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トップ > 特集 > 働き方改革ソリューション2020:第一印刷所|印刷発注者の働き方を変えるオンライン校正

日本の将来的な生産年齢人口は1990年以降減少を続け、2060年には生産年齢人口割合が50%になると推定されており、印刷産業においても、育児や介護との両立など働き手のニーズの多様化、長時間労働の是正に向けた生産性の向上など、働きがいのある、人々を惹きつける産業の確立は急務である。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の経験を強いられる中、企業ではオフィスに通勤せずに自宅などで働くテレワークへの切り替えを進めるなど、まさに我々の「働き方」は大きく変わろうとしており、この事態が企業にとって「働き方改革」の本質を根本から考え直す大きな機会になることは間違いない。印刷産業においても、「働き方改革」への対応や「アフターコロナ」に向けた労働環境の見直しは、待ったなしの状況にある。そこで今回、これら課題解決の手段として、「オンラインコミュニケーション能力を如何に高めるか」「生産現場の負担を軽減しながら生産効率を高めるためには」という2つの視点に着目し、「働き方改革」ソリューションを特集する。

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第一印刷所、印刷発注者の働き方を変えるオンライン校正 - 営業の「質」を変える

[Webポータルシステム XMF Remote導入事例]
500社でオンライン校正実施:顧客メリットは「時間の有効活用」

印刷ジャーナル 2020年5月15日号掲載

 オンライン校正は印刷会社だけでなく、印刷発注者の働き方を大きく変える可能性を持っている。しかし一方で、発注者側がこれまでのやり方を変えることに拒否反応を示し、受け入れられないケースも多い。そこで重要になるのは、成功事例による営業の意識改革を進め、校正業務のオンライン化によるメリットをクライアントへ的確に伝えることである。そこで今回、2015年から富士フイルムのWebポータルシステム「XMF Remote」の運用を開始し、現在およそ500社のクライアントでオンライン校正を実践する(株)第一印刷所(本社/新潟県新潟市中央区和合町2-4-18、堀一社長)に、その取り組みと効果を取材した。

営業改革に貢献する「XMF Remote」

​​クライアントにも受け入れられやすい「操作性」

 同社は、新潟県の主要都市に9つの営業拠点を展開するとともに、東京にも本部を置く総合印刷会社。枚葉・輪転を両輪とした印刷・情報サービス事業を核に、関連企業8社で構成する「D'sNET」グループにおいてクロスメディア、ポストプレス、在庫管理・配発送、イベント企画、出版、広告といった事業領域を網羅。多角的な情報伝達のワンストップサービスによる「時間軸(納期)」に大きな強みを持つ、新潟屈指のプリントサプライヤーだ。

 さらに特筆すべき同社の強みには「世界最先端のハード」がある。2015年にハイデルベルグのSX102-8-P DryStarLED、2017年に富士フイルムのJetPress720Sを導入し、オフセット/デジタルのハイブリツト運用を開始するとともに、2018年4月にはハイデルベルグの完全自動運転印刷コンセプト「Push to Stop」に対応したXL106-8-P DryStarLEDを導入。加速する多品種小ロットに対応する印刷工程を確立し、現在も「生産改革」を推し進めている。

阿部 常務
​​ 一方で、この「生産改革」への取り組みに先立ち、2014年には「営業改革」に着手。そのベースとなったのが富士フイルムのWebポータルシステム「XMF Remote」だ。XMF Remoteは、校正のやり取りやジョブの進捗確認などをオンライン上で運用し、営業およびクライアントの作業負荷軽減、生産現場での時間的ロス削減を実現するソリューションである。

 言うまでもなく、同社の当初の狙いは「営業・制作の生産性向上」だった。常務取締役企画開発本部長兼営業本部長の阿部正喜氏は、「クライアントのもとへ紙の校正紙を持参し、持ち帰る。まず、この移動時間が無駄である。また制作においても営業が持ち帰る校正紙の『待ち』が生じることで残業を強いられるケースがある。まず、こういった時間的ロスを排除するためにWebポータルシステムの活用を考えた」と当時を振り返る。

 XMF Remoteのシステム検討においては、当時同社が進めていたワークフローシステム「XMF」の切り替えに付随するものだったようだが、そのXMFのシステム選択においてもXMF Remoteの魅力、優位性が決め手となった。「D'sNET」でプリプレス工程を担う(株)プレスメディアのメディア推進部付専門役の関原公則氏は「いくつかのワークフローシステムを検証する中で、XMF Remoteの機能は頭ひとつ出ていた。そのポイントは『使い易さ』だ。PC操作に不慣れなクライアントにも受け入れられやすい操作性は重要な要素だった」と説明する。これら評価をもとに2014年末にXMFを導入。翌年4月からXMF Remoteの運用が開始された。

メリットを的確にプレゼンできるノウハウが重要

プレスメディアのメディア推進部付専門役の関原公則氏
​​ 「営業・制作の生産性向上」への期待を背負い、全社で運用が開始されたXMF Remote。しかし、開始当初はまだまだ校正業務における紙運用への依存度が高かったことから、校正のオンライン化はなかなかクライアントに受け入れてもらえず、一筋縄ではいかなかった。当時について阿部常務は、「やはりオンライン校正に対する抵抗感は否めない状況にあった。また営業側にもそのメリットを的確に訴求できるだけのプレゼンノウハウがなかったと言える」と振り返る。

 そこで同社では、強力なトップダウンのもと、とにかくオンライン校正を一度体験してもらうことからはじめた。営業が説明できないならばプレスメディアのスタッフが同行して校正業務のオンライン化によるメリットを的確に伝え、クライアントの理解を得る。そんな地道な取り組みが功を奏し、徐々にオンライン校正の実績も出始めた。そうすると営業・制作側にもメリットを的確にプレゼンできるノウハウが蓄積され、そこからオンライン校正の採用が飛躍的に増加。現在ではおよそ500社のクライアントでXMF Remoteによるオンライン校正を実施しているという。

