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 現像レスプレート「アズーラTS」のフラットサブストレートと呼ばれる、浅くて細かな砂目構造を活かした速乾印刷への取り組みで、大きな成果を挙げた日本アグフア・ゲバルト(株)。今年はさらに人員の大幅な増強を図ることで、印刷会社の経営改善を強力にサポートしていく姿勢を明確に打ち出している。今回、「速乾印刷の訴求は、我々がやるべき仕事である」と断言する松石浩行社長にインタビューし、その背景や効果、2013年の展開について聞いた。

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アズーラTSによる速乾印刷技術が印刷経営を革新する

日本アグフア・ゲバルト 松石浩行社長に聞く

印刷ジャーナル 2013年1月1日号掲載

松石浩行社長
速乾印刷の促進によりグループNo.1の伸びを示した日本市場

 「印刷市場」についてワールドワイドという視点では、現在もまだまだ伸びている。ただ日本を含む先進国だけを見ると、発展途上国と事情は異なり、印刷物の総出荷額は伸び悩み、減少傾向にあることは言うまでもない。しかし、その一方で、プリプレス分野は多品種小ロット化の進展に伴い忙しくなっている。この「多品種化」×「総出荷量減少」という傾向は、引き続き印刷会社の経営を圧迫することになるだろう。それだけに、プリプレス分野を担う我々の責任の重さを痛感している。
 この多品種小ロット化の流れを受けて、我々のコアビジネスであるCTPプレートの出荷量は、先進国でさえも、印刷出荷量減少の流れに反し、堅調に推移している。とくに米国市場では、アグフアは、2年前のピットマン社(印刷機材商社最大手)買収の効果もあって、CTPプレートのシェアは大きく伸張している。
 特筆すべきは、先進各国のアグフアグループの中で、最も大きな成長率を示したのがここ日本であること。我々が昨年から取り組んでいる「アズーラTSによる速乾印刷」が大きな反響を呼び、大手の印刷会社を含む多数の新規ユーザーにおいて、アグフアのCTPプレートに切り替えて頂いた。
 アズーラTSによる速乾印刷への取り組みは、日本アグフアと、(株)東京テックプラスの加藤隆行社長との出会いに始まる。約25年前から「乾燥印刷法」を実践し、その技術指導を手掛けていた加藤社長から、「水が絞れるアズーラTSに私の速乾印刷技術のコンサルティングをプラスすれば油性インキでの最善の速乾印刷ができる」という話を伺ったのが事の発端である。正直、私自身も半信半疑だったが、実際にユーザーの印刷現場で3分間速乾印刷を目の当たりにして驚いた。短納期に苦しむ印刷会社が多い中で、早急に取り組む必要性を痛感し、直ちに加藤先生の協力の下、日本アグフアとして去年の4月より大々的な取り組みを開始した。そして、わずか半年の期間であるが、およそ10社、合計約30台のカラーオフセット機で速乾印刷が立ち上がっている。
 日本アグフアがサポートしている速乾印刷は新たな設備投資を必要とせず、費用は加藤社長のコンサルティング料だけなのが特徴。それだけでUV印刷並みの速乾を油性印刷で実現し、短納期、品質向上、ヤレ紙・インキ削減による大幅なコストダウンを達成する。とくにヤレ紙は、前記10社の実績からすると、半分から4分の1に減少した。また、なによりも、どのメーカーの印刷機でもたった2日間で速乾印刷を立ち上げてしまうところがすごい。あとはユーザー側による簡単なメンテナンスで運用を継続できる。

