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トップ > 特集 > 【対談】志あふれる印刷産業へ、期待される価値を求めて:斜陽産業的イメージ払拭へ

 「志あふれる印刷産業へ、期待される価値を求めて」という大きなビジョンを掲げる全日本印刷工業組合連合会(以下「全印工連」)。今年度も「連帯」「共済」「対外窓口」という主要機能を存分に発揮できる体制を整え、組合員企業の力強い経営と持続的な成長、発展を期して、諸事業をスタートさせている。  その牽引役として今年5月、臼田真人氏(東京都印刷工業組合理事長/(株)アドピア 社長)が会長に、同じく作道孝行氏(大阪府印刷工業組合理事長/作道印刷(株)社長)が副会長に就任し、両氏をはじめとする新リーダーのもとで新たな価値創造、ブランディングが進められている。  そこで今回は、その東西の若きリーダーの両氏にお集まりいただき、中小印刷会社およそ5,000社で組織する全印工連の役割や目指すべき方向性、さらに課題解決に向けた施策などについて語ってもらった。

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斜陽産業的イメージ払拭へ

印刷ジャーナル 2016年7月25日号掲載

東西の若きリーダーが描く「志あふれる印刷産業」とは?

臼田■ひとりの経営者として、印刷産業の現状と課題に向き合ったとき、「雇用」という問題が挙げられる。当社ではここ2〜3年、新卒の採用が難しくなっている。これは当社だけのことではないだろう。大きな問題だと捉えている。生産人口世代が減少し、労働人口が減少の一途を辿る中、雇用、労働環境の整備は中小企業にとって急務だ。
 「リクルーティングの難しさ」ということも言えるが、その根底には、我々印刷業がこれまで若い世代に産業の魅力をアピールできていなかったという反省もある。

作道■当社も同じ傾向にある。とくに現場の採用が難しくなっている。これはやはり需給バランスの問題で、印刷産業だけの問題ではない。3K(汚い、きつい、危険)のイメージが先行している産業には人は集まりにくい。雇用においては、対外的なイメージ向上も重要で、組合としての対策が必要だと痛感している。

臼田■行政や議員の方などと話していても、「印刷業界の皆さんは大変でしょう」という言葉をよく投げかけられる。いかにも衰退産業かのごとく。ご来賓の挨拶の中にも、そんな言葉が盛り込まれるたびに、「そこまで酷く見られているのか、違うんだけど...」と心の中で叫んでいる。

作道■しかし、他業界と比べてリスクの少ない産業だとも思う。受注産業ゆえに開発への投資リスクは極端に少なく、在庫リスクもない。昔から「景気に左右されない業界」と言われ、ドラスティックな環境変化が少なかったからやってこられた面もある。ただ、「それでは駄目だ」と徐々に気付きはじめ、業態変革をはじめ、経営を再構築するところで経営者は頭を悩ましているところだ。

臼田■漠然と、何となく、「大変なんでしょ」と言われること自体が非常に良くない。一般的にそう見られているわけだ。
 全印工連は、全国47都道府県すべてに工業組合が組織され、そこでは当然、規模も違えば、ロケーション、市場も違うわけだ。そういう中で、どこに「大変でしょ」と言われる要素があり、作道さんが言うような、今の時代を生き抜くための突破口がどこにあるのかを模索する。そんな課題を共有できる場が全印工連である。本当に、行きすぎた斜陽産業的なイメージは払拭すべきであると考える。
 一方、印刷業界の受注環境における最も象徴的な問題として各地方の官公需問題がある。それぞれの自治体ごとに条件設定や要件が異なるものの、ルールはあってないようなもの。最低制限価格制度についても、その基準額がどのような積算方法によって定義されているか疑問だし、その基準があったとしても表向きだけのケースも多いと聞く。「前年実績の7掛け」といったものが毎年繰り返されるとなれば、これは「中小企業いじめ」以外の何ものでもない。さらに、県外の会社でも入札できるとなれば、その土地で雇用を維持している企業にとって厳しすぎる。
 全印工連でデータを取っているわけではないが、印刷業界において官公需は非常に大きなシェアを占めると推測できる。今後も官公需対策協議会を中心に、この問題解決をより進めていきたいと考えている。

作道■官公需といっても、とくに大都市圏ではピンとこない部分もあるが、地方ではかなりのシェアを占めていると見られる。臼田さんの言うように、その多くはルールがあってないようなところで踊らされているケースが多々見られるようだ。
 しかし一方で、「税金の無駄遣いをやめて経費を削減する」という言い分も分かる。ただ単に「官公需しかないので仕事下さい」では何の解決にもならないのは明白だ。非常に難しい問題である。

臼田■個々の工業組合で解決できない問題だからこそ、全印工連というプラットフォームが機能すべきである。官公需問題については「物品買い入れ扱いから請負契約へ」と「最低制限価格設定」をセットにして、これまで30〜40年もの間、取り組んでいる。
 東京工組では昭和38年からこの問題に取り組み、今年、試験的ではあるが、ようやく最低制限価格制度が印刷産業にも導入されることになった。他にも工業組合ごとに、それぞれの要件設定で制度是正を実現しているところもある。これらベストプラクティスを取りまとめて全印工連で共有し、こちらから地元自治体に対して官公需取引に関するルール、秩序を提案していくこともできるはずだ。全印工連にはそれだけの組織力がある。ぜひやりたいと思っている。

作道■印刷企業の業績においては、二極化している。出荷額から見ると全体的には良い環境ではないし、メディアが多様化する中で、利益を生み出す原資は分散する。それが紙だけならば商圏は狭くなり、価格競争も相まって利幅を削るという悪循環に陥る。そこから如何に脱却するか。そこには大きなチャンスも隠れているはず。全般的に受注環境は悪いが、印刷業界は「やりようのある業界」と私は認識している。