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トップ > 特集 > コダックのビジネス戦略と日本市場での展開:よりマーケティングの世界でプレゼンスを高める  コダック株式会社 代表取締役社長 藤原 浩 氏 に聞く

 「変革への一歩を踏み出すとき、未来はもっと輝いてくる」−−今年2月1日付けでコダック(株)の代表取締役社長に就任した藤原浩氏。グローバル企業での経営オペレーションに携わってきた藤原社長は、「どんな産業でも共通する経営のプラクティスがある」と語る。現在、「顧客の事業成長」をミッションの中核に据えた事業展開で、「Kodak」ブランドに磨きをかけるとともに、印刷産業における事業拡大に意欲を示している。そこで今回、コダック(株)を統率する藤原社長にインタビューし、コダックのビジネス戦略と日本市場での展開などについて話を聞いた。

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よりマーケティングの世界でプレゼンスを高める
 コダック株式会社 代表取締役社長 藤原 浩 氏 に聞く

印刷ジャーナル 2012年11月5日号掲載

藤原 社長

グローバル企業での経営オペレーション

 学生時代は文系を専攻していたが、私はそもそも理系の人間で、幼い頃から科学技術などに興味をもっていた。大学卒業後、入社した日本電子(株)でも「技術との接点」ということから特許に関わる部署を希望したが、配属されたのは経営企画部。奇しくも経営管理という分野から私の社会人としてのキャリアがスタートした。
 それから5年後、アメリカのボストンにある現地法人に赴任。経営オペレーションやマネージメントに携わり、その後もカナダ・ベネズエラ・メキシコといった地域のオペレーションを行う孫会社を立ち上げるなど経験を積んだ。
 そしてボストン駐在中にERP(Enterprise Resource Planning/統合業務パッケージ)に出会い、これが後のキャリアに大きな影響を与えることになる。ERPとは、企業全体を経営資源の有効活用という観点から統合的に管理し、経営の効率化を図るための手法・概念、およびこれを実現するITシステムやソフトウェアといったツールのことである。これを私の提案で現地法人へ導入。この経験を活かして、日本へ帰国後、ERPで世界トップを誇るSAP社の日本法人に入社した。最終的にはCOOも経験し、SAPに通算11年勤めたが、その間、従業員は200人強から1,400人に、売上も30億円から600億円へと急成長を遂げた。いま考えると、企業が短期間で急成長する過程を垣間見る貴重でエキサイティングな経験だったと思う。
 その後、フィリップス社の日本法人に入社。ここではCOOとして、とくにヘルスケアのビジネスに携わった。人の生命にフォーカスした産業として、それはまた別の価値観があって、ここでの経験も私にとって大きな財産となっている。
 そしてコダックへ。これまでの職歴との繋がりは、ずばり「グローバルオペレーションされている企業」、そして「最先端技術(ハイテク)で勝負している企業」という2点。とくにフィリップスとコダックは似ているように思う。長い歴史を持つ企業がひとつの端境期を迎え、次のビジネスモデルへとシフトし、ポートフォリオを再構築することで次の成長を狙う...。そういう段階にあることが酷似している。
付加価値をもたらすソリューションの提供

 印刷産業については、9兆円の市場が6兆円にまで縮小していることから市場の先行きを不安視する方もおられるが、5〜6兆円という市場の数字は決して小さくなく、産業規模としては大きな数字であることを再認識するべきではないだろうか。私は次の成長に結びつけるための市場サイズとしては充分だと思っている。ただ次の収益源を「印刷」というビジネスモデルに特定するのか、それとも拡大解釈するのかによって、その伸び代は変わる。
 つまり収益源をもっと拡張して捉え、エンドユーザーのビジネスに対し、どのような付加価値をもたらすかということまで視野に入れて考えないと難しい。コダックが持つ製品ポートフォリオおよびソリューションは、そういったビジネスゲームのシナリオを変えていくものである。そこを如何に理解いただき、活かしていただくか。今後コダックがフォーカスすべき部分のひとつでもある。
 先日、タイヘイ様でハイブリッド プリンティングの事例を紹介した。これはオフ輪機で印刷したチラシに様々な可変情報をインラインで付加するバリアブル印刷機能を駆使して、チラシ市場の活性化、市場拡大を図っていくというもので、まさにひとつの良い例である。広告を通じて消費者にどのような訴求の仕方を展開するか。その後の消費行動までトレースできるようなものができれば、次のマーケティングも戦略的に展開できるし、結果的には広告マーケティングの効率化という意味で大きな差別化になる。
 タイヘイ様に導入いただいたインクジェット プリンティング システム「Prosper S10」は、コダックのポートフォリオの中でも重要な製品。コダックのインクジェット技術は、間違いなく他社の追随を許さないレベルにある。この分野で商業印刷に求められる生産性や品質、コストに耐えられる唯一の製品だと自負している。
 一方、電子写真方式の「NexPress」でも、ゴールド、パール、蛍光ピンクに対応する第5イメージング ユニット ソリューションがdrupaで発表されている。これもマーケティングという視点で、アプリケーションによっては非常に魅力的なものになる。