オフセット印刷の基本に戻る

 「アズーラが速乾印刷に適している」。この理由はフラットサブストレートと呼んでいる砂目の特長にある。浅くて細かな均一の砂目構造により水を絞れ、適正な水量・インキ量で印刷でき、油性インキでの速乾印刷を実現できるというわけだ。
 ただ単に印刷し易くするためには、水を多く出して汚れないようにすれば良い。汚れなければ結果として印刷ができてしまう。つまり「誰でも印刷できてしまうプレート」は砂目を深くし、水幅を広げれば済む。
 しかし、本来は水とインキを絞るのがオフセット印刷の原則であることは誰もが知っていること。乳化を最大限に抑えて印刷すれば、ドライダウンも減り、網点も美しくなり、彩度も上がる。当然の理論だ。であるのに、残念ながら今は「誰でもできる」ということが最優先されているように思えてならない。
 以前、砂目が深いプレートに対してアズーラTSは「刷りにくい、汚れが出やすい」と言われたことがある。それは印刷機が本来持っている能力を出せていないからではないだろうか。この部分で、我々と加藤社長の理論が一致した。「水を絞ってインキを絞る。そのために本来あるべき印刷機の姿に仕立て直さないといけない」。つまり、オフセット印刷の基本に戻った結果、速乾印刷が実現できたわけである。
 ただ、私もそうであったように、最初は誰も信用しない。そこで多くの方に印刷実演まで見ていただけるオープンハウスを開催することにした。「百聞は一見にしかず」である。
 一例を挙げよう。我々のユーザーである九州のお客様は、もともと営業は強かったものの、たとえ4色印刷であっても、品質要求の高い仕事は外注。つまり利益の出る仕事を協力会社に出していた。「これでは利益が上がらない」ということで、アグフア社のCTPとプレートへの入れ替えをきっかけに社長から相談を受け、速乾印刷による経営改善にチャレンジした。
 CTPセッター・プレートの入れ替えから印刷機の診断、印刷技術の改善までのすべてをわずか1週間で立ち上げた。結果、水を絞れたことで品質が上がり、印刷現場が自信を持つことで会社全体に活気が出たほか、営業もすべての印刷が内製化できることを喜んだ。ヤレ紙も大幅に減り利益率も大幅に改善。経営自体が革新され、社長・社員全員に喜んでもらえる結果となった。
 こうした、日本アグフアと加藤先生によるコンサルティングの反響は予想外に大きく、1、2、3月はすべて埋まっている状態。また、枚葉だけでなく、オフ輪のユーザーからも速乾技術への要望が強いので、今年は加藤社長とともにオフ輪の速乾印刷にも取り組んでいきたい。2013年度は、日本アグフアによる速乾印刷技術の普及は間違いなく加速度を上げていく。加藤先生と我々のこの取り組みは、UV印刷機を販売している印刷機メーカーの販売姿勢をも改めさせるかも知れない。それほど大きなインパクトを市場に与えている。

「無駄だと思っていなかった」ところに大きな無駄がある

​ 多くのメリットをもたらす速乾印刷だが、とくに経費的にインパクトが大きいのは、ヤレ紙の大幅な減少だ。大体、多いところだと1色で100枚くらいのヤレを出している。全判だと1枚10円程度するだろう。それが1/4程度に減る(1色20枚でOKシート)。4色機の場合、400枚で4,000円の紙を捨てていたものが、1,000円未満で済むので、1ジョブで3,000円以上節約できるという計算になる。1日10台の仕事で3万円、小ロット専門なら20台として1日当たり6万円のお金が浮くことになる。
 また、水を絞るためタックが減り、印刷機のスピードを上げられるというメリットも見逃せない。例えば最高1万2,000枚/時の印刷機でも、通常7,000〜8,000枚/時で印刷しているケースが多い。これはタックが問題だからである。そのタックを大幅に減らせるため、本来印刷機の持つ能力を最大限に使えるようになる。印刷スピードを8,000枚/時から1万2,000枚/時に引き上げると、1台の印刷機が1.5倍の能力を持つことになる。これは大きな経営改善に繋がる。もちろん、社員の残業時間も軽減できる。
 短納期は当然のこととして、この2つのコスト削減効果は大きい。もちろん会社全体のモチベーションアップにも大きな効果がある。
 いま、印刷会社で重要なのは、「無駄だ」と思っていなかった無駄がたくさんあることに気付くこと。1色100枚のヤレが「当たり前だ」と思っている会社が「利益が出ない」と困っているわけである。印刷会社は、まだ社内に宝の山が眠っていることに気付くことが重要ではないだろうか。
 印刷業界の中で、最も合理化を徹底的に追求しているのがネット印刷通販である。これを単なる安売りの印刷会社だと片付けてはいけない。従来よりも圧倒的な低価格・短納期で、しかも大きな利益を出していることは事実なのである。格段に無駄が少ないのである。これは逆に考えると、まだまだ通常の印刷会社にとっては、多くの改善点、言い換えると大きな希望があるということだ。

メーカーは、印刷業界に無駄な投資をさせて疲弊させてはいけない

 私は、印刷機メーカーやプレートメーカーが、もっと油性インキによる速乾印刷に取り組むべきだと考えている。「油性インキで速乾印刷なんてやってもらっては困る」「UV機が売れなくなる」。我々にはそんな声も聞こえてくる。新しい設備を印刷会社に買わせることだけが印刷業界を良くするわけではない。我々は、印刷会社に、「まだまだデジタル印刷には負けないよ」「オフセット印刷にはインターネットにない魅力があるんだよ」という自信を与え、エンドユーザー(クライアント)に、良いものを安く提供できるような提案をしないといけない。あらゆるコストをトータルに下げて、利益を上げていただく。その手法が、現実にあることを啓蒙しなくてはならない。

