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躍進企業REPORT

井上総合印刷:独創的提案で新規受注獲得 - Jet Press 750S導入

印刷ジャーナル 2020年8月17日
Jet Press 750S
井上 社長
宇都宮ブレックスの写真集
栃木SCの試合で観客席に掲出された「黄援段」

高画質・バリアブル活かす 〜 屋外ポスター・パネルで優れた耐候性がメリットに

 (株)井上総合印刷(栃木県宇都宮市岩曽町1355、井上加容子社長)は2020年2月、クライアントへの提案力強化のための新戦力として、B2サイズのインクジェットデジタルプレス「Jet Press 750S」を導入し、小ロットのポスターや写真集、スポーツチームのグッズなど、幅広い用途に活用している。導入の背景や実際の活用方法、メリットなどについて井上社長に聞いた。


より付加価値の高い提案を目指して

 同社は1966年、現会長の井上光夫氏が創業し、謄写印刷から事業を開始。その後オフセット印刷へと移行し、生産体制を拡充しながら、地域に根差した総合印刷会社として成長を続けてきた。現在は、宇都宮市内に本社のほか平出工場・白沢工場の2工場を持ち、東京にも営業所を設ける。工場には、A横全判とB縦半裁のオフセット輪転機、H-UV枚葉機3台を備え、製本・加工設備も充実。デジタル印刷機は本社に集約し、Jet Press 750Sの他、「Color1000Press」「Versant80Press」などを仕事内容に応じて使い分けている。

 クライアントは、官公庁および各種団体、一般企業のほか、印刷会社やデザイン会社、個人客と多岐にわたり、地元・栃木のプロスポーツチームの仕事も多く手がける。さらに同社は、(株)miura-ori labが特許を持つ「ミウラ折り」のオフィシャルパートナーとなっており、全国から発注されたミウラ折りの印刷を一手に引き受けている。

 地域貢献などのCSR活動にも力を入れており、その一環として、2017年には宇都宮市内にレンタルスペース&カフェ「Cafe ink Blue」をオープン。店内は、セミナーや会議、ワークショップ、音楽ライブなどさまざまな用途に利用できるスペースになっており、カラーPOD機による出力サービスも提供。印刷会社プロデュースならではの多目的空間として、地元の企業や団体から好評を得ている。

 こうした事業を通じて「地域文化への貢献」を目指す同社がJet Pressの導入を決めた背景には、高い品質が求められる小ロット印刷物のニーズが確実に高まっていること、そしてクライアントへの提案の幅をさらに広げたいという思いがあった。

 「たとえば、バスケットボールやサッカーなどのスポーツチームに対し、ファンに喜んでいただけるような付加価値の高い印刷物を提案したい。そのためには、小ロット・バリアブルに対応でき、写真をオフセット並みにきれいに再現できるデジタル印刷機が必要だった。また、当社で長年手がけている自費出版のニーズが変化してきていることも導入理由のひとつ。以前は、文章で綴る自分史が多かったが、最近は写真や作品で自分の人生を振り返るという写真集・作品集のような形が増えており、画質の高さが求められるようになってきた」(井上社長)

 さらに、もうひとつの大きな導入理由が、ミウラ折りの小ロット対応だ。そこでは品質もさることながら、用紙サイズも重要なポイントだったという。

 「miura-ori labから提案用のサンプルを本紙でつくれないかという要望があった。以前はオフセットで印刷していたが、小ロットのためコストが高くつく。しかしデジタル印刷機は、A3のトナー機しか持っていなかった。当社としては、ミウラ折りならではのダイナミックさを活かせるA2サイズまで出せるようにしたかった。その点、Jet Pressは、品質もサイズも私どもの求める条件にぴったり合っていた」(井上社長)

 このようにさまざまな活用を視野に入れ、井上社長はJet Pressの導入を決断。しかし折り悪く、国内で新型コロナウィルス感染が拡大し始めたタイミングだったため、社内では慎重な意見もあった。

 「設置したのが2月20日。まさに状況が深刻になりつつある時期だったので、役員からは『いま導入して、どれだけ仕事を回せるのか』という疑問の声も上がった。しかし実際には、Jet Pressがあったからこそお客様に提案できた企画、受注できた仕事がたくさんあり、いまは皆『入れて良かった』と言っている。もし導入を見送っていたら提案できるものがかなり限られてしまい、もっと苦しいことになっていたのではないか」(井上社長)

Jet Pressを活かした提案で、コロナ禍でも受注を獲得

 導入から約4ヵ月。さまざまな分野でコロナの影響が広がる中、同社はJet Pressを活用して着実に新たな受注を獲得していった。その好例が、プロスポーツチームの仕事だ。無観客での試合開催、あるいは試合そのものが中止になるケースが相次ぐ状況で、どのような提案を行ったのだろうか。

 「たとえばバスケットボールのリーグでは、今シーズンの試合がすべて中止になってしまった。当社は地元の宇都宮ブレックスと長年付き合いがあるが、シーズンチケットを買ったお客様に何かできないかということで、Jet Pressの高い写真再現性を活かした選手の写真集を提案。1ページずつ、各選手の写真とサイン、メッセージが入ったものだ。自由にページを取り外して順番を入れ替えることができ、自分の好きな選手のページを前に持ってきたり、1枚だけポスターのように飾ったりすることもできる。表紙にはファンの名前や会社名をバリアブルで入れ、『自分だけの写真集』として楽しんでいただこうと考えた」(井上社長)

