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躍進企業REPORT

笠間製本印刷:「経営に活かすエコ」〜第14回環境優良工場「経済産業大臣賞」受賞

印刷ジャーナル 2015年11月5日
田上 社長
藤田 部長
本社工場
工場屋根に600枚の太陽光パネル
リサイクル推移グラフ
環境負荷低減を追求する工場
リサイクル分別は32種類

創業140周年の節目に悲願達成
CSR柱のマネジメントシステム構築へ

 第14回印刷産業環境優良工場表彰で最高賞の「経済産業大臣賞」に輝いたのは、北陸から初となる(株)笠間製本印刷(本社/石川県白山市竹松町1905、田上裕之社長)。同表彰制度へは3度目の挑戦だった同社では、「経営に活かすエコ」という一貫したスタンスにCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)という要素を加えることで「印刷業の先端経営」という総合的な評価を獲得。創業140周年という節目の年に悲願を達成した。今後は環境や情報セキュリティなどを包括する仕組み「全印工連CSR認定制度」を柱としたマネジメントシステムを構築していく考え。


 同社は、明治8年に金沢で産声をあげた老舗企業。創業以来「帳簿のカサマ」として知られ、金融機関の洋式帳簿の製造を事業の柱に、北陸から東北・北海道へと販路を拡大。その後も帳簿の印刷製本技術を活かし、通帳や証書、小切手、手形、証券などへと守備範囲を広げながら飛躍的な成長を遂げる。現在では関東・関西へも販路を広げ、磁気カードやMICR・OCR・ディスクロージャー・偽造防止特殊印刷といった分野でも金融機関の需要を力強く支えている。
 さらに、2007年の菊全判寸延び6色UV機新設を機に、UV機の効率運用を目指したクリアファイル事業に着手。その販促の中核を担うメディアとして2008年にクリアファイル専門サイト「かさまーと」を開設し、140年の社歴の中で育まれた「安心感」が息づくクリアファイルビジネスは、いまや売上全体の30%を占めるまでに成長を遂げている。

環境経営は通帳分野から

 同社が環境経営を推し進める足がかりとなったのは、やはり事業の柱である通帳の分野。2003年のISO14001認証取得と時を同じくしてエコクロス通帳を開発している。これは、従来の布クロス素材が主流だった通帳の表紙を、紙100%素材へと切り替えることで再資源化を可能にしたもの。さらに2005年には日本初の通帳本文のカラー化にも成功。これらをあわせて「エコ・カラフル通帳」が誕生した。
 「開発当時は、ATM上でのトラブルもあり、取引先を失うなどの苦労もあった。改良を重ねながら『低コスト+環境適正』という製品の優位性を訴え、当時失った取引先もいまでは戻ってきている」(田上社長)
 さらに同社では、2009年のFSC森林認証「COC認証取得」をきっかけに、製造時に発生する二酸化炭素量を排出削減活動に協力することで相殺する「カーボンオフセット」にも取り組み、それを通帳へも展開。2010年には日本初の「カーボンオフセット通帳」を世に送り出し、大きな反響を呼んだ。また2009年にはグリーンプリンティング(GP)工場として認定取得。日本では唯一、預金証書に「GPマーク」を付与している。
 「取引先のほとんどが金融機関。『エコ』に非常に敏感な業態と言える。当社では『経営に活かす環境』というスタンスのもと、一連のエコ対応を実施した結果、環境経営の足がかりとなったISO14001認証取得からおよそ15年間で通帳の取引先は倍増、現在では約200行にのぼっている」(田上社長)

CSRを重点的に強化

 印刷産業環境優良工場表彰制度への挑戦は同社にとって今年が3度目。2009年の第8回では「奨励賞」、2013年の第12回では「経済産業省商務情報政策局長賞」を受賞しており、一連の環境経営を統括する管理部の藤田長宏部長は、今回の最高賞である「経済産業大臣賞」受賞を「3度目の正直」と表現する。
 2度の挑戦の中で、表彰制度への取り組みが経営に与える影響に大きな手応えを感じ取っていた田上社長。最高賞の受賞のタイミングを創業140周年という節目にあたる今年に定めた。
 そこで藤田部長は、前回の第12回の反省点としてCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)というキーワードを重点的に考えて活動を開始。「とくに法令遵守の観点については何度も役所に足を運びアドバイスを受け、関連の法令がなされているかというチェックを行った。法令義務のないような事柄についても確認を行い、積極的に取り組んだことが今回の評価に繋がったと考えている」と説明。社員からのアイデアを含め、全社でCSR強化へと歩みはじめることになる。
 具体的な取り組みとして以下の項目が挙げられる。
▽カラーユニバーサルデザイン通帳・メディアユニバーサルデザイン通帳の販売
 色の識別が困難な人にも分かりやすい配色・デザインを施したカラーユニバーサルデザイン通帳と、高齢者や障害者、色覚障害者など、誰もが使いやすいメディアユニバーサルデザイン通帳を販売。いずれも日本初の試み。
▽「白山手取川ジオパーク〜水の旅案内人講習会〜」開催
 同社がある白山市には、日本三名山のひとつ「白山」と、その白山を源とする県下最大の一級河川「手取川」が流れており、豊かな自然が広がっている。白山市では、こうした地域資源を再評価し、自然や歴史、風土などを「ジオ(大地・地球)」という大きな視点で関連させ、保全しながら教育や地域振興に活用する「ジオパーク活動」を推進している。
▽海岸清掃活動
 2015年5月、「クリーン・ビーチいしかわinはくさん」に参加し、白山市徳光海岸(松任CCZ)の清掃活動を実施。さらに6月には、白山市主催の「海岸美化清掃」に参加し、同じく白山市徳光海岸(松任CCZ)の清掃活動を実施。社員やその家族含め、多数が参加した。
▽献血活動
 社員有志による献血を2015年2月に実施。21名が参加した。
▽近隣幼稚園・保育所への製品寄贈
 通帳作製時の面付け上の余剰スペースを利用して作製したブロックメモ帳やお絵かき用紙、すごろくなどを近隣の幼稚園や保育所、計30団体に寄贈した。
▽工場見学
 社会貢献の観点から工場内を広く一般公開。通帳をはじめとする証券印刷物が印刷されて出来上がるまでの過程や環境保護に対する取り組みなどを紹介している。
▽インターンシップ・研修生受け入れ
 地元の大学や専門学校・高校からのインターンシップを毎年受入れている他、海外からの実習生も受入れている。
▽定期勉強会・改善提案制度
 毎月1回定期勉強会を開催し、環境や印刷に関する知識を深め、社員同士のキャリアアップの機会としている。また、改善提案制度を導入し、業務上の問題解決や作業の効率化に繋がっている。
▽5S+1S(セーフティ)安全パトロール
 毎月第2水曜日の10時から約1時間「5S+1S安全パトロール」を実施している。
▽エコキャップ運動
 使用済みペットボトルのキャップを回収し、再資源化事業団体へ売却した収益を医療支援団体やワクチン支援団体へ寄付している。
▽使用済み製品の回収
 社内に回収ボックスを設置し、使用済み製品を回収してさまざまな活動を行っている。

