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躍進企業REPORT

SEIUNDO:セミナーによる専門性周知でブランディング

印刷ジャーナル 2014年1月1日
田畑社長
ワンタッチ入場票
昨年11月8日に大阪(国際会議場)で開催した「ディスクロージャー実務 特別合同勉強会」

「ワンタッチ入場票」が大規模株主総会の6割で採用

 「選ばれる理由、は自らが創る」--昨年10月4日開催の「全印工連フォーラム」で発表された、新たな印刷産業成長戦略ビジョン「『印刷道』〜ソリューション・プロバイダーへの深化」では、戦略方向性を6類型に分けて定義している。その中のひとつである「特定機能プロバイダー」としての機能を「独自化」というコンセプトを明確に打ち出しながら実践している企業が大阪にある。北区・天神橋に本社を構える(株)SEIUNDO(田畑良一社長)は、永年の実績を誇る株主総会・IR(投資家向け情報開示)関連事業において専門性をさらに追求し、セミナー開催という手法を通じてその独自性を周知。見事、ブランディングに成功している。

「請負」という業態に徒労感や閉塞感

 大正12年に創業された「井口青雲堂」を母体として、戦後間もない昭和22年にそこの従業員だった田畑社長の祖父・田畑順治氏が看板を譲り受ける形で事業を開始したのが同社の原点である。当初から金融街・北浜に多くの得意先を持ち、とくに信託銀行の証券代行部に出入りしていた同社は、招集通知書や株主通信、有価証券報告書、議決権行使書などの印刷物を手掛け、現在でも株主総会やIR分野に強みを持つ印刷会社だ。
 この分野は、大手上場2社でその市場のおよそ95%を二分していることは多くの知るところである。そのニッチ市場で3番手グループに位置する同社は、大手には真似のできないきめ細かな対応を武器にそれなりの地位を築き、同事業を「収益の柱」としてきた。
 しかし、その市場環境もバブル崩壊や経済のグローバル化とともに変化する。ある意味「聖域」とされてきた上場企業における同分野の関連予算もコスト削減対象となり、上場企業数の減少や株券の電子化といったマイナス要因も加わることで、市場内の競争が激化。当然同社もその煽りを受ける。
 そもそも、大手銀行から印刷業界に入って以来、「請負」という業態に徒労感や閉塞感を感じていたという田畑社長。市場環境の変化への対応、そしてそんな悶々とした思いを払拭すべく着手したのが自社商品の開発だった。
 「『請負』ではなく、独自性のある商品やサービスを開発・提供することで、お客様にとって不可欠な存在となり、未来像を主体的に描きたい。先行き不透明な暗闇の中で、見定めた市場の急所を見つけ出し(=局地戦)、そこを細い1本のキリを刺して突き抜け(=一点突破)、自社の行く末に光を呼び込みたい。これが実現すればワクワクと未来に希望を持って仕事ができるはず」(田畑社長)

NTT上場をきっかけに誕生した「ワンタッチ入場票」

 「自社商品の開発によって独自性を打ち出す」。そんなコンセプトを具現化へと導くヒントは、やはり同社が強みとする株主総会関連分野にあった。市場を絞り込む中で、上場企業が株主総会の受付業務において「渋滞」という切実な課題を抱えていることに着目した同社は、その渋滞緩和・解消に寄与する「ワンタッチ入場票」を商品化し、特許も取得(第4374076号)することで「独自化」を図ったのである。
 そもそも、この「ワンタッチ入場票」の原形が生まれたきっかけは、1987年の日本電信電話(NTT)上場にある。各証券取引所に上場したNTTの株主は100万人以上にのぼり、総会も前代未聞の規模になるということで、その代行機関であった信託銀行から同社を含む取引業者に対し、受付関連業務の効率化に関する依頼があった。
 従来の受付業務は、ミシン目の入った厚紙から副票をちぎって株主が持参する議決権行使書に重ね合わせてホッチキスで留めるという作業だったが、1,000人以上が参加する大規模総会では到底さばききれない。そこで採用されたのが、同社が提案した「ワンタッチ入場票」の前身である。
 これは、シール状の副票を議決権行使書に貼ってちぎるだけ。とくにシール部分は粘着面が露出している状態でも入場票同士が貼り付くことはなく、束ねても簡単に1枚ずつ剥がせる工夫が施されている。これにより、従来1人あたり約5〜6秒かかっていた受付時間が1〜2秒に短縮され、渋滞緩和・解消に大きく貢献するというものである。
 NTTでの採用をきっかけに、その後、民営化・上場した旧国有企業数社の株主総会でも採用されたが、しかし当時はまだ個人株主が株主総会へ気軽に出席するという時代でもなく、それ以上の広がりはなかった。
 それが大きな転機を迎えたのが、ライブドアのホリエモンや村上ファンドの村上世彰氏が渦中の人となった2006年頃。株式投資が個人にも身近な存在になり、「貯蓄から投資へ」という機運の高まりを受け、個人投資家が急増。さらに総会屋への取締り強化も相まって、上場企業における株主総会の対策は総会屋から個人株主へと移行し、そのトレンドを追い風に「ワンタッチ入場票」をバージョンアップしてリリースする。そしてDMによる告知や口コミによって採用社数も50社強まで増やした。「通常の印刷物と比較して、決して安い物ではない。しかし、上場企業の多くに『受付業務の効率化(による人件費削減)』というメリットをご理解いただくことができた」(田畑社長)
 しかし、一方で数年後には再び頭打ちの状況を迎える。名だたる大企業がこの「ワンタッチ入場票」を採用していく一方、「所詮大阪の小さな印刷会社だとの当社に対する認知度・信用度の低さがまだ懸念材料として残っていた」(田畑社長)という。そこで同社は、思い切ってブランディングに打って出ることになる。

