PJweb news

印刷産業のトレンドを捉える印刷業界専門紙【印刷ジャーナル】のニュース配信サイト:PJ web news|印刷時報株式会社

トップ > 躍進企業REPORT > キレイナによるパウダーレス印刷をさらに進化
躍進企業REPORT

藤和:キレイナによるパウダーレス印刷をさらに進化

印刷ジャーナル 2016年12月15日
伊藤 工場長
全印刷機のパウダーレス化を実現

独自の研究開発を加速 〜 目指すのは完全パウダーゼロ

 省電力UV乾燥システムの導入が加速している現在の印刷業界において、油性印刷のパウダーレス化を展開し、高効率稼働を実現している(株)藤和(本社/東京都三鷹市、後藤範行社長)。その同社では、T&K TOKAのパウダーレスインキ「キレイナ」、日本アグフア・ゲバルトの現像レスプレート「アズーラ」、そしてコンチテックの印刷用ブランケット「セレーネ」を採用し、究極の完全パウダーレス化に向け、さらなる研究開発を進めている。今回、同社・伊藤英隆工場長に、パウダーレス印刷に取り組んだ背景や成果、そして今後の展開などについて聞いた。


 油性印刷にとってパウダーは、裏移りなどのトラブル防止に必要不可欠な資材といえる。しかし、一方では、印刷機への堆積による機械不具合や印刷物へのボタ落ちなど、多くの課題も山積している。油性印刷を手がける同社も例外なく、パウダーによる印刷トラブルに悩まされていた。「パウダーを減らしたい」という想いから、伊藤工場長は、様々な資材をテストし、検証を重ねていた。そんな時、T&K TOKAから、あるインキの提案を受けた。それはパウダーレスインキ「キレイナ」だ。
 この「キレイナ」は、油性枚葉印刷で棒積みパウダーレスを可能とするインキ。新開発の特殊樹脂、新規採用の特殊ビーズ、乳化抑制ワニスなどの組み合わせにより、印刷中にパウダーを使用することなく、裏移りやステッキングを防止することができる。これによりパウダーに起因する様々な印刷・加工トラブルに効果を発揮する。
 伊藤工場長は、すぐに「キレイナ」を使用して印刷テストを実施。このテストによって同社の取り組むべき道が定まることとなる。
 「キレイナで印刷した印刷物を触ってみたところ、従来のインキとは、まったく違う感触であった」(伊藤工場長)
 伊藤工場長は、「キレイナ」であれば、同社の目指すパウダーレス印刷が実現できると直感し、その後も、徹底的にテスト検証を重ね、最終的に本採用を決定した。

「キレイナ」採用で作業環境が大幅に改善

 テスト結果が良好になっていくと同時に、工場環境も大きく改善していった。「キレイナ」採用後は、パウダーによるトラブルは解消し、また、清掃作業も従来は、ジョブ交換のたびに行っていたが、それも1日1回と、大幅に軽減されている。実際に工場見学や印刷立ち合い時には、「この工場は、空気が澄んでいる」といった評価を得るようになった。
 現在、同社・三鷹工場に設置されている印刷機4台は、すべてキレイナを採用している。原則、完全パウダーレス化となっているが、仕事によっては少量のパウダー散布や板取を行うこともあるという。また、中間色についても、可能な限りCMYKの調合で対応している。
 気になるインキコストについて伊藤工場長は、「もちろん従来インキに比べてコストは上がってしまうが、清掃作業の軽減やパウダーに起因する印刷トラブルの防止など、作業効率が大きく改善できたことを考えれば、インキコスト以上のメリットがでている」と、インキコスト単体ではなく、トータルコストでの評価を強調する。

