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 コロナ禍の印刷経営において、まず短期的に取り組むべき課題を「製造コスト、固定費削減」と指摘する日本アグフア・ゲバルト(株)の岡本勝弘社長。昨年もアズーラ速乾印刷やプリプレスのファクトリーオートメーション化など、独自のコスト削減ソリューションで成果を上げた。そして「7割経済」が現実のものになりつつある今年、「中長期的な視点による、最悪の状況を想定したコスト運営、経営プラン再構築」の必要性を訴え、「プランB」で顧客の新たな経営基盤構築をサポートしていく方針を打ち出している。そこで今回、岡本社長にインタビューし、その背景と具体的なソリューションについて聞いた。

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「プランB」で「7割経済」に立ち向かう 〜 短期課題は「コスト削減」
日本アグフア・ゲバルト 岡本勝弘社長に聞く

機上現像とガム処理UVプレート上市へ

印刷ジャーナル 2021年1月1日号掲載

岡本 社長


コロナ禍でまず取り組むべき課題


 昨年2月のpage2020の会場での会話では「対岸の火事」だった新型コロナウイルスも瞬く間に世界に広がり、例外なく日本の印刷業界も大きな打撃を受けた。

 昨年末の印刷業界の売上を見てみると、平均して2〜3割程度ダウンしている。まさしく私が危惧していた「7割経済」が現実のものになりつつある。印刷組合によるレポートを見ても、7月から9月くらいにかけて約40%の印刷会社が赤字に陥っており、非常に苦しい経営環境に晒された年だった。もちろん印刷業界とともに歩むアグフアも大きくその影響を受けている。

 しかし、そんな中でも当社では良いニュースもあった。我々が提唱しているファクトーオートメーション製品、とくにパレットローディングシステム「エキスパート・ローダー」が、このコロナ禍でも台数を伸ばしており、今年早々にも納入20台を突破する予定である。

 この「7割経済」の中で、銀行からの資金調達や政府の助成金を活用している印刷会社も多いと思うが、一方で、目先の売上をすぐにV字回復させるような経営プランは存在しない。ならば「新しいビジネスモデルを立ち上げて収益を上げよう」、それも簡単ではない。結果、目先の製造コスト、固定費を如何に削減して利益を捻出するかが短期的に取り組むべき課題だと思う。我々が発するそういうメッセージを受け止め、うまく行動を起こしたお客様がエキスパート・ローダーを導入している。やはり企業規模の大きな会社が多く、これら企業に導入効果をヒヤリングして、近々その結果を公開したいと考えている。

 やはり、このコロナ禍でまず行動すべきことは、固定費の削減になると考える。システムによって自動化できる部分は自動化して人的コストを削減していくことが大事だと考えている。今まで複数名で行っていた作業をシステムに置き換えるといった一つ一つの行動が結果的に固定費の削減につながる。

通常、版の装填作業は男性2名で行うケースが多いが、エキスパート・ローダーを導入したある印刷会社では、それを女性1名で対応できるようになった。導入効果がすぐに数字で表れる点もエキスパート・ローダーの引き合いが増えている理由でもある。また一度に1,200版搭載のパレットが搭載でき、長時間のCTP無人運転が可能な部分も評価が高い。

 一方、昨年10月には(株)朝日新聞社100%出資の印刷会社である(株)朝日プリンテック(本社/東京都中央区築地5-3-2、尾形俊三社長)への新聞印刷業界で初となるクラウドワークフロー「アポジー・クラウド」納入を発表させていただいたが、これも爆発的ではないものの、徐々に需要が増えつつあり、昨年はクラウド上で処理したジョブ数が国内120万ジョブを突破している。これはかなりの量である。すでに広く普及しているクラウド技術だが、やはり新しい技術として「眉唾物」だったお客様も多かったのは事実。これだけの実績が出てきている以上、我々も積極的に訴求していきたいと考えている。

 さらに、我々が提唱するプリプレスのファクトリーオートメーション化においても、プレートの版曲げから印刷機ごとの自動振り分けを可能にする「プレート・トランスポーテーション・システム(PTS)」を新規で納入させていただいた。この会社では、処理量も多いためエキスパート・ローダーも2台導入し、2,400版を搭載できるようになっており、刷版室は真っ暗で人がいない。人が介在しないことのメリットはもちろんだが、工場内での人の滞在時間を減らすことで、コロナの感染リスクを抑えることができるため、Withコロナ時代にマッチしたソリューションとして注目を集めつつある。

 また、人的コスト削減だけでなく、「製造コスト削減」という面においてアズーラの新規採用も伸びた。速乾印刷によるインキマイレージ低減(=コストダウン)をはじめ、生産性向上、パウダー使用量低減による現場環境の改善など、大きな投資を必要とせずに多くのメリットをもたらすアズーラへの注目度が改めて高まった年だったと言える。

 印刷会社の経営者が短期的にできることは、如何に固定費を削減して、材料費を削減しながら同じ物を作れるようにして利益を捻出していくか。これがまず手をつけるべきことだと思う。来年も融資を受けられるか、助成金がいつまで出るのか、いつコロナが終息するのか。これらを考えると、「プランB」として最悪の状況を想定したコスト運営、経営プランを立てておかないと、中長期的に生き残っていけない。そういった面で、当社のソリューションを採用し、コスト削減を目指す会社が増えていると改めて感じている。