 採用にあたり、クライアント側が評価するポイントは、やはり「時間を有効活用できる」ということ。営業を待たずして校正作業を進められ、校了の締め切りギリギリまで対応できる。これら校正の進捗状況は、クライアント、営業、制作でリアルタイムに共有される。そこでクライアント側でも時間を有効に活用できる大きなメリットが生まれるというわけだ。

 例えば、クライアント側の校正担当者が「その日、出社できない」という状況でも、PCとネット環境さえあれば自宅でも外出先でも校正作業を進めることができる。また「残業できない」「夜は用事があって仕事ができない」という状況でも、翌朝のプレスメディアが始業する前までに赤字を入れてくれれば、同社の始業と同時に作業に取り掛かれる。「通常、校正紙の受け渡しだけで数日かかる校正業務が、オンライン校正であれば15分程度で完了できるケースも多い」(関原氏)

 また、関原氏は、XMF Remoteの「セキュリティ」が採用のきっかけになっていると話す。

 「XMF RemoteはSSL暗号化通信で安全にデータ通信が行え、1案件に対して10GBのストレージも用意している。その部分を評価して採用いただくケースも多く、とくにオンラインストレージの情報漏洩が問題になった時にはXMF Remoteの採用が大きく伸びた」(関原氏)

制作とクライアントが直接繋がるということ

 XMF Remoteの活用場面について、同社の事例をいくつか紹介する。

 まず、車で片道2時間程度かかる遠方のクライアントに対しての提案。校正は、初校、再校、多いときには3校まで。これを校正紙でやり取りするとなると、営業はその都度半日以上の移動時間を費やす。そこで、XMF Remote活用に移行。営業は受注時に一度訪問するが、その後は基本、制作との直接やりとりで校正を完結する。

 次に、出張の多い校正担当者への提案。従来は、担当者が出社するまで校正が滞っていたが、ノートPCやタブレットをWi-Fiに繋げば出張先でも校正作業が行える。

 さらに、複数人の校正担当者がいる案件への提案。従来は、校正紙を回覧板のように回し、もし1人の担当者が休日をとっていたり出張していたりすると、そこで校正作業はストップしてしまう。スムースに校正作業が進んだとしても、最低2日程度かかり、それを取りまとめる作業も煩雑になる。そこでXMF Remoteの活用を提案。すべての校正担当者にアカウントを付与し、すべての担当者に校正期限を示して一斉に校正を進めることで、時間短縮と取り纏めの作業負荷を軽減できる。

 「制作とクライアントが直接繋がることで、これまでの営業を介した『伝言ゲーム』で生じていた『そうじゃない』というようなニュアンスの相違が解消され、ダイレクトに意向が伝わることで校正作業が効率化されている」(阿部常務)

 一方、関原氏は、「オンライン校正を実践するクライアントの赤字原稿が綺麗に整理され、良くなる傾向がある。そうすると自ずと校正回数は減る。1案件で校正回数が1回減るだけでも制作側の作業時間は1〜2時間程度削減できる。これも大きな効果だと捉えている」と説明する。

営業・制作の生産性が向上
​​

校正業務は「営業レス」へ

 前記のとおり、同社ではオフセット/デジタルのハイブリツト運用や「Push to Stop」の実践など、加速する多品種小ロットに対応する印刷工程を確立するとともに、ワークフロー改革によるグループ全体でのスマートファクトリー化を進めている。結果、今年度のグループ全体の加工高が昨年同様であるのに対し、時間外労働はマイナス1,000時間以上を達成しているという。

 営業だけで見れば、時間外労働は前年比でおよそ10%削減されている。この数字にオンライン校正の活用が寄与していることは言うまでもないだろう。そこで最も重要なことは、クライアント同様、オンライン校正で新たに生まれた余剰時間を営業が有効に活用することである。したがって「営業・制作の生産性向上」というオンライン校正の当初の狙いは現在、「営業改革」という次のステージへと移行している。

 「校正紙をクライアントに持参し、持ち帰ることを自らの仕事だと勘違いしている営業が多かった。しかし、営業の本業はクライアントの声を聞き、ともに課題を解決し、そして価値を提供することである。これが校正業務によって損なわれている現状があった。『XMF Remote』は、そんな『営業の質』を変えてくれるツールである。今後、校正業務に関しては営業レスを目指したい。クライアント側の環境やスキル、セキュリティなどが課題になるが、可能性はゼロではないと考えている」(阿部常務)

 新型コロナウイルス感染拡大の終息が見えない中、「来社禁止」というクライアント企業も多く、一方でテレワークの採用が進み、校正担当者が複数の場合、「テレワーク/出社」が混在するケースもある。しかし、同社ではすでに500社でオンライン校正を採用していることから、「とくに影響はない」としている。「遠隔、非接触の中で、迷惑も掛けずに、普通に行っていた仕事が、普通にできている」(阿部常務)

 一方、社内的には制作においてXMFによるテレワークの実施も進めていきたいとしている。そうなるとOB社員の採用の可能性もあり、昨今の人手不足におけるひとつの解決策になるかもしれない。

 「『顧客の社長の誕生日に花を届け、"ありがとう"と言われた』。これまで校正作業に追われる営業生活の中でこのような余裕はなかったと思う。抽象的ではあるが、オンライン校正によって営業に精神的なゆとりが生まれている。そこから新しい発想が生まれることを期待したい」(阿部常務)