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トップ > 特集 > 安心・安全な作業環境の改善に向けて:印刷産業の信頼回復へ、遵法の徹底と洗浄剤切り替えを宣言

昨年5月に発覚した大阪の校正印刷会社従業員複数名が「胆管がん」を発症した問題は、印刷業界のみならず社会全体に大きな衝撃を与えた。(社)日本印刷産業連合会(足立直樹会長)では、この問題を受け、会員企業に対し、あらためて化学物質による健康障害防止対策の徹底を呼びかけるとともに、アンケート調査を実施。さらに日印産連内に「化学物質による健康障害防止対策の取組」の強化を図るため、新たに「労働衛生協議会」を設置し、有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、がん原性指針等に対する遵法の徹底とオフセット印刷事業所における有害性の低い洗浄剤への切り替え等を盛り込んだ「健康障害防止対策基本方針」を策定し、印刷産業の社会的信頼の回復に向けた活動を実行している。今回、同協議会を中心とした日印産連の取り組みについて振り返ってみる。

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印刷産業の信頼回復へ、遵法の徹底と洗浄剤切り替えを宣言

日印産連、従業員と家族に安心・安全な作業環境の改善に向けて

印刷ジャーナル 2013年1月1日号掲載

全会員企業にアンケート調査を実施

 大阪の校正印刷会社従業員の胆管がん発症及び死亡に関する問題発覚後の昨年5月21日、厚生労働省から印刷業における化学物質による健康障害防止対策の適切な実施を求める要請文が(社)日本印刷産業連合会に通達された。日印産連では、この事態を印刷関連事業所の作業環境を見直す問題として重く受け止め、翌22日に会員団体に対し、予防的観点から労働安全衛生法に基づく作業環境対策の適切な実施を促すとともに、5月下旬には日印産連傘下の全会員企業に対し、健康障害防止対策に関する実態調査を実施した。
 同調査は、労働局がアンケートを実施した大阪地区の印刷事業者1,000社を除く、日印産連傘下10団体8,270社にアンケートを依頼し、2,688社が回答(回収率33%)している。
 回答企業の従業員数は、1〜19人が1,282社(48%)、20〜49人が583社(22%)、50〜99人が286社(11%)、100人〜299人(8%)、300人〜499人が26社(1%)、500人〜999人が24社(1%)、記入無が269社(10%)となっている。
 その集計結果によると、有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質等障害予防規則、がん原性指針(平成23年健康障害を防止するための指針公示第21号)に該当する化学物質を使用している事業者が1,941社(有効回答数の74%)あったことが確認された。また、該当化学物質を含んだ製品を使用している、と回答した企業が資材として利用している製品では、洗浄剤が58%と一番多く、次に溶剤が30%、印刷インキが13%であった。
 また、これら化学物質を使用している事業者の労働安全衛生法に基づく処置の実施については、同法で定められている各種項目別にみて「安全衛生管理組織の設置」が、その実施が必要と定められた事業者数に対する実施事業者の割合で71%と一番高く、「局所排気装置等の設置」は同29%、「作業環境測定」は同25%にとどまった。
 会社従業員規模別にみた労働安全衛生法に基づく処理の実施率では、事業規模(従業員数)が小さくなるほど実施率が低くなる傾向が同調査によって明らかになっている。
 
労働衛生協議会を設置

 日印産連では、印刷会社従業員の労働環境をさらに改善し、「化学物質による健康障害防止対策の取組」の強化を図るため、新たに「労働衛生協議会」を設立することを6月下旬に機関決定。印刷業界をあげて対応するために学識経験者、労働安全専門家、印刷業界団体代表、印刷資材団体・メーカーで構成する「労働衛生協議会」を設立し、印刷業界全体の「化学物質による健康障害防止対策の取組」の強化を図っていく方針を打ち出した。
 この「労働衛生協議会」では、印刷関連各事業所単位での健康障害防止策の再確認と実施の徹底を目的として、労働安全衛生法等の遵法指導並びに化学物質取扱いに関する周知徹底等を行うため、説明会の開催、周知パンフレットの作成・配布を行うとともに、行政機関・関係機関との連携を図りつつ、印刷会社従業員や社会環境に対する情報提供を行っていく組織。7月に開催された第1回協議会で、次の実施計画が策定された。

(1)印刷業界内の労働衛生関連の実態把握と課題抽出
 平成24年5月下旬に日印産連で実施したアンケート調査結果の分析と厚生労働省の実態調査結果の整理を行い、施策、啓発のための基礎資料とする。
 ▽全会員企業に対する実態調査結果の分析
 ▽厚生労働省の実態調査(立入検査)等結果の整理
 ▽実態調査結果から見た課題の抽出
(2)印刷事業所の労働衛生法令順守と健康障害防止策の検討      
 印刷事業所の実態を踏まえた労働衛生法令順守のための具体的措置と、健康障害リスク回避のための防止策を検討する。
 ▽工程別の労働衛生法令順守のための具体的措置の検討
 ▽化学物質からの健康障害防止策(リスクアセスメント)の検討
 ▽化学物質を含んだ印刷資材の情報収集、情報発信方法の検討
 ▽印刷事業所に適した排気装置、保護具等の検討
 ▽印刷機械、印刷関連機器等の暴露防止策のあり方検討
 ▽印刷事業所からの相談対応方法の検討
 ▽GP認定制度(工場認定、資機材認定)活用の推進等
(3)印刷事業所への労働衛生法令順守と健康障害防止策の啓発
 前記(2)の検討結果を反映させた事業所配布用パンフレットを作成し、広く配布するするとともに、周知のためのセミナー、勉強会を全国規模で基礎から具体的施策まで段階を追って展開する。また国等の施策との連携を図りつつ、非会員企業への啓発も視野に入れる。
 ▽周知用パンフレット(事業所用)の作成、配布全事業所用として具体的な分かりやすいパンフレット作成、WEBでも配信する。
 ▽労働衛生セミナー、勉強会等の企画、開催
 基本的な労働衛生セミナーを全国7都市で迅速に開催
 ▽国等の施策と連携した啓発活動の実施
 ▽非会員企業への施策検討
(4)社会的不安の解消と印刷業界信頼回復に向けた施策の検討
 各種報道がなされ、社会的不安が広まっているため、同協議会検討内容を随時情報公開していくとともに、従業員・家族、周辺住民等に向けたパンフレットを作成する。
 ▽従業員・家族、周辺住民等向けパンフレット作成
 ▽情報の適正な開示
(5)活動結果の評価と次年度以降の展開策の検討
 同協議会の活動結果を評価し、とりまとめ公開するとともに次年度以降の施策を検討する。
 ▽全会員企業に対する周知結果、改善度合に関する実態調査の実施とまとめ
 ▽実態調査結果からみた課題の抽出
 ▽次年度以降の展開策の検討、提言まとめ
 ▽報告書まとめ

