PJweb news

印刷産業のトレンドを捉える印刷業界専門紙【印刷ジャーナル】のニュース配信サイト:PJ web news|印刷時報株式会社

トップ > 躍進企業REPORT > 顧客にとってプラスになるWeb to Printの仕組み提供
躍進企業REPORT

創基:顧客にとってプラスになるWeb to Printの仕組み提供

印刷ジャーナル 2009年3月25日
権田社長
ネクスプレスS3000
ネクスグロッサー

 「創造の基である。」--デジタルメディア制作会社の(株)創基(東京都千代田区永田町2-4-11、権田了悟社長)は、デジタル印刷ビジネス創成期の2003年、コダックのデジタル印刷機「ネクスプレス2100」を導入。以来Web to Printを活用したデジタル印刷ビジネスで多くの実績を誇る。昨年10月には新たな戦略機「ネクスプレスS3000」を導入。デジタル印刷ビジネスにおける利益創出戦略の軸足を「ボリュームの追求」に置き、新たな挑戦に乗り出している。

 同社の創業は1976年。写植業として産声をあげた同社は、社名の通り、「創造」の「基」を大切に育む一方、常に新機軸への挑戦により幾重もの変革を実践することで自社の歴史を綴り、現在では「プランニング」「プリンティング」事業を軸とするデジタルメディア制作会社へと大きな成長を遂げている。
 その幾重の変革を遂げる中で、同社にとってひとつのターニングポイントとなったのが、デジタル印刷ビジネスへの参入だ。国内1号機となるコダックのデジタル印刷機「ネクスプレス2100」を導入し、新機軸への挑戦を開始したのが2003年のことである。
 権田社長は当時を次のように振り返る。
 「いずれ中間工程だけのビジネスでは難しい時代が来るだろうと考えていた。『最終成果物を作れるようにならなければ...』との思いから、印刷事業への参入を考えたが、オフセット印刷市場への参入は、その時点で当社の力では難しいと考えた。例えば、菊半裁4色機を導入してスタートしても、納期や価格を考えると、当然全判や8色機などの大型機が必要になってくる。それでは当社の資金力、営業力では勝ち目がない。そこで、まだ未整備だったデジタル印刷市場へ参入した」
 権田社長は、7年前の米国視察の際にネクスプレスユーザーを見学していたことから、同機を中心にデジタル印刷機の調査に乗り出し、機種選定に向けて動き出した。もちろん当時、その選択肢はE-Print、ゼロックス、クロマプレス...。そう多くはなかった。
 「あくまで当時の話だが、クロマプレスはロール紙で両面を一度に印刷できるが、用紙の『種類』と『交換』を必要とするものには向いていないと考えた。ゼロックスはカラーコピーとしての歴史と経験があり良い機械だが、両面印刷時の表裏の見当精度に難があったと記憶している。一方、E-Printは、用紙に事前コーティングが必要で、両面同時印刷ができなかったため、工数がかかってしまうと考えた。結果として枚葉印刷で両面印刷時の見当精度が比較的良く、ロングランにも対応できそうな作りであったネクスプレスを選択した」(権田社長)

  ◇ ◇

 表裏の見当精度と生産機としての堅牢性を備えた戦略デバイス「ネクスプレス」を手にした同社は、その運用の軸足をWeb to Printをはじめとしたインターネット活用に置いた。
 その最初の取り組みとなったのが、DPEショップとの提携による写真集の制作である。ただ当時はパーソナル写真集自体の認識も低かったことから、需要はそんなに多くなかったという。さらにDPEショップ側のマージン設定が高いことや、一方でユーザーから支給される写真品質も不安定なものが多く、「それを補正し、美しく仕上げるのがプロ?」と言われてしまう始末。競争相手は少なかったものの、その時点では、ひとつのビジネスとしては成立しなかった。「昨今のヨーロッパでは一日1,000冊以上の写真集を制作するという会社もあるが、品質・校正はユーザー側の責任として明確にしている。日本にはそんな風土はない。これはWeb to Printという新しいビジネスモデルに従来の『過剰サービス』という習慣を持ち込んでしまった印刷業界にも責任があるのではないだろうか」(権田社長)
 そこで自社の仕組みとして構築したのがオンライン印刷・製本サービス「スッチャオ」だ。誰もが簡単に写真集やポストカード・カレンダーなどのデザインができ、数日後にはハイクオリティな印刷物となって、手元に届くというサービス。そこに付加したのは、まるでデザイナーや雑誌の編集者になったような感覚で、好きなようにレイアウトができ、しかも簡単にできるという仕組みだ。
 さらにその経験を生かして立ち上げたのが、一般向けの印刷ネット通販「ショウスグ」である。文字通り少(ショウ)部数をターゲットに即(スグ)納するというビジネスモデル。デザインからも手掛ける印刷ネット通販として定着している。