セミナーで「専門家」としての立ち位置を確立

 ひとくちに「ブランディング」といっても、そう簡単な特効薬はない。同社が選んだ手法は、セミナーの開催だった。
 内容としては、上場企業の実務担当部署が求める本音に切り込むようなテーマで企画。東京・大阪で年4回程度開催しており、回を重ねるたびにその質を高め、確かな手応えを感じているという。ここでのポイントは、事前に承諾を得た上で参加者リストを配付することだ。
 「当社に対して半信半疑だった見込み客の企業も、セミナーに参加している蒼々たる大企業の顔ぶれを目の当たりにすることで、当社のことを信用せざるを得ない。また、既存顧客にも当社の持つ情報や専門性の価値を理解していただける。いまでは我々を応援してくださるトップ企業群から、セミナーのテーマに対するリクエストが寄せられるほど。『自分が知らないことを教えてくれて、知りたいことを情報提供してくれるパートナー』という、いわば『専門家』としての立ち位置を確立できたことは大きな収穫である」(田畑社長)
 昨年11月8日に開催された直近の企画のテーマは、「ディスクロージャー実務 特別合同勉強会〜先進3社の好事例に学ぶ〜」。ディスクロージャーに関し、最先端を走るエーザイ、資生堂、トラスコ中山の3社が、その情報開示に関する先進的な考え方から実務レベルの情報までを本音で惜しみなく公開するといった稀有な内容だ。当日の参加者は70社110名。配付された参加者リストには名だたる上場企業が名を連ね、これがまさに見込み客に対する強烈な「ブランディング」に繋がっているわけだ。

「差別化」ではなく「独自化」

 現在、「ワンタッチ入場票」を採用している上場企業は183社。来期は230〜250社ぐらいまで増える見込みだという。さらに特筆すべきは、上場企業3,500社超のうち、株主総会に1000人以上が参加する企業は98社で、そのうち57社が「ワンタッチ入場票」を採用しているという点。以前は競合関係にあった業界トップの上場企業などが代理店として拡販していることもあるが、およそ6割にのぼるシェアには驚きだ。中小印刷会社がこれら大企業と対等、もしくは優位な立ち位置でビジネスを展開している。全印工連が標榜する「ソリューション・プロバイダーへの深化」として非常に分かりやすい成功事例だと言えるだろう。
 「狭小な市場を自ら創り、圧倒的に強い解決型商品を持つことで、競合他社に惑わされることなく、顧客の傍らに寄り添って純粋にお役立ちの追求ができる」と田畑社長。そこには「差別化」ではなく「独自化」というコンセプトが明確に存在する。市場をとことん絞り込み、専門性を磨き上げる。そしてセミナーなど、自社に適した方法で利益を顧客層に還元しながら関係性を一層高めていく。その中で自社に集まった生々しい真の情報を活かし、さらに新たな商品開発や顧客創造に繋げる。印刷や加工といった便利な技術を上手く組み合わせて市場の課題を解決しつつ、このサイクルを主体的に回していくのが同社の理想だ。