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トップ > 特集 > プロの要求・需要を満たす印刷通販:変化する印刷会社と印刷通販の関係性 〜MCC 奥 敦雄 社長に聞く〜

「印刷」という枠組みの中で、新たなビジネスモデルとして登場してから10年以上が経過した「印刷通販」。一般コンシューマを中心に、ユーザーニーズを的確に捉えることで、需要を取り込み、また新たな需要を創出しながら印刷通販市場は急成長を遂げてきた。いまでも日々、様々なジャンルの印刷通販サイトが産声をあげている。さらに昨今では、印刷会社の「外注先」としての機能も持ち合わせ、いわゆる「印刷会社の生産工程の一部を支える印刷通販」としての位置付けを強める企業も多く、これらの需要が印刷通販ビジネスにある種の変化をもたらしている。弊紙でもこれまで何度か「印刷通販ビジネス」を取り上げてきたが、それらは概ね「印刷(関連)会社が印刷通販ビジネスを始めるにはどういうポイントを抑えておく必要があるのか」といった主体的内容だったが、今回は視点を変えて、「印刷(関連)会社の外注先としての印刷通販」という観点から特集を企画。「プロの要求・需要を満たす印刷通販」と題して、量販型・特化型の印刷通販サイト(企業)を紹介する。

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変化する印刷会社と印刷通販の関係性

MCC 奥 敦雄 社長に聞く

印刷ジャーナル 2012年9月5日号掲載

 業界に大きなインパクトを与えた印刷通販。印刷会社はこれからどのように印刷通販と付き合っていくべきなのか。今回、印刷業界のコンサルティングを手掛ける(株)MCCの奥敦雄社長に、少し違った視点で、変化しつつある「印刷会社と印刷通販の関係性」について話を聞いた。

まだまだ増える印刷通販。異業種からの参入も

 印刷通販が出てきてから、既に10年以上が経った。とくにこの2、3年は非常に競争が激しくなり、「儲かると思って始めてみたけれど、まったく儲からない」というような声も聞くことが増えた。オープンしたものの、開店休業状態のサイトもあるようだ。とはいえ、印刷通販市場はまだまだ参入が止みそうにない。売上が低迷している印刷会社のうち、とくに今まで「総合印刷会社」を名乗ってきた印刷会社が参入するケースが増えているようだ。営業マンが新規開拓をできない以上やむを得ない、という判断をする経営者が増えているのだろう。私のところにもそういった印刷通販サイトの立ち上げや改善などの相談が寄せられることが増えてきた。
 また、制作会社や代理店など、異業種からの参入も伸びている。最近では印刷通販価格比較サイトのパイオニアである「ラクスル」も印刷通販ビジネスへの参入を表明した。その他にも代理店や広告会社が印刷通販サイトを立ち上げ、受注した商品を自社で印刷せずに提携している印刷会社に印刷してもらうような、いわば「ブローカー的印刷通販サイト」が増えてきている。ホームページ経由ではそこの会社が印刷機を持っているかどうかなど分からないし、そもそもちゃんとした製品が送られてくればよいというスタンスのユーザーが多いため、こうしたブローカー型の印刷通販サイトでも、発注が確保できれば十分に収益を上げることができる。
 一方で、こうしたブローカーから下請けを受けている印刷会社の中では悲鳴を上げている会社が多い。お客様から入稿されたデータが不完全なままであったり、納期も極端に短いケースがあったりするなど、かなり負担を抱えながら、それでも仕事があるのなら、と下請けに徹していることが多い。

