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視点の行方

環境保全とモラル

印刷ジャーナル 2008年1月25日

 2007年の世相を表す漢字は「偽」。食肉や野菜の産地偽装、加工食品の原材料偽造、大手菓子メーカーやファーストフード店、そして名門の老舗料亭にも賞味期限改ざんや仕入れ品などに偽りが発覚するなど、大きな社会問題となった。
 その余韻が残る2008年の初頭、日本製紙が製造した2008年用「年賀再生はがき」において古紙配合率の偽装が発覚した。この2008年用「年賀再生はがき」は、発注時の基準である古紙パルプ配合率基準40%に対し、実際の古紙配合率が1%~5%で製造されていたという。なお古紙配合率が偽装された日本製紙の紙製品は、2008年分の年賀はがきでは全体の約40億枚の54%。グリーン購入法対象のコピー用紙も月6,540トンが生産されている。
 この偽装発覚後、製紙メーカー各社が相次いで記者会見を行ない、王子製紙、大王製紙、三菱製紙、北越製紙等、業界大手から中堅企業にいたる計12社が再生紙の古紙配合率を偽装していたことを発表。これにより業界全体による古紙配合率の偽装とそのモラルの欠如した企業体質が明るみとなった。偽装を認めた製紙メーカー各社は、その理由として、白色度や強度など顧客ニーズに適した品質の確保と原料となる古紙品質の低下による技術的な限界を挙げている。
 リサイクル製品として一般的にも認知度のある「再生紙」は、環境保全を推進する官公庁や民間企業などの多くが印刷物をはじめとする紙製品に再生紙を利用することで環境配慮への取り組みをPRしてきた。この環境意識の高まりによって、市場では古紙配合率が高い「再生紙」の需要が急増。同時に製紙メーカーには、より高品質な製品の提供が求められたことが、今回の偽造の背景につながっている。一方、経済成長が続く中国でも古紙需要が急速に伸びており、そのため国内には良質古紙が不足し、物理的、技術的にも高配合の再生紙製造を困難にさせた原因となっている。こうした「再生紙」製造の現状を踏まえ、製紙産業の業界団体である日本製紙連合会では昨年7月、環境省に対し政府機関に環境配慮の製品購入を義務付けたグリーン購入法についてコピー用紙の古紙配合率を100%から70%に引き下げるよう要望していた。
 市場ニーズに対応するために生じた今回の古紙配合率偽装。昨年、発生した食品偽装とは、異なり一般消費者への不利益や健康被害につながることはないが、環境保全を訴える製品に対する社会的不安を与えたことは確かである。印刷業界においても多くの印刷会社が環境に配慮した印刷物の製造工程、また環境調和型諸資材を使用した環境対応印刷を実践しており「再生紙」はその中心的な資材となっている。そのため今回の「環境偽装」が印刷業界に及ぼす影響が懸念される。
 今年7月に開催される「洞爺湖サミット」では、地球温暖化対策などが議題の中心とされていることから「環境サミット」といわれている。環境対応製品である「再生紙」は、リサイクル製品である一方、その製造工程上、二酸化炭素(CO2)排出するという側面を持っている。この地球温暖化防止への対策として地球規模による温室効果ガスの削減が求められているなか、その製造段階でCO2を排出する「再生紙」。今後は、その利用方法について、製紙メーカー、印刷会社、顧客の3者があらためて「コスト」や「品質」について認識を共有し、そのうえで真の環境保全への取り組みとして一般社会に理解してもらう時期にきているのではないだろうか。