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躍進企業REPORT

三進社:LED-UV印刷システム搭載世界1号機が本稼働

印刷ジャーナル 2009年7月15日
高倉三夫社長
RYOBI924

 軽印刷のDNAが実現するもの...「どこよりも版数をこなせる印刷会社」として知られる(株)三進社(本社/東京都品川区西五反田5-26-3、高倉三夫社長)はこのほど、リョービがdrupa2008で発表した「LED-UV印刷システム」を搭載したA全判4色印刷機「RYOBI924」を導入。LED-UV印刷システム搭載機としては世界第1号機で、今年6月1日から本稼働している。同機における利益創出戦略の軸足は従来からターゲットとしている「VSオンデマンド印刷」。版数勝負の小ロットカラーとユポ印刷による付加価値提供で新たな挑戦を開始した。
 同社の創業は昭和50年。東京都港区高輪の地で、軽印刷業として軽オフ1台からスタートした同社は、都内の多くの印刷業者の生産活動を支えることでその社歴を綴ってきた。
 「当時は寝る暇もなかった」と振り返るのは平成17年4月から同社の舵取り役をつとめる高倉三夫社長。創業メンバーのひとりで、現場主義を貫く二代目社長だ。
 同社が「寝る暇もない」くらいの仕事量を確保できたのは、版数勝負の軽印刷スピリットが根付いていたからだ。ピンクマスター+リョービ製A3タテ通し両面印刷機を武器に、莫大な版数をこなす生産体制を構築し、平成8年頃には年間120万版という処理版数日本一の快挙を成し遂げた逸話も残っている。
 「5,000頁を2日で」。そんな要望に応えられる会社はそう多くない。つまりそんな仕事は自然と同社に集まってくる。高倉社長は、「頁数をこなせるシステムの構築は、生産工場内の各工程を細分化し完全分担制で流れ作業にすることで実現できる。また、印刷機上では位置合わせをせず、刷版の段階で調整することで、機械が止まらない仕組みができる。そうすると文字物の印刷は安定する」と版数勝負の舞台裏を紹介してくれた。
 平成9年にはカラー印刷を手掛ける印刷会社を買収。自社設備として菊半裁4色印刷機を導入し、カラー印刷市場に足を踏み入れ、後に本格的に製本工場を立ち上げ、製本工程の内製化も図ることになる。
 同社の変革はそれだけでは終わらない。平成17年に社長に就任した高倉社長は、点在していた生産拠点の集約を図るため、土地取得に動き出すが、そこで菊全判4色機を2台持つ印刷会社が売りに出ていることを知り、即買い取りを決める。これが奇しくも亡くなった先代の夢「菊全判市場への参入」を実現することになる。
 それでは菊全判市場で、どこに利益創出戦略の軸足を置いたのか。その応えは菊半裁市場参入時と同様、「VSオンデマンド印刷」であったという。
 「いずれ菊半裁サイズまではオンデマンド印刷機の守備範囲になるだろう。それならば菊全判でできる小ロット印刷というコンセプトで、追随を許さないビジネスモデルを構築すれば、『競争』の蚊帳の外にいれるはずだと考えた」と高倉社長は振り返る。
 この発想、そしてこれを実行できる最大の鍵は、やはり軽印刷で培ったDNA「スピード」があったからだ。「単純に、全判なら半裁よりも版数が半分、印刷時間も半分になる。これを1万2,000枚/時間でするよりも、4ジョブ/時間をこなす方が粗利は高くなる」(高倉社長)

  ◇ ◇

 「どこよりも版数をこなせる印刷会社」。そんなイメージが定着した同社には迷いはなかった。「VSオンデマンド印刷」というビジネスをもっと加速させるツールとして、リョービがdrupa2008で発表した「LED-UV印刷システム」を搭載したA全判4色印刷機「RYOBI924」を導入。今年6月1日から本稼働している。LED-UV印刷システム搭載機としては世界第1号機だ。
 「LED-UV印刷システム」は、リョービが枚葉オフセット印刷機メーカーとして世界で始めて開発に成功した新しいUV印刷システム。UV(紫外線)硬化には従来のランプ方式に替わって、長寿命、低消費電力のLED方式を採用しており、環境負荷の低減が課題となっている印刷業界において、次世代のUV印刷システムとして期待されている。その特徴は以下の通り。
▽消費電力が70~80%少なくてすみ、電気代が削減できる(B2判機の場合、CO2換算で約86・6トン/年、森林面積で約6・8ha/年の環境負荷の軽減に相当)。
▽光源が長寿命で交換頻度を大幅に減らすことができる(対ランプ方式比較15倍)
▽オゾン発生がなく、環境にやさしい。また、換気のためのダクト工事が不要。
▽赤外線を含まないので印刷資材や印刷機への熱影響が抑えられる。
▽瞬時に点灯、消灯でき、乾燥装置に依存する待ち時間が発生しない。
▽用紙幅に合わせた照射幅の制御が可能で、LEDの効果的な運用が行なえる。
▽LED直下でも常温を維持しており、安全性が高い。
▽コンパクトな制御キャビネットで省スペース設置が図れる。

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 速乾性を武器にするUV印刷に対して、スピードを追求してきた同社は注目してこなかったわけではない。「やはり匂いと消費電力の問題で都心への導入はハードルが高かった」と高倉社長。一方で、印刷現場では、裏移りVSパウダー量というジレンマも抱えていた。「これでは現場がかわいそうだなあ」と思っていた矢先のこと、リョービがdrupa2008でLED-UV印刷システムを発表することを知る。
 drupaには見学にいかなかったものの、その後、リョービ広島東工場で行なわれた内覧会に出向いたが、その段階では「実用化はまだ先になる」と判断。ただ興味は増したという。
 そして今年のリョービ新春ショー。インキの改良が進んだことから「実用化のレベル」と評価を切り替えた。
 「RYOBI924自体については、既に200台以上の納入実績があると聞いていたので心配はなかった。やはり焦点となったのはランプによる硬化の質だった。ただ最悪、油性でも使えるという考えが頭の隅にあったので、導入にはためらいはなかった」(高倉社長)
 「何よりも現場が楽になった」と評価する現場主義の高倉社長。従来の匂い、消費電力といったUV印刷の課題、そして裏移りVSパウダー量という社内の課題を一気に克服した「速乾性」という武器を手に入れ、ひいては、擦れ、キズといった印刷トラブルからも解放され、オペレータのモチベーションも向上しているという。また、高倉社長は「結果的に」と話すが、LEDは瞬時に点灯、消灯でき、乾燥装置に依存する待ち時間が発生しないため、同社の真骨頂「スピード」に拍車をかける結果となっている。さらに同機は製本工場に設置されているため、印刷後、即後加工というメリットも導き出している。
 一方、これまで課題とされていたインキについて高倉社長の評価を聞いてみた。
 「品質的には何ら問題はない。技術は必ず進歩するし、当社ではDICのインキを使用しているが、対応も早く、LED-UVインキへの熱の入れようも感じている。価格面については、これまでの当社の課題克服、速乾性を考慮すれば相殺できる範囲だと思うが、もちろん低価格に超したことはない。期待している」と語る。

  ◇ ◇

 全体の9割以上が同業者の仕事だという同社。「オンデマンド印刷の料金で、質の高いオフセット印刷が可能!」というキャッチフレーズで価格表を配布するなど、周知に努めている。また、現在、LED-UV印刷システムによるユポ印刷を大々的にアピール。「いずれの商材についても、LED-UV印刷システムをクライアントにアピールしていただき、営業ツールとして活用してほしい」(高倉社長)