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躍進企業REPORT

日之出紙工:断裁技術を追求して「還暦」

印刷ジャーナル 2013年5月15日
寺井社長
小規模ながらも優れた技術に自信を持つ寺井社長(右から2番目)と3名の従業員
3台の断裁機周辺は常に整理整頓されている

〜仕上げ技術の断裁、基本化粧仕上げ〜
数々の新手法を開発

 早く、安く、正確に--。紙加工業の日之出紙工(株)(本社/大阪市天王寺区空堀町15-18、寺井正社長)はこの3本柱を基本方針に掲げ、印刷業界のパートナーとして信頼と実績を築いてきた。そんな同社が最も得意とするのは、正確無比とも言える高度な「断裁技術」だ。寺井社長はその卓越した断裁技術が社会からも高く評価され、「なにわの名工」、「大阪市の名工」などの表彰を受賞。印刷物断裁技能において、大阪府内の第一人者とも言われている。本年8月に創業60周年の佳節を迎えようとする中、さらなる断裁技術の向上に気持ちを新たにしている。


 同社の創業は昭和28年8月。元海軍の飛行機乗りであった故・寺井利一郎氏が創業した。当時はポンス抜き1台からのスタートであったが、7〜8年後には現在の主力である断裁機の1号機を導入。寺井社長は小学生の頃、断裁屑で遊んだ記憶があるという。
 昭和25年生まれの寺井社長は、学業を終えると同時に昭和44年に同社に入社。以来、40数年以上にわたって紙断裁の製造に従事し、紙の揃え方(ジョガー)や数の読み方(計数)、基本の化粧、全紙の入れ方の基本操作からタック・セロファン・グラシン・和紙の切り方・胴割の切り方、折りの商品の切り方、製本商品の切り方、角切、斜切の切り方、丁数付合の小断の切り方まで、断裁作業全般にわたって習熟し、コンピュータ制御の最新設備に現場サイドに立脚した数々のアイデアと創意工夫を盛り込むことで、生産工程の合理化と品質の安定化を実現し、印刷物断裁技能において、大阪府内の第一人者としての地位を揺るぎないものとしている。またこの間、平成6年6月より2代目に就任している。
 現在の設備は、断裁機3台のほか、折り機、ポンス抜き、穴明け、角丸、筋入れ、ミシン入れ、スリッター入れなど。この中でも、同社がもっともこだわりを持つのは断裁技術である。「断裁はあらゆる紙加工の基本となる。紙が正確でなければ、その後工程の折りも決して上手くはいかない」(寺井社長)からだ。
 現在の主な仕事は、ラベル、しぼり、包装紙などが中心であるが、「過去には折り紙の断裁の仕事が数多くあった」と寺井社長。折り紙は、サイズが直角でなければ綺麗に折ることはできない。このことからも、同社の断裁技術がいかに評価されていたかが容易に想像できる。
 では、同社はどのようにして断裁技術を高めてきたのか。これは前述のように、コンピュータ制御の最新設備だけに頼るのではなく、そこに現場サイドに立脚した数々のアイデアと創意工夫を盛り込んできたことに他ならない。
 「例えば、刃物の角度にしても、硬めの紙は鈍角、柔らかめの紙は鋭角で断裁する。これは断裁の世界では常識であるが、理屈では理解していても、経験の浅いオペレーターではその微妙な調整が難しい。また、紙は直角に切るのが基本だが、断裁機への紙の当て方、切る順番などによっても品質に大きな影響が出てくる」(寺井社長)
 メーカーの技術革新だけに頼るのではなく、独自で新手法を開発しながら仕上げ技術の断裁、基本化粧仕上げの技術向上に努力を続けてきたことが、今日の断裁技術の礎となっていることは間違いなさそうだ。

早く、安く、正確に

 品質、価格、納期。この3つに対する顧客ニーズが高まる中、同社は断裁機の刃物ひとつにしても、長期間使用するための工夫を凝らしてコスト削減に努め、それを価格に反映させるための最大限の努力を行っている。
 「断裁機の『刃』のどこの部分を使って断裁作業を行うのか。これはオペレーターによって、やりやすい部分やそうでない部分が多少なりともある。同じ部分でしか上手に切れない場合、刃の摩耗も激しくなり交換時期が早まってしまう。これをまんべんなく使うことにより、少しでも消耗品のコストを削減する努力を行っている。また、これらに気を配りながらでも、当社では1日に四六パレット10本分の断裁を行うことができる」(寺井社長)
 まさに品質、価格、納期のすべてに自信を持つ。さらに同社では断裁機を使う上で最も気を付けなければならない安全面にも配慮し、創業から60年にわたって無事故の仕事を続けている。
 「断裁屑を足下に置かないのは基本。これが足下を滑らせるなど事故の原因につながるため、断裁屑に限らず、工場内の整理整頓には常に気を付けている」(寺井社長)
 3台ある断裁機の周辺は、いずれも断裁屑などは全くなく、整理整頓が安全な作業につながることを実証している。
 「本年8月には創業60周年を迎える。初心を忘れることなく、さらに印刷業界のお役に立てるようコスト削減と生産効率向上、技術革新に努めていきたい」(寺井社長)
 現在の社員数は寺井社長を含めて4名。同社は事業規模こそ大きくないが、断裁職人としての情熱は大きなものを持つ企業と言えるだろう。