大幅な人員増強へ

 速乾印刷技術確立には、毎日、10〜15分程度の印刷機のメンテナンスが重要なのだが、現在の印刷会社は、印刷機の日々のメンテナンスをほとんど行っていない。メンテナンスをメーカーや他人任せにしている会社は非常に多い。「自分達はメンテンスなどしなくていい」と思っているからだ。例えば、インキ洗浄は自動、水は汚れたら入れ替える、ローラーは1年に1回交換する。これがメンテナンスだと思っている。速乾印刷は、アグフアのプレートさえあれば、毎日10〜15分程度の印刷機のメンテナンスさえ行えばできるのである。
 正直言うと、ほとんどの印刷現場は前近代的工場だと言える。自動車や電機業界では、既に40年近く前にファクトリーオートメーション、いわゆるFA化を成し遂げている。それに比べ、印刷工場はFAとはほど遠く、未だにアナログ工場そのものと言えるからだ。
 良い例がCIP3である。これほどインキ供給を正確に捉えている世界標準のデジタルデータはないにも関わらず、これを使わず、インキつぼをアナログ的に触っているオペレータやそれを許している印刷会社が実に多い。なぜ、CIP3が未だに多くのユーザーで使われていないのか?その理由はCIP3より人間の勘を信じてしまう印刷業界の古い体質にある。
 FAの世界では、プリプレス分野はCADにあたる重要なもの。CADはCAMを正確に稼動させるためのデジタルデータ作成マシンだ。印刷業界では印刷機がCAMにあたる。となるとCAMである印刷機はCADのデータ、即ちCIP3を使うことが当たり前なはずだ。それで、初めて印刷工場のFA化ができるのだ。しかし、現実の多くの印刷会社では、CADを持っていながらCADデータを使わずに、勘と経験で印刷機を動かしているのである。今後はCIP3のような最適な数値管理により、印刷工場のFA化を推進しなければならない。
 速乾印刷への取り組みは、一般的には、我々プリプレスメーカーがやるべき仕事ではないと思われるかもしれないが、私は、我々がやるべき最も重要な仕事だと強く思っている。
 そこで当社では昨年末、営業・マーケティング・コンサルティング関連の人員を大幅に増員し、倍増させることを発表した。今年は、それを確実に実行して行く覚悟だ。

アグフアから目が離せない年に

 現在、アズーラTSの耐刷は当社スペックで10万枚。オフ輪や一部枚葉ユーザーから、1.5〜2倍程度に対刷を増やして欲しい、という要望が出ている。なんとか今年中に実現したいと考えている。
 一方、ワークフローでは、最近注目を集めているギャンギング機能を搭載したアポジーの新バージョンをリリースする。これは昨年のdrupaで発表したものだが、国内ではpage2013からのリリースを予定している。
 ギャンギング機能への要望は非常に多く、これは多品種小ロット化の流れに対応するものとして世界的な傾向でもある。オフセット悲観論者の中には、すべての小ロットはデジタル印刷に移行してしまうという声も聞かれるが、誤解して欲しくないのは、デジタル印刷が選ばれる理由は、「オフセットでは対応できない極小ロットや可変情報印刷」であり、決して通常のオフセット印刷がデジタル印刷に食われているわけではないということである。ギャンギングは、オフセット印刷の小ロット対応を促進するもので、例えば、デジタル印刷機を数台並べて小ロットに特化している会社が、ギャンギングの進展によってデジタル印刷機の代わりに、オフセット印刷機1台に置き換えられる可能性もある。そんな時代が来るかもしれない。
 さらに我々は今後、大判インクジェット分野にも注力していく。現在、ワールドワイドでアグフアはインクジェットメーカーとしては3番目に位置するが、今年は2番手になるだろう。その主力となる3×5mサイズのJeti(ジェットアイ)は、日本国内では1番手を争うまでになっている。インクのOEMビジネスを含め、こちらの事業も拡大させていきたい。
 また、新聞業界へのアズーラTS拡販も視野に入れている。新聞社こそ、率先して環境対応するべきであるし、徐々にその風潮も大きくなってきている。現在問い合わせも多く、現像レスプレートへの気運も高まっている。
 これら複合的なソリューションを展開し、2013年は「アグフアから目が離せない年」にしたい。