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視点の行方

「なぜ」一斉値上げ?

印刷ジャーナル 2008年5月25日

 製紙メーカー7社(大王製紙/王子製紙/中越パルプ/日本製紙/北越製紙/三菱製紙/紀州製紙)は、5月後半から6月初めにかけて、印刷用紙の15%以上の値上げを発表した。大王製紙(5月21日以降出荷分)を除いた残り6社は、揃って6月1日出荷分から、そして値上げ幅については発表7社全てが15%以上。普通に見てもある疑念が生じるのは、印刷業界に携わる人だけではないと思う。つまりメーカー各社は、それぞれの製造コスト構造を持っているにもかかわらず、ほぼ同時期に、そして同一の値上げ幅の実施は、独占禁止法に抵触するのでは、という疑念である。
 その疑問に対し印刷業界では、宮城県印刷工業組合が5月7日に、そして東京都印刷工業組合が翌8日に、それぞれ公正取引委員会に用紙価格一斉値上げに関する調査依頼を要請した。
 その「独占禁止法」の調査などを行なう機関である公正取引委員会のホームページには「独占禁止法」の概要として次のように記している。
 「独占禁止法の正式名称は、『私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律』です。この独占禁止法の目的は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることです。市場メカニズムが正しく機能していれば、事業者は、自らの創意工夫によって、より安くて優れた商品を提供して売上高を伸ばそうとしますし、消費者は、ニーズに合った商品を選択することができ、事業者間の競争によって、消費者の利益が確保されることになります。このような考え方に基づいて競争を維持・促進する政策は『競争政策』と呼ばれています。また、独占禁止法の特別法として、下請事業者に対する親事業者の不当な取扱いを規制する『下請法』、不当表示など一般消費者を不当に誘引する行為を規制する『景品表示法』があります」。
 今回、行動を起こした両工組は、平成14年(宮城工組)、同16年(東印工組)に同様に公正取引委員会に調査依頼を行なっているが当時は、証拠不十分ということで門前払いを受けたという。もちろん今回の値上げについても明確な証拠があるわけではないし、各社の経営指針に基づいた適正な価格修正であるのかもしれない。さらに現在では、原油価格などの諸資材の高騰により用紙以外にも生活に密着する、さまざまな製品の値上げが行なわれていることも事実である。しかし自由競争の経済社会において、競合他社と同一幅の値上げを同時期に行なうものなのだろうか。確かに大王製紙だけは、他社に先んじて値上げ実施を発表しているが、しかし残り6社は、なぜ6月1日なのか。なぜ各社とも15%以上なのか。古紙配合率偽装により、社会的信頼を著しく失っているこの時期になぜ値上げなのか。何度もいうが証拠は全くない。しかし誰が見ても「なぜ」と問いたくなる要素を多く含んだ値上げではないだろうか。これらの疑問を払拭するためにも、公正取引委員会による早急な調査の着手に期待したい。
 だが印刷業界としても今回の値上げ問題は別として、適正な市場環境を構築するためにも、各顧客に対し適正な印刷価格への理解を求めていかなければならないことも、また事実である。