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視点の行方

海外で浸透するPUR製本

印刷ジャーナル 2009年10月15日

 15年ほど前からヨーロッパで注目されはじめた製本技術「PUR製本」。現在、無線綴じから、アジロ、オープンバック、上製本などへ、その適応範囲を広げつつある。
 そもそも「PUR」とは、「Poly Urethane Reactive Hotmelt」の略。ポリウレタン系反応型ホットメルト糊のことである。
 EVA系ホットメルトは冷えると固まり簡単に接着が完了するが、PURはポリウレタン系の未硬化樹脂を主成分とし、加熱溶解の後、空気中の水分(湿気)と反応し硬化するという湿気硬化型であるため、接着力を発揮するまで時間がかかる。しかし、反応で分子同士が結合するために非常に堅い結びつきとなり、反応して硬化した後は、加熱しても元には戻らない特性を持つ。
 このPURを使った製本の優位性は、まず本の強度が向上することだ。紙の引っ張り強度が優れていることは実証済みだ。
 また温度の影響を受けにくい他、長期間劣化せず、オフセットインキのオイルなどにも強い接着力を発揮。壊れにくい本を生産できる。
 さらに、ハンズフリーで本を読むことができ、また写真集のように綴じぎりぎりまで印刷されたものでも、見やすく、読みやすさを提供できる広開性の良さや製本素材の選択肢が広がるということも優位性に挙げられる。
 これらに加え、環境に優しい製本方法であることも知られている。糊の溶解温度が低く、電力消費が低くなり、リサイクル性も高い。また糊の消費量も少なくて済む。
 PUR先進国のヨーロッパを見てみると、ドイツやイギリスでは、EVA系ホットメルトでは接着が難しいとされるコート紙でもPUR製本が採用される傾向にある他、イタリアやスペインでは糸かがり製本からの切り替えも進んでいる。
 一方、米国でも5年ほど前から本格的な取り組みが始まっている。とくに「耐久性」が評価されているようだ。
 また、ブラジルでは政府の方針で、教科書すべてがサイドステッチからPUR製本に切り替えられている。
 ミューラーマルティニ社によると、欧州向け出荷機の8割がPUR設備を伴っており、世界では300ライン以上の同社機がPURで本を生産しているという。そこでのニーズは、高速生産化へと移行しつつある。結果、PUR糊のセールスは毎年15%の伸びを示している。
 一方、国内では、地図、料理本、辞書、ガイドブック、文庫本などで採用されているが、PUR製本ラインは約35台程度に過ぎない。
 現在、PUR製本の良さが認知されつつある一方、運用の難しさが指摘されているのも事実。その最大のネックとされているのが、糊の硬化に時間がかかるため「すぐに検品できない」という作業性だ。ただ、糊の開発は日進月歩で進んでおり、解決の一途をたどっている。あとは追加設備が可能ならば、付加価値という大きな武器になるのではないだろうか。