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トップ > 特集 > 検査関連機器特集 2012:[寄稿]枚葉オフセット印刷での検査装置運用を成功させるには 〜ジクス 高原亮介社長

製造メーカーにおける品質保証は、他社との差別化という観点から大きな要素を占めることは言うまでもない。そこには生産工程における機資材の見直しや工程間での工夫など、様々な手段が考えられるわけだが、その最終手段はやはり生産物を「検査」「検品」するということになる。この分野では印刷業界においても多くの各種関連機器が市場投入されており、これらを使ったシステマチックな検査工程から生まれる高品質で安定した製品供給は、クライアントの信用を獲得する手段だけにとどまらず、多品種・小ロット・短納期化が進む中では品質管理の検証による作業の効率化、損紙低減によるコストダウンなど、社内的観点からも重要性を増している。そこで今回は「検査関連機器・システム」を取りあげてみる。

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[寄稿]枚葉オフセット印刷での検査装置運用を成功させるには

ジクス(株) 代表取締役 高原亮介 氏

印刷ジャーナル 2012年3月5日号掲載

ジクス・高原社長
​ ここ近年、枚葉印刷機においてもインライン品検を導入する会社がよく見られるようになった。ほんの10年前には平台のオフセットでインライン検査ができる話をすると、なかなか信じてもらえなかったことを想うと感慨深いものがある。
 当時は圧胴の上で検査ができる方法を説明すると本当に紙尻まで検査ができるのか、それは厳しい条件で検収試運転をしたものだった。当時において検査装置を導入しようとする印刷会社もまた前例のない平台インラインでの品質保証に挑む進歩的な会社であったからだ。一方最近は普及しはじめたこともあって技術的検証があまり行われていないようなケースも見受けられる。しかし品検を導入して本当に運用するためには検査装置の仕様と自社の印刷物がマッチングしていなければ使いこなせないし、場合によっては「無用の長物」になりかねない。
 そこで、本当に品検を使いこなし、運用を成功させるのに必要なことに触れてみたい。

検査装置ではなく検査システムに

 検査装置をうまく運用できない事例に触れてみると、多くの場合、品検が単なる「センサー」として導入されているのを目にする。つまり、センサー品検が何か印刷不良を発見しても、「それをいつ、どのように抜き取り、正紙と分別するのか?」「欠陥と判断するサイズはどのようにするのか?」「刷り本のどの部分にある欠陥を不良とするのか?」「用紙の夾雑物は欠陥とするのかしないのか?」「水タレや油タレ、インキタレだけを欠陥とするのか?」「ヒッキーやミミズなども不良とするのか?」「地汚れは欠陥とするのか?」「色調不良も欠陥とするのか?」--等々が決められないで導入されているのである。
 このほかにも、基準画像(正しい画像)はどのようにして選ぶのかということも非常に重要だ。
 ざっと考えてみても運用するためには最低限検査装置の仕様を決める前に社内で取り決めておかなければならないことが沢山ある。これらは自社の刷り物の種類、紙の種類や連量、保存状態、印刷機の特性(メーカーと年式)、平均印刷速度、乾燥方式、特色の有無、印刷機のユニット数、自動版換装置の有無等々、挙げていけば枚挙に暇がないが、いま述べたことだけでも本来納入される品検の仕様は大きく異なるし、価格へも影響する。
 またこれらの仕様は取り付け方法、照明やカメラの角度、台数、カメラの種類を左右するので、導入してから考えたのでは対応できないことが多くある。
 このような事実にも関わらず単なるセンサーとして導入される印刷会社が増えていることには憂いを感じるし、せっかくの設備投資が償却負担を増やしただけになってしまっては印刷業界にとってマイナスなので、品検はセンサーではなく検査システムとして考えるべきだと強調したい。
 検査システムとして考えるということは、操作手順、運用ルール等のワークフローを確実にしておくということ。例えば「どこからどこまでを欠陥とするのか」に関する運用ルールを考えてみたい。
 小さいピンホールや、再生紙の脱墨不良を欠陥対象とするのかどうか。仮に欠陥対象とした場合にはそれをどうするか決めておくのがシステムである。
 「欠陥とする」と決めるのは簡単だが、その発生頻度の高さを分かった上で決めなければ、このような対象を欠陥とした場合、紙の種類によっては半分くらい欠陥になってしまう。とても商売として成り立たないからオペレーターは善意で検査結果を無視するようになる。そのうち大きな欠陥をも、せっかく品検が見つけているのにも関わらず外部流出してしまう。
 運用を成功させるシステムとは、何を欠陥とするのかということひとつをとっても具体的に面倒がらずにルール化し、印刷機長が判断に迷うことがないようにしなければならない。印刷という仕事は品質の良し悪しがオペレーターの判断力によるところが大きい。したがって「品検を付けたんだからクレームを出すな」と品検センサーの使用ルールを全部機長任せにするような導入では、運用の効果が得られるには程遠い。やはり製造部の命令系統上位から検査装置をシステムとすべく操作手順=何を基準画像とするのか、うっかり品検を入れ忘れて未検査とならないようにどの時点で検査を開始するのか、欠陥を発見したときの動作はランプなのかブザーなのか、欠陥のある刷り本を確実に分別するためにどのようにするのか--等々である。これらを後回しにして導入する例を見ることは少なくない。そしてその結果はやはりうまく運用できない形で返ってくるようである。

印刷は刷り物によってまったく異なる製造会社

 ここまで、品検をセンサーではなくシステムとすることが運用を成功させる必要条件であることを説明したが、システムとして考えた場合、同じ印刷会社であっても、刷り物の種類によってそれはまったく異なることになる。例えばパッケージの印刷と商業印刷、出版物のカバー、出版物の本文等々、これらは品検のハードウェア、ソフトウェアともに同じ仕様ではうまく運用できないと私は考えている。印刷会社の運用システム構成もそれぞれ異なるべきである。
 さらに言えば、品検を取り付ける印刷機によってもハード構成が異なるべきである。これは分かりやすく言えば、半導体の製造工程における検査システムと自動車の製造工程における検査システムが同じものではないのと同じだ。
 印刷という同じ業種であっても異なる製造業であるのと同じだというのが検査装置という視点から見た私の考えである。
 弊社では、この視点から、得意先へ納入する検査装置はその会社が刷る刷り物、インキの種類、パウダーの量、現場の環境、機械メーカー、機械速度、そして検査装置を導入することになった理由や何を検出したいのか、結果として何を求めるのかなど、ヒアリングとディスカッションを行い納入仕様を調整している。
 十把一絡げにならない品検を提供することがメーカーとしての我々の義務であると考えている。