印刷通販は外注と同じ

 しかし、こうした下請け仕事は何も印刷通販だから厳しい、というわけではない。あらゆるビジネスシーンにおいて自社に特別な技術がない限り、下請けは発注先に振り回されることがほとんどだ。最近では逆に、印刷通販を積極的に利用する印刷会社も増えている。安定した品質の製品を常に届けてくれる印刷通販会社であれば、従来の下請けの印刷会社よりも使い勝手が良いようだ。
 そもそも印刷業界は売上の約20%を外注費が占めるような業界である。逆に言うと印刷会社の主要顧客は印刷会社とも言える。そうした下請け構造が既に業界内にできあがっている状態であることを踏まえて考えると、今まで発注していた下請けの印刷会社よりも、印刷通販を使った方が「値段が安い」「品質が安定している」というような話が出てもおかしくない。
 私の知っている印刷会社では、自社内で作ったことのないような印刷物でも、データさえしっかりできていれば印刷通販の値段に2割ほど利益を乗せて見積りを出していることもある。とはいえ、印刷通販企業も多種多様になってきており、価格重視・品質重視・サービス重視など、各社の特徴を理解した上で発注するようにしたい。とくに、各社によって印刷の品質には差があるため、定期案件を発注するのであればできるだけ発注先は1箇所に絞った方がよいだろう。当然、そこの会社の品質が安定していることやトラブルなどの対応がしっかりしているかどうかも事前に何点か発注して確認するようにしておきたい。
 最近では印刷通販市場が成熟してきたこともあり、1アイテムに特化した印刷通販サイトが増えてきている。こうした会社は専用の設備を有していたり、そのアイテムを印刷するためだけに機械を用意していたりするので、比較的安定した品質と安い価格を両立させていることが多い。今までも同じように専門で下請けをしてきた会社が印刷通販サイトを立ち上げて全国から受注しようという動きもある。そういう意味では、印刷業界内の下請け構造がインターネットを通じてより全国規模のネットワークとして機能し始めているとも言える。
 もちろん、その一方で今までのような人海戦術で下請けをしてきた印刷会社は印刷通販と比較すると同様の利益率を保つことが非常に難しくなるため、市場からの退場を余儀なくされることも増えそうだ。

既に印刷通販会社自ら下請けに

 印刷通販市場自体は成熟期に差し掛かっていると私は考えている。市場の拡大はまだ続くだろうが、伸びは鈍化しているようだ。とくにここ1、2年で印刷会社の印刷通販利用だけでなく、印刷通販サイトが自ら印刷通販サイトの下請けになるケースが増えてきている。サイトを立ち上げてみたものの、思うような受注を得ることができずに他の印刷通販サイトの下請けに回ってしまうのだ。そうしないと満足な売上を上げることさえできないのである。相手が印刷会社であれ、印刷通販サイトであれ、そうした下請けに回らざるを得ない印刷通販サイトがあり、そこに発注している印刷通販サイトがあるのもまた事実である。これから印刷通販に参入しようという印刷会社にとっては耳が痛い事例かもしれないが、印刷通販を外注先としてうまく使おうという視点で考えると、そういった印刷通販サイトに対して交渉がしやすい環境になってきているとも考えられる。
印刷通販を利用して業績拡大も

 仮にあなたの会社の営業マンがお客様から見積り依頼をもらったとしよう。その返答にどれほど時間がかかっているだろうか。私の知っている会社では驚くべきことに「当日中の返答を目標としている」と言っているのだ。それでも早いと思う会社もあるだろう。見積りを出すのにそんなに時間がかかるのであれば、自社の価格イメージと合う印刷通販サイトを見つけておけばいい。そこに1割か2割のせて商売すればいい。それだけで営業マンの無駄な時間も解消されるだろう。1日に一体どのくらい見積り業務に時間を当てているのか、それが1年でどの程度になり、人件費をどのくらいロスしているのか、経営者であればすぐに分かるはずだ。これからの経営はより効率的にすべきだと私は考えている。そのためには、こうしたやり方も必要になってくるのではないだろうか。

