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ハイデルベルグ製の印刷機が日本に上陸して今年で86年。その長い歴史の中で、独自のイノベーションで常に日本の印刷産業を牽引してきたハイデルベルグ・ジャパン(株)。その同社の新たなリーダーとして本年5月、水野秀也氏が新社長に就任した。「お客様のご満足と成功のために」という同社の戦略的ゴールに向け水野社長は、これまで以上のイノベーション提供で日本の印刷産業に貢献していく方針を打ち出している。そこで今回、水野社長に日本の印刷業界の現状と課題、そして新体制となったハイデルベルグ・ジャパンのビジネス展開などについて伺った。

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イノベーションで印刷産業に貢献 〜
お客様の最適なパートナーであり続けるために

ハイデルベルグ・ジャパン 水野秀也社長に聞く

印刷ジャーナル 2013年7月25日号掲載

無限の可能性を有する日本の印刷産業

水野社長
​ 日本の印刷業界が抱えている一番の問題は、悲観的になり過ぎていること。多くの方々から「厳しい」、「大変だ」や「将来はあるのか」といった声をよく聞く。もちろん現在の経済状況を考慮すると、これら意見が出ることも理解できる。しかし印刷産業だけが厳しいのではなく、どの産業も状況は同じである。
 ハイデルベルグ本社の新CEOであるリンツバッハが就任時、「印刷業に係わる人々は、現在の経済および市場環境を嘆いているが、本当に大変な状態なのか。他の産業、例えば化学産業や繊維産業などが、どれだけ大変な状況に置かれているかを知らずにいる。それら産業から見れば印刷産業は、まだ良い状態にあるはず」といった内容の見解を我々に語っていた。この考え方は、日本でも同じなのだと私は考えている。
 日本の印刷産業の出荷高は未だ6兆円を超えており、ワールドワイドでは約50兆円。これ程までに大きな産業が他に多く存在するだろうか。それだけ大きな市場に係わっている印刷産業人が、どうしてそんなに悲観的にならなければいけないのか。ビジネスのやり方を見直すことで印刷産業は、まだまだ無限の可能性を持っていると言えるだろう。
 印刷産業の景気判断の基軸となっている印刷出荷高も本当の意味で業界動向を把握するデータとは言えない。つまり量の問題ではなくバリューの問題が大切であり、いかに価値あるものを正当な対価で提供するかが重要。すなわち数値だけを見て、現在の経済状態を嘆くのではなく、もっと実際の経済・社会環境を見直してみることが大事ではないだろうか。
 メディアを使用する多くの方、つまりエンドユーザーは、もはや昔のように金太郎飴のごとく、同じ情報を提供されることに対しては全く興味を示さず、誰も持っていない情報に対して価値を見出すようになってきた。そのような個性を重要視する多様化の社会において、ボリュームだけを追い求めるのは時代遅れである。「1万部作っていくら」というビジネスから、印刷にソリューションをプラスしたサービスを顧客に提供できるようなビジネスへの転身が必要であり、すでにそういった取り組みを開始し、実績をあげている印刷会社が多く存在する。
 また日本の印刷業界では、電子メディア、オフセット印刷、デジタル印刷をすべて対立軸で見る傾向がある。電子メディアは紙メディアより優れているとか、デジタル印刷はオフセット印刷より効率的、というように常に優劣を判断して、進むべき道を模索している。しかし本来、消費者が求めるメディアとは使いやすく、便利で良いものだけであることを改めて考えてもらいたい。
 つまり重要なのは多様な用途に応じ、かつ効率的な手段でサービス提供を行うことであり、対立軸で物事を判断してしまうことは無駄なこと。

