PJweb news

印刷産業のトレンドを捉える印刷業界専門紙【印刷ジャーナル】のニュース配信サイト:PJ web news|印刷時報株式会社

トップ > 視点の行方 > 今求められる感性価値
視点の行方

今求められる感性価値

印刷ジャーナル 2008年4月15日

 高付加価値印刷物の提供による顧客満足の実現。印刷業界では、競合他社との差別化戦略として多くの企業がこの「高付加価値」への取り組みを実践している。また「高付加価値」製品を生み出すさまざまな設備の開発も進んでおり、これまでにはない画期的な製品とサービスがあらゆる市場において提供されている。
 しかし一般の生活者に対し、作り手である印刷会社は「高付加価値」製品に込めた思いを本当に伝えているのだろうか。
 そんな、ものづくり原点である「いい商品、いいサービスとは何か」という基本的な問いに立ち返って検討を行なうため昨年5月、経済産業省は、人口減少、少子高齢化の状況下にあっても経済・社会の活力ある発展を目指すために、感性という新たな着眼点からの価値軸(第4の価値軸)の提案を行なう「感性価値創造イニシアティブ」を策定した。
 この「感性価値」とは、生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることによって顕在化する価値のこと。これを実現することで、機能、信頼性、コストといった要素を超えた「プラスαの価値」を生活者に提供することとなり、それに見合う対価を得て、同時に、ものやサービスに対する生活者の愛着や固定的な購買層を獲得することができる。また「感性価値」の概念は、決して生活者に近い最終製品だけのものでなく、素材・部品という川上から最終製品という川下までの広がりを持った工業製品全般、さらには農産物や流通、サービス、コンテンツに至るまで、新たな日本のものづくりやサービスを考える上での普遍的なキーワードとなる。つまり感性価値の創造は、生活者との共感だけでなく、BtoBも含めた素材・部材という川上から最終製品という川下までのバリューチェーン全体で考えることができ、物語を積み重ねることにより、さらに感性価値が増大され、同時に経済価値をもたらすこととなる。
 このように感性価値とは、生産から販売までのバリューチェーンのなかで各段階のこだわりのような感性価値を積み重ね、物語という形で生活者に伝え、感動や共感を得ることである。その伝達ツールとして主役となるのは、やはり印刷物。印刷物は、これまでさまざまな情報伝達の道具としてその役割を果たしてきた。このノウハウを印刷会社は、独自の技術として蓄積しており、そこに「感性価値」を取り入れることで新たな製品・サービスを提供し、ビジネスチャスを大きく拡げることも可能となる。
 これまであらゆる分野で情報伝達ツールとして活躍し、生活と文化に貢献してきた「印刷」。しかし近年では、生活者の共感を得ることよりも、高い技術力だけを反映させた製品提供が先行してはいないだろうか。もちろん新たな技術開発は、印刷産業のこれからの発展には、必要不可欠であることは言うまでもない。しかし真の感動を生活者に与えるためには、技術だけではない、作り手の「こだわり」「手間」など本来、表面に現れることが無い「作り手の思い」を使い手に感じてもらうことが大前提となる。
 なお経済産業省では、2010年度までを「感性価値創造イヤー」と定め、感性価値創造の実現に向けたさまざまな施策を重点的に行なっていくという。