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 コダックジャパン(藤原浩社長)では、アフターコロナ/Withコロナという特殊な経営環境に対して、無処理版「SONORAプレート」によるコスト構造改善やインクジェット技術による印刷物の付加価値創造など、印刷業界の「ニューノーマル」に向けたソリューション展開の方向性を打ち出している。一方、藤原社長は、コロナ禍におけるITリテラシー向上の必要性も訴え、そのサポートにおいてもコダックの存在価値を強調している。そこで今回、2021年の幕開けに際し、藤原社長にインタビューし、業界への提言と、それに適応するコダックのソリューションなどについて聞いた。

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コスト構造改善と印刷物の付加価値創造を支援|コダックジャパン 藤原浩社長に聞く

SONORA採用650社超〜 「ニューノーマル」ソリューション展開

印刷ジャーナル 2021年1月1日号掲載

藤原 社長


SONORA、インクジェット分野が堅調


 新型コロナウイルス感染症拡大は、私たちの生活やビジネスのあり方に大きな変化をもたらし、現在も大変な状況が続いている。未だ出口が見えず閉塞感が漂うコロナ禍において、我々のお客様は雇用を守り、利益を上げていくための努力を重ねている。

 コロナ禍における業界の状況を振り返ると、最悪期の5月の売上はほぼ半減し、その後、直近では7〜8割までビジネスが戻ってきていると感じている。昨年末には欧米でのワクチン緊急使用許可というニュースが飛び込んできたものの、未だ第3波の終息が見えず、今後も予断を許さない状況にある。我々は、もしかすると8割くらいの戻りをピークとした新たなビジネスモデルを組み直さないと、これ以上のリカバリーは難しいのかもしれないとさえ感じている。

 当社のビジネスも、もちろんお客様と同じ枠の中にあり、大きく影響を受けていくことになる。その中で我々は、お客様の次の一手、あるいは現状のコストダウンに貢献できるようなソリューション展開に注力してきた。昨年は消耗品全体の需要が落ち込んだわけだが、その中でもSONORAプレートのビジネスは、コストダウンをはじめ、経営・労働・自然という3つの環境への適正がコロナ禍の要請にミートし、堅調に推移した。

 数字で言うと、年初における出荷ベースでの無処理版の割合は3割程度からスタートし、昨年末には5割近くを占めるまでになっている。業界に認知され、浸透し、今年はメインストリームになってくるという手応えを感じている。

 一方、機器販売は、当然ながらコロナが投資意欲を削いでいる、あるいは決定を後延ばしにしている状況だ。しかし、その中でもアフターコロナを見据えた投資として堅調に推移したのがインクジェットビジネスである。とくに、開催延期となったdrupa2020に合わせて昨年6月に発表した、ULTRASTREAMインクジェット技術を採用した初のコダック製印刷機「PROSPER ULTRA 520プレス」への引き合いが増えており、その第1号機を日本で受注している。今年5月頃の稼働開始をメドに準備を進めているところである。また、PROSPER6000プレスにおいても既設ユーザーから2台目の発注をいただき、昨年末に設置を終えている。さらに、世界1号機として(株)金羊社(本社/東京都大田区)に納入した軟包装向け水性インクジェットプレス「UTECO Sapphire EVO プレス」も本格稼働に入っている。これら一連のインクジェットビジネスは当社にとっても大きな柱になりつつある。

PROSPER ULTRA 520プレス

 一方、コロナ禍における「非接触での合理化」を目指す意味で、ワークフロー「PRINERGY」やWebポータルソリューション「INSITE」への引き合いも多くなっている。PRINERGYにおいては、いくつかのユーザーでクラウドソリューションも稼働している。

 drupaの延期、中止により販促の機会を失ったのは残念だが、それでお客様の投資意欲が減退するわけではない。コダックは常に上市可能な製品をdrupaで発表してきた。今回もすでにdrupaで発表予定だった製品は市場投入され、日本国内でのプロモーションも徐々に開始している。


「DX」をトップダウンで


 印刷産業は、残念ながらIT化が遅れている産業だと言わざるを得ない。私は、ERP(Enterprise Resource Planning/統合業務パッケージ)で世界トップを誇るSAP社の日本法人でCOOをつとめた経験がある。当時から日本にはERPが適用しにくい特殊な産業がいくつかあり、それは建築、病院、そして印刷である。ただ、さすがにこのコロナ禍において事情は変わってくるだろう。この機を逃すと本当に遅れてしまうという危惧もあることから、印刷業界も本気でDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組もうとしている。