生産現場に必要なのは世界に通用する基準

 印刷業には、2つの側面がある。1つはサービス業としての側面。それは営業職的な役割であり、簡単に説明すると受注活動である。受注は、自分が発注したい相手を探すことから始まる。その対象は人やシステムであったりもするが、その受注という行為・業務には「情理的」な作用が大きく左右する。
 価格が高い・安いという理論的判断で決定することもあるが、営業マンとの永年にわたる親交など、発注担当者側の「情理的」な判断で受発注が行われているケースが多いはず。つまり受発注のプロセスとは、情に訴える手法が大きく、日本人が最も得意とするもの。この流れは、これからも大事に受け継いでもらいたいし、きめ細やかなサービス提供は、世界でも通用するものかもしれない。
 そして印刷業のもう1つの側面は「ものづくり」。このプロセスでは、サービスの側面で説明した「情理的」という日本独特の手法とは異なり、理論的に確立されたグローバルスタンダードによる作業が必須となる。現実的に日本が得意とする産業は、世界に通用するグローバルスタンダードを活用している。
 しかし日本の印刷産業は「ものづくり」まで日本的に行っている。具体的に言えば、品質基準を自分たちで作ろうとする。この取り組み自体を否定するわけではない。しかし、その国内限定の規格をいつまで追い求めるのか。日本だけ流通する基準を使い続けることで、スタンダード化したような錯覚に陥るおそれもあるが、ある日突然、そのスタンダードが全く通用しない、といったこともあるかもしれない。
 世界では、JDFやMISなどの印刷産業のスタンダードがあり、それらの基準を運用してグローバルに成功している印刷会社が数多く存在している。今後、成長著しい新興国の生産体制との差別化を実現するためには、徹底した製造部門の効率化を図っていくことが最重要課題である。
 人は受注を取るために人でなければできない仕事を行う必要がある。しかし生産現場では、世界に通用する基準のもと、徹底した生産体制の効率化による低コスト化を実施することが大切。ですから日本の印刷会社には大きなチャンスがある。1つはサービスの面で日本人ならではの、きめ細やかな対応力で受注を拡大すること。そのうえで「ものづくり」については、グローバルススタンダードを活用した効率化の取り組みによる収益構造の改善と世界に通用する生産体制を構築すること。この2つをバランスよく運用することで日本の印刷業界は、今以上に成長することができるはず。当社としても、そのための支援を積極的に行っていくつもりだ。

印刷機の性能を最大限に発揮する第3世代システム「DryStar UV LED」の公開

 LED-UVシステム自体は、複数のメーカーから発表されており、すでに国内の印刷会社でも導入実績もあることはご存じの通り。
 ハイデルベルグとしても数年前からLED-UVシステムの開発に着手していたが、当初から変わらずに掲げていたコンセプトは、印刷スピードの制限など生産性に影響が生じるシステムではなく、印刷機のコストパフォーマンスを最大限に発揮できるシステムの開発である。従来のUVやランプ本数を減らした省電力系UVと同等のパフォーマンスを実現できないシステムであれば、開発する意味がない、というのがハイデルベルグとしての考えである。今秋、日本での公開を予定している第3世代のLED-UVシステムは、従来UVや省電力系UVシステムと遜色ないパフォーマンスを実現するシステム。
 私が第3世代と言う理由の1つは、従来のUVシステムと変わらないパフォーマンスの実現。最速18,000回転の機能を有する印刷機にLED-UVシステムを搭載することにより、かえって印刷スピードが落ちてしまうようでは、当社の製品提供におけるポリシーに相反する。ハイデルベルグが開発した「DryStar UV LED」は、印刷機の生産能力を失うことなく、最高速の稼働を提供できる。
 もう1つは、LED-UVシステムと印刷機を完全統合した画期的なシステムとして開発したこと。これまでLED-UVシステムの特長として、ランプ点灯のオン・オフが自在であることがメリットとされていた。もちろんLEDの素子自体は、その特性を兼ね備えていたが、しかし印刷機搭載時の制御システムとしては、現時点では統合されていない。
 具体的に説明すると、仮に印刷機の最大用紙サイズを印刷終了後、そのサイズより小さい用紙で印刷を行ったとする。その際、LEDランプは、最大用紙サイズ印刷時のままのランプ照射を行っており、用紙面積以外の無駄な部分にもランプを点灯していることになる。もちろんアバウトなランプ照射の変更はできるが、用紙サイズに合ったランプのオン・オフはできていない。
 ハイデルベルグの「DryStar UV LED」では、用紙サイズを印刷機に入力するだけで、用紙に関わるすべての機能が自動的に動くように設計されている。例えば用紙サイズが変更した場合、自動でそのサイズ変更を認識し、変更サイズに合ったエリアのみにランプ照射を行うことができる。これだけで消費電力は、従来LED-UVシステムと比べ、約20%削減できるはず。
 また、この第3世代LED-UVシステムは、ハイデルベルグの印刷機のシステムに統合されているので、ジョブデータを一度入力するだけで、その他の印刷準備機能と合わせて自動セットアップを開始するなど、これまでのLED-UVシステムのような単体システムとは異なる革新的なシステムと言えるだろう。正式な発表まで長い時間がかかったが、このLED-UVシステムについては、期待してもらいたい。