ブランディング効果に期待

 「経営に活かすエコ」「コスト削減のためのエコ」、もっと言えば「業績向上のためのエコ」というスタンスで、できる限りの環境保全施策を経営に取り込んできた同社。今回、印刷産業環境優良工場表彰制度の最高賞に挑んだ動機については、「ブランディング」という側面を強調している。
 「銀行と取引する際、かなり詳細に調査されることは言うまでもない。通帳を発注している企業に何かあれば供給がストップしてしまうからだ。今回の最高賞受賞は、当社の企業姿勢を金融機関にアピールし、評価材料のひとつとして機能することにも期待している。社内の意識向上、またその家族への認知、さらには人材採用面でも良好に作用するものと考えている」(田上社長)
 一方、今回の受賞理由では「MIS(経営情報システム)導入による、環境を含めた経営情報の見える化」も評価のひとつとされている。田上社長は「資材発注の仕組みや売上・利益を全社員が共有できる『見える化』への評価は、『環境』というよりも『印刷業の先端経営』を評価いただいたものと捉えている」と語る。藤田部長も「今回の『経済産業大臣賞』受賞は、エコだけで評価されたのではなく、CSRを含め、印刷業のあるべき姿を総合的に評価いただいたものと捉えている。これらがリンクして社会とともに持続可能な印刷会社であるかどうかがポイントになっているように思う」と語っている。
 ここで改めて環境負荷低減を追求する同社の主な取り組みを紹介する。
▽太陽光発電
 2013年3月より太陽光パネルを工場の屋根に600枚設置し、発電を行っている。年間の発電見込みは15万3,000kWh。これは、年間約55tのCO2削減効果があり、おおよそ27家庭の1年分に相当する。
▽電灯のLED化
 2013年5月に工場全体の蛍光灯をLEDに一斉切換え。年間で6万0,043kWhの減少を見込んでいる。
▽天窓の設置
 天窓を各所に設置し、自然の光を照明として利用。昼間の電灯の使用量を削減し、節電へと繋げている。
▽電力量の管理
 デマンドコントローラー、電力測定装置(カーボンアイ)、北陸電力のWEBサービスなどを利用して、時間帯毎の使用電力量を調査。今後、さらなる受注拡大により使用電力量が増加することが考えられるが、大幅に増加しないよう、データ収集と分析を続け、こまめに節電するとともに電力消費を抑える部品や工程を模索して消費電力削減に努める。
▽廃棄物の管理・削減とリサイクル
 廃棄物処分業者の見直しを徹底的に行い、これまで焼却・埋め立て処分されていたものがリサイクルできないかどうかを見直すことからはじめ、現在32種類におよぶ細かい分別を行うことで、リサイクル率99.4%を弾き出している。
▽環境汚染物質の削減、化学物質管理
 近年は溶剤などの影響で発ガンするという事件が社会的に問題となったこともあり、従業員の健康を守るために社内で調査を行い、有機溶剤の使用に配慮。新たに使用・購入する資材は、SDS(安全データシート)を取り寄せ、安全確認後、有害物質を含む資材は他のものに変更している。

         ◇          ◇

 今後の展開について藤田部長は、「まだまだやることはある」と語り、不必要に排出されている環境負荷要因撲滅に意欲を示している。
 そして全印工連CSR認定制度のワンスター認定登録企業である同社では、すでにその上位認定であるツースターへの挑戦を開始している。
 「CSR認定は、環境や情報セキュリティなどを包括する仕組み。今後は全印工連CSR認定制度を柱としたマネジメントシステムを構築していくことになるだろう」(藤田部長)