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視点の行方

急展開迎える電子書籍市場(2)

印刷ジャーナル 2010年2月15日

 電子書籍市場をめぐる環境は急展開を迎えており、2010年はまさしく「電子書籍元年」との見方も多い。PAGE2010でも、電子書籍関連の出展が相次いだ。なかでもひときわ注目を集めたのがモリサワブースの電子書籍コーナーだ。ここでは電子書籍ソリューションが「iPhone 小説編」として参考出品され、そのツールやビジネスモデルの詳細が明らかになった。
 発表された「電子書籍コンテンツ変換ツール」は、DTPデータを電子書籍用データに変換する「オーサリングツール」と、Xcodeを外部からコントロールし、iPhoneアプリを簡単に生成する「SDK補助ツール」で構成される。
 まず、オーサリングツールでDTPデータから本文や画像のデータを抽出し、電子書籍用データに変換。ここでフォントや横・縦組、ルビ、インデントなどの情報を微調整する。また、異体字などが含まれる場合、その部分が色付けされるなど、出版社が気を配る文字化けにも対応した。
 フォントは、漢字、カナ書体それぞれ最大3書体を埋め込むことができる。ここではダイエットフォントと呼ばれる技術が用いられ、使われている文字だけを抽出して埋め込む。PDFのエンベットと同じようなイメージだ。フォントメーカーならではの機能といえる。
 次にこのデータを暗号化した独自フォーマットに書き出し、SDK補助ツールへ渡す。ここでタイトルやアイコンの情報を付加して実行すれば、ビューアと暗号化されたコンテンツ・フォントデータを含むiPhoneアプリが生成される。高度な知識が必要なXcodeの開発は、外注するとかなり高額なため、その内製化は参入障壁を格段に低くする。
 また、同社ソリューションの大きな特徴は、文字データを保持しているところにある。そのため、ビューア上でフォントや横・縦組、ルビ表示などを切り替えることができるほか、検索エンジンやWeb辞書に飛んだり、電話番号やURLへのリンクも使える。フォントメーカーであり組版ソフトメーカーでもある同社の「クオリティ」は、出版社から高い評価を得ている。
 ツールの利用料は、管理費として年間5万円程度を想定。その他、AppStoreに1万800円の利用料を支払えば、電子書籍ビジネスを開始できる。モリサワでは、出版会社や印刷会社は、実際にiPhoneアプリが購入された際、AppStoreから売価の7割が支払われ、その中からツールの利用料として売価の数%をモリサワに支払うといったビジネスモデルを検討。今回のiPhone編をベースに、アンドロイドやiPad、ウインドウズフォンへの展開も視野に入れており、オーサリング後の各端末への切り替えで、ワンソースマルチユースを目指す考えだ。
 電子書籍コンテンツ制作におけるコスト、ノウハウなどの参入障壁が格段に低くなることから、出版業界はもちろん、とくにDTPのノウハウを持つ印刷会社の付帯サービスとしての市場が見えてくる。