、既に本格運用されている。
 本格的なデジタル印刷機によるシステムではないものの、ここへきて水性インクで本紙に印字できるプリンタが登場し、話題になったが、これらのプリンタに対しては、さまざまな用紙銘柄や斤量(用紙の厚さ)に対して、プルーファーとしてどこまで対応できるかをFFGSとして見極めている最中である。
 一方、UVインクを使用するUVインクジェットプリンタであれば、印刷本紙やフイルムベースのメディアにも印字が可能であるが、商業印刷や出版といった用途となると、まだまだプルーファーとして本格運用できるものは少ないと考えている。オフセット印刷の文字品質再現、繊細な粒状再現などが、水性インクジェットを見慣れているユーザーには劣って見えてしまうことと、UVインク独自のレリーフ感が嫌われるためだ。FFGSは、UVプリンタの速乾性と多様なメディアに対応できるという特性に重点を置いて、まずグラビア印刷による軟包材向けのプルーフシステム「GPプリモジェット」でUVインクジェットプリンタを採用することにした。おかげさまで導入いただいたユーザーには好評をもって受け入れられている。
 UVインクジェットプリンタについては、富士フイルムがdrupa2012で発表したパッケージ印刷向けのジェットプレスFに採用した、水性UVという新しい技術により、レリーフ感のない、高精細な描画品質を得ることができている。このような新しい技術を応用した本紙プルーフシステムの登場も夢ではないかもしれない。
 さらに昨年10月に発売したワイドフォーマットLED UVプリンタ「アキュイティLED1600」のプルーファー活用も検討している。

業界標準対応の必要性。グローバル運用に備える

 最後は業界標準への対応である。国内での業界標準色というと、真っ先にジャパンカラーが頭に浮ぶが、残念ながら現在のところ、ジャパンカラーの認知度は低いと言わざるを得ない。とくに地方ではその傾向が強い。「何がジャパンカラーだ。自社の色標準があるんだから」という意見。「自社の個性を捨てなさい」ということにもなるので無理もない。
 一方、海外へ視点を移せば、欧州ではFOGRA、北米ではG7といった色基準での運用が浸透していて、多国籍企業が手掛ける印刷物では、これらの基準での印刷を求められる場合もあると聞く。日本に輸入される製品の印刷も「G7で」となるかも知れない。そうなればジャパンカラー運用に慣れて、業界標準にノウハウを持つ企業が強いだろうし、逆にグローバル展開する国内企業がジャパンカラーでの印刷を海外向けに要求すれば、印刷会社が海外進出するチャンスとなる。
 クライアントはどこで刷っても同じ物ができてほしいと思っているはず。グローバル化の流れの中では、これが国をまたいで起こる。これが正しければ、個性の部分は残しながら、業界標準対応への準備を進めておく必要がある。我々としてもジャパンカラーには注力している。これをどのように啓蒙していくかも我々に課せられた使命だと考えている。