  ◇ ◇

 デジタル印刷ビジネス創成期に様々な苦労と失敗を重ねてきたという権田社長。その経験がベースとなるデジタル印刷ビジネスに新たな援軍を迎えたのは昨年10月のこと。試行錯誤のデジタル印刷ビジネスを支えてきた「ネクスプレス2100」が引退。新たに最新鋭機「ネクスプレスS3000」がその後を受け継いだ。
 そのひとつの狙いとして生産性の向上がある。同社のデジタル印刷ビジネスの利益創出戦略の軸足は、現在「ボリュームの追求」にある。これも長年の経験から行き着いた答えなのだろう。
 「多品種・小ロットでカウンターを稼ぐ」。そんな形でボリュームを追求する同社にとって、A4を3,000枚(両面で6,000頁)/時で印刷するS3000は強い見方になる。
 それを支えるのもやはりインターネットを活用したものになる。同社では、多品種・小ロットの需要を幅広くキャッチアップするために、はじめて印刷会社向けのビジネスとして印刷ネット通販「1000Made」を立ち上げ、同業者にネクスプレスS3000の利用を呼びかけている。同サービスは、1,000部MA(ま)DE(で)と、1,000部メイド(=作る)、そして、「鮮明度がある」の意味からネーミングされたもの。一般向けの「ショウスグ」より低い価格設定の同サービスでは、デジタル印刷の活用事例を紹介する冊子を営業ツールとして有償(300円)で提供。そこにはユーザー企業データが店名差し替えのように印刷され、ユーザーはそのまま自社の販促ツールとして使用できるという工夫が施されている。
 一方、新たな戦略機には第5ユニットソリューションとして特色の「赤」が選択されている。これはオレンジ系の色や金赤のような色を必要とする印刷物を想定したもので、とくにオレンジ系の色再現は難しいため、この5色により差別化できるという判断からだ。
 さらにグロッサーによる光沢加工も付加されている。これはサプライズ的な狙いもある。権田社長は、「この光沢感は他の機種では出ない。併せて『透かし』のような表現もできるので、利用範囲は広い」と評価するとともに「顧客の購買意欲を刺激できれば...」と期待を語る。
 「近年はとくにオフセット印刷の料金が下がってきているため、デジタル印刷の市場が『価格要素』だけで見ると狭くなってきている。その反面、顧客は従来できなかった少部数の印刷ができることを認識しはじめ、その市場が拡大しているのも事実だ。3~5年もすれば、1枚単価が低い高速なインクジェット方式のデジタル印刷デバイスが登場するだろう。現在の設備は、それまでの段階的なものに過ぎない。そんな観点からも、インクジェット技術で40年の歴史を持つメーカー『コダック』の将来性に期待している部分が大きい」(権田社長)

  ◇ ◇

 「Web to Printのビジネスやネットワークを利用するビジネスモデルは、新しいことを行なうため、自社のシステムを押しつける形ではなく、お客様の理解が必要になってくる。そこでは、如何にお客様にとってプラスになるシステムを提供できるかが鍵」と語る権田社長。それを形にしたひとつの例が、「STM(Souki Team Works)」である。従来ビジネスにおいて出版社や広告代理店といったクライアントを抱える同社では、コダックのウェブポータルソリューション「チームワークス(現在の製品名は、インサイト クリエイティブ)」を使用し、データの入出稿を中心として運用している。これはインターネットを利用してデータの受け渡し、デザインの確認、校正や承認作業などをオンラインで行なえるシステムで、クライアントの利用メリットも非常に大きい。同社としては営業支援システムとして、省力化、人件費削減、制作の短納期化に貢献するものだ。128頁の雑誌を顧客と一度も顔を合わさずに下版して印刷・配本を行なっている。
 また、Web to Printの今後の可能性について権田社長は次のように語っている。
 「何をもって『Web to Print』とするのかの定義は定かではないが『Webを利用して印刷物を作る』という仕組みは発展していくと考える。ここに一番必要なのは、ビジネスのアイディアだと思う。印刷物を作成することと併せて、デジタルアセットを行なう、販売促進を行なうなど、印刷物の制作だけでない要素を含めたシステムが必要だろう。単にデータを送受信することを『Web to Print』とは言いたくないわけだ。
 インターネットの通信容量、無線を含めた通信方式もさらに進歩していく。併せてデジタル印刷機も進歩していくので、これらのインフラとデバイスをどのように自社のビジネスに活用するかが、印刷関連業者のすべきことだと考える。他の業界からもこのようなビジネスに「進入(侵入)」してくることが予想されるため、我々も販促やマーケティングなどの知識を得て、Web to Printを活用した新事業を進めたいと考えている」