PDFデータを基準とし印刷機と連動した検査システム

 日本の印刷業界は、実に検品が多い。もちろん品質保証の観点では、素晴らしいとも受け取れるが、現実にはコストや時間など企業経営を圧迫する大きな問題である。パッケージ印刷分野は、その最たるモデルで、不良率0が求められることも少なくないはず。この問題を解決するシステムについても国内発表を予定している。
 ハイデルベルグでは、drupa2012で発表した製品に医薬品関係のパッケージ印刷向けに開発された「インスペクションコントロール・PDFバージョン」というインライン品質検査装置がある。これをパッケージ印刷だけでなく一般商業印刷向けに提案していく。簡単に説明するとPDFデータと印刷物を比較する検査システムである。
 日本ほど品質検査システムというカメラ装置が普及している国はないが、この装置の最大の弱点は、基準となるOKシートを人の手で作り上げていること。手作業では間違った基準が取り込まれる可能性もありえる。その場合、本来であれば問題ない製品でも不良と認識され、結果として検品、刷り直しといった無駄な時間とコストが発生する。また従来検査システムで特に問題なのは、一般商業印刷やパッケージ印刷に限らず、製品となる絵柄以外の断裁部分までも検査エリアとして、読み込んでしまうこと。つまり印刷絵柄には全く問題がない場合でも断裁する箇所にゴミや汚れが付着しているとエラーとして識別されてしまう。
 カメラの読み取り精度は日々進化し、高精度になればなるほど、エラー検知率も高くなる。もちろん本当に不良であれば仕方ないが、実際はそのエラー原因の相当量がもともと用紙自体の汚れであり、印刷上の不良ではないことも多い。しかも従来は絵柄以外の部分に対しても検査してしまうため、そのエラー頻度はさらに高くなる。
 その問題を解決する最良の方法は、PDFデータと比較すること。そのメリットとしてはPDF原稿と比較するので、OKシートは問題のない完璧な印刷比較サンプルとなり、エラーとして検知されることがない。
 さらにPDF原稿は、実際に使われる絵柄サイズを基準とするので断裁部分を検査エリア外として認識し、検査箇所はあくまでも必要絵柄部分のみに限定される。これにより無駄な箇所で発生するエラー検知を防ぐことができる。
 「インスペクションコントロール・PDFバージョン」のもう1つの特長としては、検知した不良印刷枚数を自動で認識し、追加印刷をする機能がある。仮に印刷絵柄上に何らかの汚れが数枚連続で付着したとする。その際、「インスペクションコントロール・PDFバージョン」は、不良シート枚数を自動で計数する。同時に発生した不良シート枚数をフィードバックし、不良シートの不足分を追加印刷する指示を印刷中に行う機能を搭載している。これにより不良が発生しても印刷機を止めることなく、稼働中に予定通りの数量を印刷することができる。さらに不良発生を想定し、予備印刷枚数を多めに設定することもないので予備紙などのコスト削減にもつながるはず。
 この「インスペクションコントロール・PDFバージョン」は、検査装置としての役割を有しているが、単に品質管理だけを行うシステムではなく、先ほど説明したLED-UVシステム同様に印刷機と連動し、生産効率までを網羅したシステムとなっている。
 
ハイデルベルグが追求するイノベーション

 日本という先進国にハイデルベルグ製の印刷機が納入され、今年で86年目を迎える。その長い歴史の中で、ハイデルベルグが追い求めてきたことは、常にイノベーションだと私は思う。活版印刷からオフセット印刷に変遷し、さらに今後デジタル印刷の時代が到来しても、紙メディアのサプライヤーとしてマーケットリーダーの役割を果たすためには、イノベーションが必要である。このイノベーションとは、先ほど説明したLED-UVシステムなど装置やワークフローシステムなど技術のイノベーションであり、印刷業界に対して、我々が明るい話題や役立つ情報を提供することもイノベーションである。
 そのイノベーションを追い求めることで将来にわたり、ユーザーが安心して選択できるサプライヤーでありたい。そして印刷産業は重要な産業であるということを多くの方に再認識してもらうために、我々は装置、仕組み、ソフトウェア、考え方をトータルに提案・提供していく。それこそが、日本市場において86年間、続投してきた我々のミッションである。
 そして我々が2年半前から掲げる戦略的ゴール、つまり「お客様のご満足と成功のために」の実現を目指し、これからも印刷関連業のパートナーとして貢献できるように全力を尽くしていく。