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躍進企業REPORT

富士精版印刷:原因追求で高効率生産へ 〜 紙の良さにこだわり技術向上に挑戦

印刷ジャーナル 2016年1月1日
里永 社長
石川 会長
中野 専務
山﨑 常務
真鍋 製造本部長
市島工場
現場スタッフとシステム38S

小森コーポレーション「システム38S」を導入

 富士精版印刷(株)(本社/大阪府大阪市、里永健一郎社長)は1950年創業、昨年65周年を迎えている。企画から完成品までの社内一貫生産体制でワンストップサービスを提供している。技術向上を第一とする同社は、すべての経営情報や技術を公開することにより、顧客はもとより業界からも熱い信頼が寄せられている。昨年9月、同社は生産効率向上のために、システム38S(A横全判輪転機)を導入。その導入理由と成果について、里永社長、中野光男専務、山﨑重次常務、真鍋隆司製造本部長兼品質管理室長、若林栄樹顧問、そして同社・市島工場(兵庫県丹波市)の横山浩士工場長代理と田村日出世部長代理に伺った。

情報公開が会社の信頼を高める

 同社の経営理念は、「商いは高利をとらず、正直に、よき品を売れ、末は繁盛」である。これを実践する経営方針に「技術向上第一主義」「事故は隠すな。正直に報告し、原因を追及せよ」を掲げるとともに、すべての企業活動の情報公開に踏み切っている。
 その取り組みの1つに、1958年に発行した社内報「富士」がある。
 里永社長は、「創業者の石川会長は、創業後の様々な不祥事や出来事の経験を通して、お客様に対して健全な経営の実践をお知らせすることの大切さを痛感した。そこで、財務をすべて公開しよう、事故は隠さず報告しようという考えから、社内報を開始した。年3回の発行だが、今では社内外への情報公開を担うツールとして、当社の信頼を培う広報誌・PR誌の役割を果たしている」と語る。
 近年、CSRが重要視されているが、同社は創業当初から時代を先取りして取り組んでいたことになる。
 中野専務は、「経営数値の公開は信用を高めることにつながり、印刷技術や事故の公開は印刷業界の発展につながる。それが当社の発展、信頼にもつながっていく。当社の技術開発には『完全棒積み1万枚』や『常温ワンウェイシステム』などがある。これらは特許に値する技術革新だが、すべてをオープン化し、多くの印刷会社で活用されている」と語る。
 同社開発の技術は、印刷の省力化や省人化、環境対応の実現に寄与し、印刷業界の発展に貢献している。
 真鍋製造本部長は、「正確な製品をお届けするという考えから、印刷技術をはじめ事故の事例や原因、損失金額などをまとめた本『品質管理365日』を作成している。現在6刊目だが、無償で配本し、営業マンのマニュアルとしても活用されている」と語る。
 同社の再発防止の情報公開は、多くの業界から支持を得ているという。

小ロットを加速させる輪転機

 技術向上第一主義を貫く同社は、昨年9月に生産効率の上がらない既設機を更新する形でA横全判輪転機システム38Sを導入。導入機には、オフ輪統合制御システムAI-Link、品質検査装置PQA-Wが搭載されている。現在、輪転機の市島工場ではA輪3台、B輪1台のKOMORI機が稼働している。
 「生産効率向上、品質向上、小ロットの対応が課題であった」と言う里永社長は、導入理由について次の様に説明する。
「従来機で20分かかっていた版交換がFull-APCで2分以内に完了できること。また、ロス率や準備時間の削減、印刷速度向上で生産効率が大幅に向上し、さらに高品質印刷に対応でき、印刷・加工ともに安定した製品が提供できること。そして増加傾向の小ロットにも対応できるようになること」
 また、導入成果については「市島工場の生産効率は1.4倍に向上し、大きなメリットとなっている。小ロット・短納期に対応でき、収益向上に貢献している。色の再現性が高く、枚葉機とのカラーマッチング精度が高められる。さらに輪転機特有の網点が細くなる現象がほとんどなく、胴洗浄後の色の変化も非常に良くなっている」と語っている。
 市島工場を立ち上げた若林顧問は、「システム38Sは、小ロット対応を加速させる印刷機だと思っている。最高の印刷品質を実現し、折り精度、生産効率も格段に向上している。5,000部の仕事にも対応しており、台数で加工高を上げることができる」と語り、生産性の良さを評価している。

従来機との格段の違いを実感

 横山工場長代理に、システム38S搭載のAI-Linkについて伺った。
 「現場からの強い要望で搭載した。AI-Linkは、一度やった仕事の色や折りなどオーダー履歴をすべて記憶しており、オペレーターはボタンを押すだけで簡単に前回同様の印刷ができる。リピートオーダーもボタン1つでセットが完了する。しかも、台数をこなせばこなすほど機械が仕事を覚えて進化していくので、オペレーターは安心して作業ができる。無駄な検品や時間を費やすことがなくなり、従来機との格段の違いを実感している」
 田村部長代理はPQA-Wについて、「微細なホコリやインキ落ちなどの不良をリアルタイムで検知でき、どこに不良が発生しているのかもすぐにモニター画面で確認できる。仮に不良が出た場合でも、印刷不良品の出荷を未然に防ぐことができるので、安心して印刷作業に集中できる」と語る。
 営業について山﨑常務は、「営業にとって、生産効率の大幅向上と印刷品質アップは、さらなる信頼を築き上げる力になる。とくに小ロット対応は、これからの大きな武器になる」と語る。

紙メディアで社会に貢献する

 里永社長に今後について伺った。
 「システム38Sの本稼働はまだ数ヵ月だが、既存機に比べて生産効率は1.4倍に向上している。今後はさらに最低でも1.6倍まで上げていきたい。網点の再現性が良いので、240線の高細線印刷も進めたいと考えている。2020年に東京オリンピック開催を控えており、今後、様々な需要が想定される。その営業体制強化のために、昨年10月に東京の営業拠点である子会社を本社に統合した。システム38Sは、その受注拡大への対応設備として大いに期待している」と語る里永社長は、温かさがある紙の良さにこだわって、紙メディアによる社会への貢献に情熱を注いでいる。