 「DX」というと大げさになるが、要はITをうまく活用してビジネスを動かす、それだけの話だ。ただ、それを牽引するリーダーシップの欠如、人材育成の不備など、印刷業界には様々な課題がある。コロナがもたらした「変化」は、これら課題を解決する絶好のチャンスになるはずである。そして、DXは経営者が判断し、トップダウンで進めなければ実現は難しい。これは明白な「セオリー」である。

 さらに、経営者目線として「設備の適正化」という点にもっと問題意識を持つべきである。現在、印刷業の設備稼働率の平均は3割台だと言われており、それを動かす人の稼働率も低い。そこに「メスを入れないといけない」ということを真剣に考えている経営者が少ないように思う。

 例えば、SONORAへの投資についてもその傾向が見て取れる。SONORA採用には付帯する投資がほとんど不要で、印刷機の整備や調整は必要なものの、その運用のルーティーンはすでに確立されている。そこまで成熟されつつある技術に対し、テストさえ試みない経営者が多くいる。私はこれが不思議でならない。追加投資なしで現場が楽になり、コストも下がる。どこにテストさえしない理由があるのか。IT投資も同じことである。そこに踏み切らないという選択肢はないはずである。

 製品として我々コダックが直接的にDXに関わることができるのはワークフロー関連になるだろう。その引き合いは顕著に増えており、自動化をはじめ、コロナ禍におけるリモート環境の整備やセキュリティーの観点からクラウド化へのニーズも増えつつある。前述の通り、DXとはIT化である。コダックとしてもIT分野におけるサポート力、製品力は高めていく方向にあることは間違いない。


7つの提言


 私は、印刷業界には7つの視点、改革が必要だと考えている。

 まずひとつは、世代交代の促進である。やはりIT化への道のりにおいてここが障害になってくる。IT化、DXを進めるにあたって、人材における世代ポートフォリオの改革は不可欠である。

 2つ目が、ITリテラシーを植え付けるための教育、あるいは方針や組織作りが必要であるということ。

 そして3つ目は、異業種との人材交流である。これは業界団体も含めて考える必要があると感じている。

 4つ目は、供給過剰な状況における業界内での協業、統合による効率化である。

 5つ目は、他産業とのビジネスアライアンスの構築。これは組み合わせ次第で大きな可能性を秘めている。

 6つ目は、ガバナンスを含めた経営のスマート化である。「本当にベストプラクティスを取り入れた経営ができているのか」ということをいま一度考え直す必要があると思う。我々はコミュニケーションを支えるプロであるはずが、実はそこに多くのコストを掛けている業界なのかもしれない。そこにまず気付き、このコロナ禍をきっかけに是正していくことが必要だと考える。

 最後は、BCP(事業継続計画)の対策である。ここでは、クラウドソリューションやマルチなアウトソーシングなどが有効になるだろう。


豊富なソリューションメニューでお客様のベストパートナーに


 新型コロナウイルスの影響がどこまで続くのか。先は見通せない。ただ、そんな先行きが不透明な中でも我々が展開すべきソリューションは明白である。まず、SONORAによるプレートビジネスをさらに大きく展開し、無処理版のベネフィットを広く印刷業界に享受していただくことである。SONORAの採用社数は累計で650社に到達している。今年も100〜150社増を目標に拡販を進めていく考えである。

SMART PREPRESS SOLUTIONを展開

 そして、昨年も堅調に推移したインクジェットビジネスについては、もうひとまわり大きなビジネスになっていくと予測している。さらにIT、ワークフロー分野においても、印刷業界に方向性を示唆するようなソリューション展開を目指す。

 紙媒体の需要減少は今後も続くだろう。それに対抗するには、印刷物の付加価値を高めていくしかない。パッケージというセグメントはまだ伸び代があり、そこを攻めるのもひとつの戦略だろう。もうひとつは、インクジェット技術によるバリアブルな印刷物とWebの連携で新たな印刷需要を創造するという戦略もある。一方で、「紙媒体は決してなくならない」という前提のもと、さらなる効率化で製造コストを抑えていくのもひとつ。コダックは、これらすべての戦略に貢献できるソリューションを提供している。少しでもお客様が先のビジネスを見通せるようなお手伝い、そして新たな付加価値ビジネスのサポート、さらに現状のコスト構造改善に至るまで、多種多様な引き出し、メニューを用意し、今年もお客様のビジネスパートナーとしての存在価値を高めていきたいと考えている。