ミッションは「顧客の事業成長」

 我々はグローバル企業である。海外の先行している成功事例を日本市場に導入して、そのメリットをユーザーに享受いただくことが我々の存在感を示す究極の使命である。
 一方、最近取り組みを強化しているのがアカウントマネジメントだ。これは、ユーザー毎に社内で営業、サービス、技術によるチームを編成し、ユーザー企業で起こっているトラブルや問題点をリアルタイムにシェアすることで迅速かつ的確な対応を図るというもので、我々にとっての大きなテーマである顧客満足度の向上を具現化するひとつの取り組みとして、その体制を整えている。
 また、コダックが以前から展開しているBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)から派生したものとして、印刷会社とともにクライアント企業に新たなソリューションを提案していくプログラムを立ち上げている。これがOne to Oneマーケティング ソリューションだ。
 消費者ニーズの多様化、ビジネススピードの高速化により、企業のプロモーションはWebや携帯端末を主体としたタイムリーでOne to Oneなものに移行している。現在では、従来のCRMパッケージソフトが提供する機能のみでは消費者が真に求める情報を伝え、顧客企業の経営改善につながるプロモーションを行うことが難しい。
 コダックでは、印刷会社に最先端のデータ分析とパーソナルコミュニケーションツールを統合したマーケティングソリューションを提供し、顧客企業のパートナーとしてともに成長することを支援していきたい。

「どんな産業でも共通する経営のプラクティスがある」
よりマーケティングの世界でプレゼンスを高める

 コダックはM&AでB to B企業に転換してきたため、お客様にも社員にも、企業のビジョンが明確に伝わっていなかったという側面もあるのが事実。そこで日本市場戦略の柱として、私は「デジタル印刷」「ソリューションビジネス」「プリプレス」「パートナーアライアンス」といった4本の収益軸を掲げ、これらを四輪駆動の車輪としてバランスの取れた事業構成を目指していくことを明確にした。これらはすべてコダックというブランドをさらに磨き上げていくという方向性のもとに統合されていくことになる。
 なかでもユーザーのビジネスを「シフト」するデジタル印刷は重要な戦略となる。また、パートナーアライアンスでは、例えばインクジェットヘッドを輪転機メーカーに供給している。一方ではコダックというブランドだけを貸すということもありえる。さらに共同開発ということも含まれるだろう。
 これらはこれまでも水面下で大きく展開しているものもあり、今後は一般消費者にも見えるような形でパートナーアライアンスを強化していきたいと考えている。
 将来のコダックは、よりマーケティングの世界でプレゼンスを高めていきながら、印刷業界を牽引していくようなポジショニングのイメージを描いている。いわゆるマーケティングのプロと言われている企業との連携をより強めていくことや、同時にブランドオーナーとの戦略的な提携、新しいマーケティング手法の開発、提供というものに入っていく可能性もあるだろう。

来年度中にはチャプター11からの脱却を目指す

 今年1月、イーストマン・コダック社が米国連邦破産法第11章(以下「チャプター11」)に基づき事業再建手続の申し立てを行ったことで、ユーザーをはじめ多くの関係者の方々にご心配をお掛けした。
 しかし、私はコダックが、必ず「復活する」と確信している。チャプター11は、米国では、企業をより早く次の成長モードにもっていくためのひとつの有効なステップである。
 実際に多くの航空会社や自動車最大手のフォードなどもこのチャプター11のプロセスを経て見事に復活を果たしている。日本にも会社更生法など似たようなスキームはあり、復活を果たしている企業もあるのは周知の事実である。しかし100年以上の歴史を持つコダックの場合、そんな生易しいものではないことは確かだ。
 来年2月には、再建計画の具体的な概要が出る予定で、イーストマン・コダック社は、来年中にチャプター11からの脱却を目指している。
 ご存じの通り、我々はドキュメントスキャナやコンシューマービジネスからの撤退を表明し、まさに商業印刷分野を企業ドメインにしていくというのが大きな方向性である。
 幸いにも日本は先行してビジネスの軸足をB to Bに転換してきているため、そこも含めてご安心いただきたい。日本法人「コダック(株)」は安定したオペレーションのもとで健全運営していることを改めてここで強調させていただきたい。
 「印刷業界とともに生き残る道を見つけていきたい」。これが基本スタンスであることに変わりはない。その道は必ずあるし、我々はそのヒントを提供できる最適なビジネスパートナーであり続けられるよう最善を尽くしていく覚悟である。