「アズーラ」の水を切る特性を活用

 「キレイナ」の採用によってパウダーレス印刷に大きな成果を上げている同社であるが、そのパウダーレス化をさらに高める、もう1つの資材を採用している。それは日本アグフア・ゲバルトが提供する現像レスプレート「アズーラ」だ。
 もともと「アズーラ」の採用目的は、品質の安定化であった。導入以前は、他社プレートと現像機を使用していたが、現像工程時に生じる網点のブレが問題となっていた。実際に測定してみると、現像工程時に網点に変動があることが判明した。印刷物によっては、その微細な網点の変動で大きく色が変わってしまう可能性がある。そこで伊藤工場長は、現像レスプレートであれば、簡単に問題を解消できると考えた。
 この「アズーラ」によって品質の安定化を図った同社であるが、約3年のテストを経て、正式に採用している。これも品質にこだわりを持つ同社の特徴といえる。
 品質の安定化とは別に伊藤工場長は、「アズーラは水が切れる」という印刷会社にとって重要な特性を持っていることに気づいた。
 「アズーラを使用してみると、水があまる傾向にあった。これならば、もっと水が切れると実感した。そこから水を切る楽しさを覚えた」(伊藤工場長)
 水を切ることによって乾燥が速くなる。また、現像レスのため現像工程での変動要因も一切ない。この「アズーラ」と「キレイナ」という2つの資材によって同社のパウダーレス化は、さらに加速することとなった。

ブランケットの検証にも着手

 「キレイナ」と同様に「アズーラ」を全面採用した同社は、パウダーレス化を実現したと思われるが、完全パウダーレスを目指す伊藤工場長は、技術検証を休むことなく継続していった。三鷹工場では、設置から20年以上経過した印刷機をはじめ、設置時期が異なる4台の印刷機が稼働している。これら印刷機は、ローラ配列など、機構に若干の相違があり、その機構の違いが「キレイナ」に影響を及ぼすのでは、と伊藤工場長は考えた。それを確認するために、すべての印刷機で「キレイナ」を使用した印刷テストを実施。その結果、ある答えを導き出した。それはブランケットだ。
 「ブランケットは、使っていくうちにヘタってくる。そのヘタリによって転移が大きく変動することが確認できた。キレイナの技術の核は特殊ビーズであり、この転移がうまくいかなければ、パウダーレス効果が減少してしまう」(伊藤工場長)
 つまり替えたばかりのブランケットと使い込んだブランケットでは、その仕上がり具合に大きな差が生じる。そこで、同社は、数社のブランケットでテスト検証を実施。その結果を踏まえ、伊藤工場長は、コンチテック社に「キレイナ」の特性をさらに活かすためのプランケットの開発を依頼。そのブランケットが「セレーネ」で、現在、三鷹工場のすべての印刷機で使用されている。
 「1番の理由はヘタリが少ないこと。また、耐久性が向上したことで交換頻度も減少し、作業負荷も軽減できるようになった」と、伊藤工場長は採用理由を説明する。
 同社・戸田工場(埼玉県戸田市)には、菊全8色機が設置され、「キレイナ」と「アズーラ」によるパウダーレス印刷体制が、ほぼ構築できているが、本格的なパウダーレス印刷の運用が開始されていないのは、このブランケットにあるという。
 「三鷹工場では、セレーネで大きな成果をだすことができた。当然、戸田工場もセレーネに変更するつもりだが、まだ、製造が間に合っていないので本格運用は控えている。当社としては、このセレーネ以外を使用してパウダーレス印刷を行うつもりはない」(伊藤工場長)

3つの資材の融合で相乗効果を発揮

 同社のパウダーレス印刷は、「キレイナ」(インキ)、「アズーラ」(プレート)、「セレーネ」(ブランケット)の3つが融合することで、最大の効果を発揮している。そしてパウダーレス印刷に向け、妥協なき研究を続けていく強い意志があるからこそ実現できたといえる。
 「個々の製品単体でも、その効果を得られるが、この3つを融合することで1+1+1が3になるのではなく、4や5といった相乗効果を生み出すことができる。現段階では、これら資材に勝ものはないと思う。そして清掃やメンテナンスをしっかりと行うことも必要である」(伊藤工場長)
 現在、同社では、さらなる高効率生産を目指し、パウダーレス化とともにカラーマネージメントシステム(CMS)にも取り組んでおり、運用を開始している。さらにパウダーレス印刷の実践は、オペレータのモチベーションアップにも貢献しているという。
 同社では、省電力UVシステムの採用を検討した時期もあったという。しかし、同社は、油性印刷のパウダーレス化を選択した。そこには、油性印刷ならではの風合いや色表現を大事にしたい、という印刷会社のプライドがある。
 伊藤工場長は、UV乾燥システムの機能を評価する一方、「当社のような中小印刷企業が導入して、そのコストをカバーできるか。当社は、永年培ってきた油性印刷の技術力を高めることで、より効率的な運用を図ることを選んだ」と、今後も研究開発を推し進め、究極のパウダーレス印刷実現に向けて取り組んでいくことを明らかにした。