新プレート2種類発表へ


 これまで、アズーラをメインに販売してきた当社だが、今年はpage2021でいくつかの新製品を発表する予定である。

 まず、2種類のプレートを発表する。これまでも技術発表していたものだが、ひとつは機上現像処理タイプの「エクリプス」。これはUV印刷に対応し、機上処理タイプのプレートで課題とされていた視認性を高めた製品である。

 もうひとつは、ガム洗浄タイプとしてUV対応の「アダマス」を発表する。UVでの耐刷性を高めたもので、定評のあるガム洗浄タイプのアズーラとの並行販売となる。

UV対応ガム洗浄タイププレート「アダマス」

 我々がマーケティングした結果、アルカリ現像を維持したい印刷会社はほとんどない。そうするとガム洗浄か機上現像か。そこで印刷機に与える影響を嫌う印刷会社にはガム洗浄タイプの「アズーラ」、さらにUV適正が必要ならば「アダマス」、逆にガム洗浄装置を置きたくない印刷会社には「エクリプス」といったように提案していく。つまり、アルカリ、機上、ガムの3タイプを有する唯一の刷版メーカーとして、そのメリット/デメリットを明確に伝えながら、ユーザーのニーズや環境に応じた製品を提案できる体制が整うことになる。


インクジェットは2桁成長、アズーラ新規採用伸びる


 また、当社の成長ビジネスのひとつでもあるインクジェット事業は昨年、2桁成長を達成した。我々の事業の中でも大きく伸びている分野で、これはコロナ禍でも影響を受けていないと言える。今年もすでに数件の大型機納入が決まっており、案件も積み上がっている状況である。市場自体は、商業印刷というより、やはり産業用途向けの印刷会社の設備投資意欲が旺盛で、サインディスプレイ関係やシルクスクリーンの特殊印刷を手掛ける会社などが多い。ハイエンドフラットベッドUVインクジェットプリンタ「JETI MIRA」や多機能ワイドフォーマットUVインクジェットプリンタ「アナプルナ」を中心に、展示会への出展で新規顧客の獲得もあったが、多くがお客様間での口コミで認知が広がった部分も大きく、これが2019年に引き続きブレイクスルーした最大の理由かもしれない。

 また、商業印刷分野で新たな事業としてUVインクジェットを活用した成功事例がでてきている。商業印刷の会社は、制作、DTP、いわゆるデータのハンドリングに強みがあるため、それを活かしてアウトプットをオフセットとインクジェットに振り分けて展開することで収益を上げていくことができる。弊社のインクジェットのお客様である佐川印刷(株)(本社/愛媛県松山市問屋町6-21、佐川正純社長)は、とくにJETI MIRA搭載の白インクやニスインクの機能を活用することで魚の部位の凹凸をリアルに表現した「さかなのカレンダー」が、世界的なFESPAのアワードで2つの金賞を獲得した。我々にとっても嬉しいニュースだった。

 このように、ワイドフォーマットプレスの販売が好調なのに加え、インク使用量が多い建装材向けも好調なことから、インクの製造キャパシティも増強しており、アグフアとしても重要なビジネスにさらに成長している。

 一方、インクジェット分野では、大型機2製品を日本で正式にリリースする。まず、全自動のロール/シート高生産ハイブリッド機「JETI TAURO」は、A倍以上の大判オフセット印刷機、あるいはフレキソ印刷機の置き換えとして訴求していく。

 もうひとつが、アナプルナのハイエンドモデルと位置付けられる「OBERON」。これは3.3m幅のロール専用機で、アナプルナとの並行販売となる。

全自動の高生産機「JETI TAURO」


インクジェット分野でも「工場長サミット」企画へ


 今年も我々のソリューション提案はもちろんだが、アグフアが持つワールドワイドのネットワークを活かして海外の成功事例をはじめとした情報を提供し、お客様のビジネスチャンスのきっかけづくりに貢献できればと考えている。短期的にはコスト削減、さらに中長期的な経営プランについても参考になるビジネスモデルを海外の事例として配信していきたい。

 一方、昨年は「非接触」を強いられる中で、デモやオープンハウスの機会が限定されたが、Webカメラを使ったオンラインデモの環境を整備し、ベルギー本社と繋いで実施することも多かった。とくにインクジェット分野で一定の成果を上げたので、今年も引き続き積極的に実施する。また、今年はリアルなユーザー会の開催も難しいだろう。これについてもオンラインを活用しながらスムースな情報提供を目指したい。

 さらに、我々が一昨年から実施している「工場長サミット」についても新たな展開を考えている。これは「工場の改善で印刷会社全体の変革を目指す」という同じ志を持つ印刷会社が集まり、アズーラ速乾印刷について議論する場としてスタートしたものだが、これをさらにセグメント化して定期的に開催する。さらにインクジェット分野でも参加希望の声が多く、同様の試みを考えている。「工場長サミット」は、BCPにも繋がる取り組みであるのと同時に、既存ユーザーの満足度を向上させる取り組みとして今年も注力していきたいと考えている。


                ◇         ◇


 前述の通り、今年は中長期的な視点で、最悪の状況を想定したコスト運営、経営プランを立てていく必要がある。アグフアはお客様がこの「プランB」で新たな経営基盤を構築していくお手伝いができればと考えている。お客様とともにこの「プランB」を策定し、それに対応する幅広いソリューションを提案していく。