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躍進企業REPORT

明文舎印刷商事:IST 高圧水銀ランプをフォーム機のOPニスユニットに設置

印刷ジャーナル 2015年5月5日
創業者の銅像の前で3代目 中村彰男社長
「OPニスのユニットに設置し印刷速度を上げて検証している」と二階堂リーダー
IST高圧水銀ランプの操作部の前で山田営業本部長(左)
滋賀県長浜市の本社全景

DM・圧着はがきに使用するUVインキ、硬化速度の向上を検証

 「すでに確立されている技術や製品に興味はない。難易度の高いことに挑戦する姿勢にこそ、モノづくりとして、やり甲斐と楽しさを感じる」

 このように語るのは、滋賀県長浜市に本社を構える明文舎印刷商事(株)の3代目・中村彰男社長だ。製造業としてのプライドの高さとチャレンジ精神の旺盛さを感じさせる言葉だが、そんな中村社長は自社を「まさに実験室のような工場」と表現する。すでに発売されている加工装置を導入することはほとんどないからだ。同社では加工機を導入する際、ほとんどを自社で検証後、世界でただ1つのマシンとして導入している。また、同社の工場では見た目にも珍しい機械も多く、全身ピンクの薬袋専用の製造マシン、エヴァンゲリオンの模様とカラーにデザインされた特殊加工機など、あそび心にあふれる設備を見ることができる。

 「モノづくりが大好きで機械に興味のある人は、当社を見学に来れば楽しいはずである。中にはエヴァンゲリオンの機械と一緒に写真を撮りにくる、この業界とは関係のない人もいるほどだ(笑)」

 そんな同社の挑戦に次ぐ挑戦の歴史は、取引先である印刷会社の内製化が進み、ありきたりの設備を導入しただけでは仕事を受注できなくなったことに始まったという。

        ◇          ◇

 同社の創業は大正12年。初代・中村兼三郎氏が印刷業を開始したことに始まる。創業時は教科書やポスターなどの一般印刷が受注の中心だったが、「2代目・中村尚が社長に就任した昭和48年頃からビジネスフォームによる連続帳票などの印刷を開始した。その当時、滋賀県にはコンピューターを導入する企業がまだ少なく、その頃から都心の印刷会社の下請け会社としての当社の歴史が始まった」と中村社長は振り返る。

 しかし、時代の流れとともに取引先である印刷会社の内製化が進み、設備を導入するだけでは受注を増やすことは難しくなってきた。「仕事を増やすため、ごく自然に他の印刷会社ができない仕事、嫌がる仕事を行うことで下請けの仕事を増やしてきた。それが今日のオリジナリティにこだわる企業体質につながった」と中村社長は断言する。

 3代目・中村社長の代になってからは、インクジェット用紙の加工やスマートフォン保護フィルムの製造など、印刷とは関係のない事業領域への挑戦も開始。20インチ幅の高速インクジェットプリンターも2機設置した。そして現在、同社が新たに挑戦しているのがDM・圧着はがきの製造工程で使用するUVインキの硬化速度を向上させるための実験検証である。

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 同社では、最新鋭の多色ビジネスフォーム機を数台所有しており、すべてのユニットにUV装置を装着している。これでDM・圧着はがき、封筒付きの申込書などを製造しているのだが、中村社長は「UVランプの硬化速度が納得できるものではなかった」と今回の検証を開始した動機を話す。そこで同社は4月、UVランプの硬化速度向上を目的にISTイーストアジア(株)(本社/東京都大田区、マークス ティンネス社長)の高圧水銀ランプをフォーム機のOPニスユニットに設置し、硬化速度を向上させるための検証を開始した。

 一般的に硬化速度を上げるためには波長が短く、かつエネルギーの強い硬化ランプが必要だが、ISTの高圧水銀ランプは使用するインクや薬剤と、波長の相性も良く、硬化速度の検証は順調に進んでいるという。

 「アンカー剤の硬化の場合は従来のメタルハライドランプで問題ないのだが、OPニスの硬化には速度に不安があったため、これまで印刷機は分速50mで運転していた。しかしISTのUVランプを設置してからは分速80mで運転を行っており、現在のところ問題なく検証が進んでいる。最終的には分速100mにまで回転を上げていきたい」(製造本部 印刷グループ 二階堂一也リーダー)

 同社の場合、ISTの高圧水銀ランプ設置の目的は生産性向上ではなく、あくまでも「硬化速度の向上」という、製造業としての技術的課題解決への挑戦が第一義なのであるが、山田政明取締役統括営業本部長は「圧着はがきの受注は一度に250万〜300万枚のロットがあり、生産には3週間ほどの納期が必要。分速100mの運転が可能になれば、結果的に生産性は2倍になる」と話す。また、ISTの高圧水銀ランプはインバーター式であるため、「印刷機の回転速度に関わらず、エネルギーワットを設定すれば常に安定するため、操作も楽に行える」と二階堂リーダーは評価する。

 同社は今後、DM・圧着はがきの仕上がり具合や剥がしやすさなどの品質面の効果についても検証を続ける方針だ。

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 中村社長は新たな領域への挑戦について、「結果よりも、まずは自身でやってみることが大切」と断言する。失敗を恐れずに、新しいことに挑戦を続けてきたことが90年の歴史を誇る同社の礎となっていることは間違いなさそうだ。製造業の先駆を走る同社の今後の取り組みに注目したい。