これからは価格がオープンになる時代

 印刷通販の最大の特徴は印刷物の値段がその場で分かることだ。今までのように見積りを待っている必要がない。その場で分かるためその場で判断ができる。あらゆる場面で意思決定のスピードが求められているこの時代、印刷通販はまさに求められているサービスとも言えるだろう。当然、価格が安いことも特徴だが、これは最大とは言えない。普段から印刷通販のような安い値段で仕事をしている印刷会社はたくさんあるからだ。
 印刷通販はおそらくこれからも様々な分野に拡大していくことだろう。取り扱い商品や選択できる紙や加工の種類、1個単位から100万枚まで注文できるロット数も選べる範囲が増えるかもしれない。こうした印刷物の小売化が何を意味するのかを考えてみたい。
 まず、商品を販売する際のスタイルは大きく3つに分かれる。相手を見て値段を変えることができる「対人販売」。従来の印刷業界のスタイルがこれだ。相手によって値段を変えたことがない、という人を私は見たことがない。全体的に「初めての取引では利益を減らして、長い付き合いの中で稼がせてもらう」という意識が染みついている。この対人販売の性質は属人性が高いという点だ。売れる人は売れる、売れない人は売れない。別に印刷業界だけではない。機械メーカーやデザイン制作だって同じだ。単にそうした特徴がある、ということだ。
 次に「正札販売」という販売スタイルがある。これは商品に値札を付け、誰でもその値札を見ればすぐに商品の価格が分かるというものだ。通常の流通小売から通販まで、いまやどこでも見ることができる。商品の値段が決まっているからお客様はその値段で納得して購買活動を行う。スーパーのレジで値引きを要求しているような人はいないだろう。既に値段が明らかで、お客様は納得しているから誰でも売ることができる。現在の印刷通販はこの段階にある。営業マンが必要ないため販売価格を下げることもできた。全国を対象とし、商売の規模が大きくなるほど仕入れのボリュームも増え、1点あたりの経費を削減することもできる。ただ、その商品を売る「通販」という仕組みが必要だ。
 販売スタイルにはまだ次がある。それは「自動販売」だ。自動販売機というだけで皆さんイメージできる飲料の自動販売機、これは既に人手すら必要ない。お客様が商品を選び、お金を入れるだけ。それだけで商品が出てくる。印刷通販はまだ正札販売の段階にあるが、今後、自動販売に移っていく企業が出てくるだろう。そうすることでさらに安い価格を実現するようになる。今はまだ実現不可能かもしれないが、10年以内には実現しているかもしれない。
 こうした販売スタイルをもとに考えると、我々の業界は生まれてからずっと、対人販売のまま来ていたことが分かる。それが悪いことだとは言わないが、新しい販売スタイルが出てきた今、今までと同じではいけないのだ。

印刷通販は敵か味方か

 印刷通販についてどう思うか尋ねられることが多いが、印刷通販というのはあくまで業態である。それ単独でビジネスをしている印刷会社もあれば、従来通りの営業スタイルと合わせて印刷通販を展開している企業もある。確かに印刷物の値段は印刷通販の登場によって格段に安くなった。しかし、ユーザーがそれを支持しなければここまで拡大することはなかっただろう。消費者はいつの時代も安くてある程度よいものを求めている。そういう意味では印刷通販はイノベーションであり、これをどう捉えるかは各社次第だ。「敵」と捉えるのであれば、そうした印刷通販と比較された際に、明らかな強みを持っておく必要がある。それをどう作り上げるかは各社次第だ。
 少なくとも私は業界にとってプラスになると考えている。印刷通販によって価格競争はさらに進むだろう。そこ(価格)で競争する会社もあれば、そこでは競争したくないという会社も出てくる。そうした会社は今までとは違ったサービスを生み出し、自社と付き合う価値を伝えなければ生き残ることができなくなってくる。今の印刷業界では、まだまだ「価値を伝える」ことができている印刷会社は少ない。印刷通販の登場によって、明確に自社の価値を打ち出す必要が生まれてくる。業界の再編にも繋がるのではないかと考えている。



奥 敦雄 氏

奥 氏 ​株式会社MCC代表取締役。大学卒業後、船井総合研究所に入社。印刷業界をコンサルティング領域として研鑽を積む。2009年独立後も一貫して印刷業界に対してコンサルティングを行っている。近年はコンサルティング以外にも実務面のサポートとしてホームページの制作、イベント「印刷EXPO」の開催、印刷通販のクチコミサイト「PrinG」の運営など様々な分野において印刷業界の活性化を行っている。講演・執筆実績多数。
※運営サイト「印刷会社経営.com」にて業界誌に対する過去の寄稿を掲載。Twitterアカウント:MCC_oku