 一方、サッカーJリーグでは、6月下旬から徐々に公式戦が再開されたが、当面は無観客で試合を行うことに。これを受けて同社は、20年以上スポンサーを務める栃木SCに独自の企画を提案した。

 「試合の雰囲気を何とか盛り上げられないかと、サポーターの写真を印刷して観客に見立てた段ボールパネルを作成し、客席に設置するという提案を持ちかけ、採用していただいた。人型に抜くのではなく、敢えて四角いパネルのままで余白にスポンサー名を入れられるようにし、収益性にも配慮した」(井上社長)

 サポーターの写真は栃木SCのWebサイトで募集。クラブカラーである黄色の服を着た写真を送ってもらうことで一体感を演出した。パネルは、黄色・応援・段ボールから1字ずつとって「黄援段」(おうえんだん)と命名された。

 「実はこの企画、栃木SCを担当する営業にとって、初めて『提案らしい提案』を行った仕事だった。手書きで必死に企画書をつくり、Jet Pressで出力した実物大のサンプルも見せて。その甲斐あって、『これはいいね』と評価してもらい、詳細な仕様などの打ち合わせを重ねてこの形に辿りついた。本人の自信にもつながり、成長のいいきっかけになったと思う」(井上社長)

 この「黄援段」は、7月5日の試合で実際に掲出された。Jet Pressの再現品質やB2サイズ対応といった特長に加え、屋外使用のツールであることから「インクの耐候性の高さ」も大きなメリットになったという。

「オフセット並みの高画質でバリアブル」が大きな武器に

 耐候性を活かした印刷物としては、ポスターも挙げられる。地元の美術館などでは極小ロットのポスターの需要が少なからずあり、同社はその多くをJet Pressで印刷している。

 「最近は栃木県も人口が減少傾向にあるが、どの街にも必ず1軒は美術館がある。ただ、どの美術館も1回につくるポスターは4〜5枚とごく少量。しかも大判インクジェットを使うほどの予算はとれない、というケースがほとんどなので、Jet Pressを活かせる領域のひとつになっている」(井上社長)

 また、同社が今後伸びる分野として注目しているのがコスプレの市場だ。宇都宮はコスプレが盛んな街でもあり、撮影会などのイベントも多い。井上社長は「とくに写真集などは、Jet Pressの広色域・高画質を存分に活かせる」と期待を込める。

 「コスプレファンの多くは、衣装を着て楽しむだけでなく、それを撮影して写真に残すことを一番の目的としているそうだ。その写真をまとめて、いつか写真集をつくりたいと思っている人も多い。しかも、RGBとCMYKの違いなどもよく知っており、『CMYKで印刷すると色が濁ってしまうからRGBのまま出してもらえるところに頼みたい』と、仕上がりにも強いこだわりを持っている。そんなニーズにも、Jet Pressはしっかりと応えられると思う」(井上社長)

 さらに、同社はバリアブルを活用した企画提案にも積極的に取り組んでおり、実際にJet Pressで手がけたバリアブルの仕事の中には、トータルで50万部という大ボリュームのものもある。今後は、前記のミウラ折りでも、本紙によるサンプル制作や小ロット対応に加え、ナンバリングや画像差し替えなど、新たな付加価値を提案していく考えだ。

 「いままで、ミウラ折りでバリアブルという発想はなかったが、Jet Pressの導入によってそれが可能になった。オフセット印刷並みの高画質でバリアブルができるというのは、大きな強みになる」(井上社長)

使い方を限定せず、さまざまな可能性を試したい

 一方、現場ではJet Pressをどのように評価しているのか。現在の担当オペレーターは1名で、オフセット印刷機のオペレーションを約10年経験してきた人材だ。Jet Pressの操作については、それほど戸惑うこともなく、すぐに慣れたという。

 「まだ30歳代でデジタルに抵抗のない世代だということもあるが、Jet Pressは搬送系などの機構がオフセット機と共通なので、馴染みやすかったと思う。導入後の立ち上がりは早かった」(井上社長)

 また、その他の現場でのメリットとして、井上社長は、「両面バリアブル出力時の信頼性の高さ」と「オフセット印刷機とのカラーマッチングの取りやすさ」を挙げる。前者は、用紙の先刷り面に付加したバーコードを、後刷り面の印刷時にフィーダー部のバーコードリーダーで読み取り、先刷り面に合致したデータを瞬時に読み出して出力するという機構によるもので、出力後の検品作業の負荷軽減に貢献している。カラーマッチングについては、Jet Pressの色域の広さと、色再現の安定性が大きく寄与しており、印刷品質の高さに定評のある同社にとって、極めて重要なメリットだ。

 Jet Pressの今後の活用について、井上社長は、「こう使うというルールは決めず、できるだけ幅広い用途で活用し、あらゆる可能性を試していきたい」と語る。単純に「小ロット=デジタル印刷」という考え方で使い分けるのではなく、クライアントの課題に対して何ができるかを考え、そこでJet Pressの特長を活かせる領域があれば積極的に活用していくという姿勢だ。

 「Jet Pressによって、いままでできなかったことができるようになり、提案の幅も広がった。まずは既存のお客様にそのことを知っていただこうと、本格的に提案活動を始めているところ。たとえば、色域の広さを実感していただけるよう、Japan Colorに準拠したCMYK4色の出力と、インクの発色を最大限に活かしたRGB出力とを比較できるサンプルをつくって見せると非常にいい反応をもらえる。今後さらに提案力を磨きながら、イベントの集客ツールなど、新しいものをお客様と一緒につくっていきたい」(井上社長)