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躍進企業REPORT

小学館:アプリ展開は「電子書籍の豪華版」、よりリッチ化へ

印刷ジャーナル 2011年4月15日
ネット戦略室 ビジネス開発室 課長 槙田美規氏
ネット戦略室 山本春秋氏
電子書籍という選択肢が広がったことで、紙ベースの書籍との相乗効果、あるいは読書人口の拡大に期待が寄せられている。
LiLiy さんが執筆している書斎で撮影された本人の動画メッセージを収録
ビューア色はブラックに加え、ホットピンク、ストロベリーレッド、ミッドナイトブルーなど12 種類、またスライダーアイコンはラインストーン、パール、ハートの形など8 種類が用意され、読者はその時の気分や好みに合わせたカラーリングを楽しめる。

 大手総合出版社の(株)小学館は昨年11月、App Storeで販売する同社初の文芸ジャンルのテキスト系アプリ「こぼれそうな唇」(LiLy著)をリリース。読者対象となる若い女性向けに様々な「仕掛け」が盛り込まれたこの電子書籍アプリのソリューションとしてMCBookが採用されている。

 小学館では1996年頃からコンテンツの電子化に着手。1998年には電子書籍コンソーシアムの発足に参画するなど、業界における電子書籍ビジネスの黎明期を牽引してきた。現在、電子書店向けに1,000タイトル以上の文芸・ライトノベル作品、1,500タイトル以上のコミック作品を配信している。
 一方、2008年11月からはApp Storeを通じたiPhoneアプリの販売を開始し、現在は国語辞書アプリ「デジタル大辞泉」を中心に、辞書系やコミック系など、20タイトル以上のアプリを配信。そして昨年11月、App Storeで販売する同社初の文芸ジャンルのテキスト系アプリ「こぼれそうな唇」(LiLy著)をリリース。紙の書籍との同時発売を実現したこのエポックメーキングを支えたのがモリサワの電子書籍ソリューション「MCBook」である。

制作環境のスキルレス化を実現

 同社では一昨年7月、それまでメディアセクション毎の編集局が手がけていたデジタル関連事業のより効率的な運用を目指し「ネット戦略室」という部署を新設。まさに全社のデジタル事業における司令塔的役割を担い、なかでも今後の中核事業と位置づけているのが電子書籍ビジネスだ。
 ネット戦略室の山本春秋氏は、「iPadをはじめとするデバイスの登場が火付け役となり『電子書籍元年』と称された昨年、社会(顧客)の認識、捉え方が大きく変わった。この分野で長い歴史を誇る当社でも、その変化に対応する取り組みを加速させているのが現状」と語る。
 辞書系を中心に早くからiPhoneアプリへの展開を進めてきた小学館。そんな同社がテキスト系アプリのソリューションとして「MCBook」を採用した理由について、山本氏は「フォント環境」「組版エンジンの信頼性」「制作環境のスキルレス化」という3点をポイントに挙げている。
 「我々出版業界で慣れ親しんだモリサワフォントをスタンダードで使えるのは大きな魅力。またMCBookに採用されている高品質組版編集システムは、『MC-B2』で培ったノウハウを活かし、信頼性は実証済みで、とくにリフローした後の禁則処理が高速で行える点を高く評価した。さらに、なんと言っても制作のスキルレス化が我々にとって大きな魅力。これまでの経験で植え付けられた『アプリ開発には手間がかかる』という我々の認識を覆し、ソースとして印刷用のInDesignファイルを読み込ませ、ボタンをいくつかクリックするだけで、App Storeに提出できる形のビルドまで持ち込めるワークフローは、ツール選択の大きなポイントになった」(山本氏)
 運用面、クオリティ面の両方から総合的にベストソリューションと評価された「MCBook」。山本氏の「ぜひ使ってみたい」という思いにも後押しされる形で採用が決まり、新しいプロジェクトがスタートした。

読者ターゲットに合わせた「仕掛け」

 MCBookを採用した同社初の作品となったのが、新刊単行本「こぼれそうな唇」(LiLy著)。昨年11月にiPhone/iPad向け電子書籍アプリ(ユニバーサル版)として、紙の書籍と同時発売されている。この作品には、読者対象となる若い女性向けに様々な「仕掛け」が盛り込まれている。
 まず、ビューア色(背景と文字色の組み合わせ)やスライダーアイコンのデザインをユーザー側で選択できる。ビューア色はブラックに加え、ホットピンク、ストロベリーレッド、ミッドナイトブルーなど12種類、またスライダーアイコンはラインストーン、パール、ハートの形など8種類が用意され、読者はその時の気分や好みに合わせたカラーリングを楽しめるというわけだ。
 さらに、映画やドラマに主題歌があるように、今回、文芸作品にも主題歌が付いた。女性シンガー Sowelu(ソエル)さんが歌い、LiLyさんが作詞した本作の主題歌「こぼれそうな唇 feat.Mummy-D(RHYMESTER)」を1曲まるごと収録。書籍と音楽の融合で、よりその世界観を味わえる仕掛けとなっている他、著者からの動画メッセージムービーや特設サイトへのリンクなど、読書ライフを様々な角度から彩る仕掛けがふんだんに盛り込まれた、いわば「電子書籍の豪華版」として仕上がっている。
 ネット戦略室の槙田美規氏は、これらカスタマイズ機能について次のように語っている。
 「MCBookは『活字読み』のことを考えたハイクオリティなソリューションである。ただ、今回の作品の読者対象となる若い女性には『かわいい』『おしゃれ』といった要素が必要。作家もスタッフも当然のように求めた『あるべき機能』『なければ許さない機能』をモリサワに提示し、カスタマイズという形で実現できた」
 また山本氏も「パーツデザインなどビジュアルを含めての読者体験だと思う。今後も作品や読者ターゲットに合わせたカスタマイズが必要だと感じている」と語る。

紙の書籍との相乗効果に期待

 「ビジネスとしてはまだまだこれから」と語る槙田氏。ただ選択肢が広がったことで、紙ベースの書籍との相乗効果、あるいは読書人口の拡大に期待を寄せている。
 さらに槙田氏は、MCBookがデジタルコンテンツの世界で乱れつつある日本の文字文化を是正する「救世主」となることに期待しているという。「日本の文字文化をリードしてきたモリサワによる電子書籍ソリューションは出版社にとって心強い存在。これが普及することで、デジタルコンテンツ上でも日本の文字文化が正しく継承されることを願っている。出版社として今後も大切にしたい部分である」
 今後もアプリ展開は「豪華版」として位置づけ、インタラクティブな仕掛けやデバイスならではの表現機能を盛り込み、よりリッチ化させることで、電子書籍のひとつのセグメントとして育てていきたい考え。