 同協議会では、効率的な審議を図るため、労働衛生協議会の下にWGを設置するとともに、審議に当たっては、厚生労働省、経済産業省および関連機関と十分な連携を図っていくことも決定した。なお、日印産連では、「労働衛生協議会」の設立は、あくまでも印刷業界に従事する従業員の化学物質による健康障害を予防することが目的であり、胆管がん問題の原因調査を行う組織ではないとしている。

健康障害防止対策基本方針を策定

全国7ヵ所で開催されたセミナーでは1,400名以上が聴講
​ 同協議会の活動は、設立後すぐに実施され、平成24年7月27日〜8月9日の期間、全国7ヵ所で印刷事業者を対象に労働安全衛生セミナーを開催し、1,480名以上が聴講している。さらに同セミナーは、日印産連会員企業以外のアウトサイダーも参加できるオープン開催とされ、より多くの印刷事業者に対し、印刷事業所従業員の労働環境をさらに改善し「化学物質による健康障害防止対策の取組」の強化について理解を深めるものとなった。
 同セミナーは、仙台会場を皮切りに、札幌、東京、名古屋、大阪、広島、福岡の計7会場で実施。印刷各事業所の経営層、担当者等を対象に、厚生労働省の担当官をはじめ、労働安全衛生専門家による労働安全衛生法の遵守と健康障害防止策の具体的方法について約3時間にわたり説明が行われた。有機溶剤中毒予防規則の内容をはじめ、労働衛生管理の重要性を説明したほか、洗浄剤等有機溶剤を使用する場合の注意点として、作業方法の改善、局所排気装置等換気装置の設置、防毒マスクの使用等を強く勧めるとともに、根本的な対策として、GP資機材認定製品など有機溶剤中毒予防規則の対象とならない洗浄剤(代替品)への切り替えを推奨した。
 そして平成24年9月に開催された第2回労働衛生協議会では、年間活動の具体的内容を検討するとともに、有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、がん原性指針等に対する遵法の徹底とオフセット印刷事業所における有害性の低い洗浄剤への切り替えを盛り込んだ「健康障害防止対策基本方針」を策定した。同基本方針では、「各印刷事業所は労働衛生関連法令の理解を深め、遵法措置の徹底を図ること」、「各印刷事業所では、より有害性の低いことが分かっている洗浄剤等への切り替えを積極的に行うこと」、「前記2項に関わらず、従業員の健康を守るため、必要な健康障害防止対策を継続して実施していくこと」を印刷事業者に求めるもの。
 具体的には、印刷業界の実態調査から、労働衛生関連法令の遵守並びに健康障害防止対策が不十分であることが把握できたことから、企業として法令を遵守することは当然のことであり、また従業員の健康を守る上での最低限の措置であることから、これを基本方針の第一としている。
 また化学物質による健康障害防止対策としては、有害性の高い有機溶剤から、より有害性が低いことが分かっている物質の製品に切り替えることが重要である。特にオフセット印刷事業所では、洗浄等に使用される有機溶剤は他の物質で代替できることが多い。そこで安全データシート(SDS<MSDS>)等で含有する化学物質と取扱方法、及び適用法令を十分に把握し、より有害性の低い洗浄剤等に切り替えることがもっとも効果的な方法である。よって、これを基本方針の第二とした。
 次に職場の安全性をさらに高めるため、法令遵守、製品の切り替えにとどまらず、従業員の健康障害防止対策を継続的に実施していくことが重要である。そのため常にこれらに関する情報を収集し、従業員の健康を守るため企業をあげて実施していくことを基本方針の第三としている。
 この基本方針は「2012年9月印刷の月 記念式典」のなかでアピールされ、印刷職場の作業環境の改善、化学物質による健康障害防止策の推進を強く訴えることとなった。また昨年11月には、印刷事業所の「化学物質による健康障害防止対策の取組」の強化を図るため、労働衛生協議会が中心となりパンフレット「印刷事業所における化学物質による健康障害防止対策のポイント〜有機溶剤中毒予防規則(有機則)への対応を中心に〜」を2万部作成し、全会員企業(約9,300社)をはじめ、印刷業界及び関連業界等に広く配布している。
 日印産連では、2013年2月に労働衛生協議会の活動のまとめとして会員企業への改善度合等実態調査を予定。この調査結果をもとに課題を抽出し、報告書として葉発表する。また報告書の発行をもって労働衛生協議会の活動は終了となるが、日印産連では引き続き印刷産業における健康障害防止対策への取り組みを実施していく方針とのこと。