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視点の行方

見えてきた印刷業のM&A

印刷ジャーナル 2008年7月15日

 いまや中小企業においても有効な経営手法の1つに認識されているM&A(企業の合併・買収)。すでに大企業だけの話ではなく、経営者は規模に関係なくM&Aを視野に入れた経営を行なう時代といっても過言ではない。もちろん印刷業界も例外ではなく、ワンストップサービスや新創業といった業態変革を実践する上でも、M&Aは有効な手段となるだろう。
 一般的にM&Aという言葉を用いる場合、企業全体の合併・買収(売却)だけでなく、ある部門だけの譲渡(一部事業譲渡)や、資本提携(100%ではない株の取得・持ち合い)なども含め、広い意味での「企業提携」のことを総称している。
 M&Aには、合併・株式譲渡・事業譲渡・新株引受(第3者割当増資)など様々なものがあるが、もっとも一般的で中小企業に多いのは、売り手企業が既存の発行済株式を譲渡することにより、会社の経営権を買い手に譲り渡す「株式譲渡」である。これは合併とは異なり、会社の株主が代わる(所有権が代わる)だけであるため、売り手の会社自体はそのまま存続する。合併と比べると、手続き上も簡単である。
 M&Aのメリットは各社の目的や理由によって異なるが、第一に挙げられるのは既存事業の拡大や事業の多角化ができることである。きちんと狙いを絞り込み、自社の経営戦略やニーズにマッチした企業をM&Aで買収することにより、事業を大幅に拡大・強化することが可能になる。印刷業界においても、昨今では展示会の共同出展、資本提携の一歩手前ともいえる業務提携は珍しくなくなるなど、M&Aが身近になりつつある。
 M&Aでは、自社で一から、ヒト・モノ・カネを投入する必要がないため、機動的に新分野への進出を図ることができるほか、自前で投資することを考えれば、コスト面でもリスクは少ない。全印工連が推進する新創業やワンストップサービスの実現、次のステップとなるポスト2008計画の2010計画を実現する上でも、M&Aは重要なファクターの1つになることは間違いない。
 しかしその一方、後継者不足に悩み、その対策として会社を「売る」ことを目的にM&Aに関心を示す印刷業が増えていることも事実だろう。印刷業界のみならず、後継者問題で悩んでいる中小企業は約6割にものぼると言われている。後継者が見つからず、廃業・清算ともなれば、これまで心血を注いできた商圏・技術・ノウハウが「無」になるだけでなく、従業員の雇用や取引先への影響も深刻である。しかしM&Aで譲渡先が見つかれば、会社は存続して従業員の雇用も継続することができ、そこから再スタートを切ることができるのである。売却を目的としたM&Aが決して消極的であるとは言い切れない。
 あるアンケートによると、M&Aのイメージの上位3つは「有力な経営手法の1つ」、「今後、さらに盛んになる」、「必要があれば買い手として行なう」であるそうだ。もはやM&Aにマイナスイメージはない。
 M&Aは印刷業界においても長きにわたり注目されながらも、メリットが少ないから難しいという声も少なからずあった。しかしそれは各社が自社の特徴を明確にできていなかったからではないか。協業体制が顕著になってきた昨今の業界の流れは、相互の企業に協業する魅力が生まれてきた証とも言える。そう考えてみると、各社の業態変革は確実に進んでいる。