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躍進企業REPORT

精興社:複雑な数式組版をデジタルの世界で再現する「MC-B2」

印刷ジャーナル 2011年10月25日
常務取締役 水上 健 氏
制作部 生産システム担当 副部長 小野 克之 氏
制作部 プロダクトグループ 副課長 野崎 泰弘 氏
MC-B2 で組版する月刊誌「数学セミナー」
活字~CTS 時代にかけて確立した複雑な数式組版を、デジタルの世界で再現する「MC-B2」
制作現場

 活字時代から「活字の一回使用」や「オリジナル書体の開発」といった画期的な取り組みで、並外れた文字へのこだわりと伝統を誇る株式会社精興社。書籍印刷をベースとする同社は2005年に電算写植からDTPへと移行するが、そこで課題となったのが、活字〜CTS時代にかけて確立した複雑な数式組版をいかに再現するか。デジタルの世界でそれを実現したのがモリサワの組版ソリューション「MC-B2」である。

独自の細身の明朝体開発と活字の一回使用

 同社の歴史は1913年(大正2年)に遡る。東京・神田を創業の地として産声をあげた「東京活版所」がその原点だ。
 文字通り、活版による書籍印刷を生業として事業を拡大する中、その大きな事業展開の流れを決定づけたのが、時を同じくして誕生した岩波書店の創業者・岩波茂雄氏との出会いである。岩波氏からその高い印刷技術を認められたことで、創業間もなく取り引きがはじまり、以来、その印刷技術に磨きをかけることで企業価値を高めた。そして2013年、奇しくも両社は100周年を迎える。「ともに歩んだ100年」というわけだ。
 そんな精興社の原点となる活版印刷事業を支えたのが、「活字の一回使用」と「オリジナル書体の開発」である。
 活字は繰り返し使用できるという利点があったが、繰り返し圧力をかけることによって字面は磨耗し、つぶれ、そのため印刷された文字は太く不鮮明になってしまう。そこで同社は「活字の一回使用」に踏み切る。これは、一度紙型をとった活字は解版し、溶かして鋳造し直すというもの。これによる印刷技術の向上に伴い、それを活かす精興社独自の新しい書体の開発が必要と判断した同社は、1930年、従来の活字書体の改刻改良を君塚樹石氏に依頼し、6号、8ポ、9ポ、5号の精興社タイプと呼ばれる活字書体(約5万字)を3年の歳月をかけて完成させた。文字にこだわり抜いた同社が試みた独自の細身の明朝体開発と活字の一回使用。これら画期的な取り組みによって文字は常に細く整い、可読性に優れた多くの書物を世に送り出した。
 なお、この「精興社書体」は、写植用精興社書体を経て、現在はAdobe-Japan 1-5 準拠のオープンタイプフォント(ユーザー外字含め3万文字超)としても継承され、いまでもDTPの世界で活躍している。

「脱CTS」で行き詰まった数式組版の再現

 2003年頃、「脱CTS」を宣言し、フルデジタルワークフローの構築に乗り出した同社。精興社書体の継承やデジタルコンテンツへの対応もその理由だが、最大の目的は分業化されていたプリプレス工程を集約することにあった。「脱CTS」のプロジェクトを率いた制作部の小野克之副部長は「活字からCTSの時代にかけて、入力、組版、朱字差し替えといった一連の作業がそれぞれ専門職として分業されていました。この作業を1人に集約・統合することが『脱CTS』の最大の狙いだったわけです」と説明する。そのツールとして2005年にAdobe InDesignを導入、DTPによる制作をスタートさせた。同社の水上健常務取締役は当時について、「我々が培ってきた文字組版の技術はAdobe InDesignというオープンなシステム上でも活かされ、古文書をはじめとする複雑な組版も見事に再現することに成功した」と振り返る。
 ただどうしても最終的に行き詰まったのが横組みの数式だった。活字時代からCTS時代にかけて、複雑な数式の組版を確立していた同社にとって、この部分ではやはりAdobe InDesignでは表現や作業性に限界があった。その違和感の払拭をプラグイン対応で試みたものの、Adobe InDesignによる従来の緻密な数式組版の再現は困難だと判断。そこで最有力候補として浮上したのがモリサワの組版ソリューション「MC-B2」だった。

効率面で威力を発揮する「B2-WordIn」

 数式組版において「形」「フォント」「並び」のいずれをとっても違和感を拭いきれない中、同社がたどり着いたモリサワの「MC-B2」。活字、CTS時代に確立された同社の数式組版を再現するツールとして2008年に導入された。
 採用を決定づけた最大のポイントについて、小野副部長は「テンプレートを詳細に作り込め、登録、再利用できる点」と「和文と数式フォントのバランスなどを詳細に設定できる点」の2点を挙げている。
 また、Adobe InDesignのプラグインの場合、数式用の文字ブロックを作ってはめ込む、つまり本文と数式が別組みになるが、MC-B2の場合、本文と数式をひとつの組みとしてハンドリングできる点も大きなメリットだと説明する。
 「ページ送りなどを含め、多種多様な組版に対応するためには本文と数式が一体となったデータ構造でなければ運用は不可能です。そういった意味で電算写植の思想を受け継いだMC-B2だからこそ、我々が使えるツールとなっています。モリサワ様には敬意を表します」(水上常務)。
 一方、MC-B2のオペレーションを担当する制作部の野崎泰弘副課長は、Adobe InDesignとの比較において「タグでハンドリングできる点」と「脚注を自動組みできる点」を高く評価している。
 「電算写植のオペレーションに慣れた我々にとってタグでハンドリングできる点は大きなメリット。そこさえ解析すれば変更作業も比較的簡単なケースが多いです。また脚注については、Adobe InDesignだと別フレームを作ってはり込む、いわゆる手動の作業になりますが、MC-B2だとタグを入れて呼び出せば本文と一緒に自動で流れてくれます」(野崎副課長)
 さらに同社では、MC-B2のプラグイン「B2-WordIn」も生産性において威力を発揮しているという。同プラグインは、Wordデータを解析し、MC-B2上で組版加工が容易なデータに変換するソフト。スタイル・ルビなどの基本要素を自動生成でき、これまで再入力するしかなかった表組や数式も本文と連動するMC-B2テキストに変換するというものだ。「100%ではありませんが、ほぼMC-B2の数式に置き換えることができます。手入力することを考えれば飛躍的に作業性は向上。非常に便利な機能です」(野崎副課長)

受け継がれる伝統はデジタルの世界でも息づく

 制作全体の3割程度をカバーするMC-B2。学術書、経済書をはじめとする数式を含むすべての制作に加え、その他の文庫などでも活用されているという。それだけ数式以外の組版機能においても大きな信頼が寄せられていると言えるだろう。
 「立場上、現場から改良の要望が上がってきます。それを受け入れ開発に反映してくれるモリサワ様には感謝です」(小野副部長)
 電子書籍においてもモリサワのMCBookを活用した取り組みを開始している同社。ここでもやはり数式が課題となっている。「この部分でも改良を要請していますが、この電子書籍上での数式の課題が克服できれば、当社にとって大きな強みになることは間違いありません」(小野副部長)
 今後はMC-B2を使ったデータベース連動の自動組版にもチャレンジしたいとする同社。活字時代から脈々と受け継がれる伝統「文字へのこだわり」は、いまもデジタルの世界で息づいている。